最後
「花火いこ!!」
彼女はまるでそれが人生で1番楽しいことのようにそう言った。
「朝は一緒に場所取りをして、花火が始まるちょっと前に行って、屋台見てからそこで座ってみるの!あと、浴衣も着たいなぁ。着てきてね!持ってる?私、彼氏と花火見にいくの初めてだから本当に楽しみ。」
嬉しそうな彼女を見ていると、本当にこのイベントが世界で1番楽しいことのように感じてきた。とてもワクワクする。
しかし、一つだけ引っかかることがあった。浴衣だ。
浴衣、あった気がする。
しかしそれは2年前に元カノと行ったときのものだ。これを伝えたら彼女は悲しむだろうか。
浴衣に元カノとの思い出が詰まっている訳ではないが、同じものを着ると、少々気が引けるのは、なぜだろう。
「持ってるなら無理して新しいの、買わなくていいからね。別に浴衣に意味がある訳じゃないし。しかも、彼女変わるたびに浴衣買ってたら、浴衣屋の人に顔覚えられちゃうしね。
私はあなたと一緒に行けたら、それでいい。」
彼女はまるで僕の心の中を見透かしたかのようにそう言った。ただ、気のせいかな。話している時の彼女の顔はどこか物憂げであった。やっぱり少しは寂しく感じているのかもしれない。
しかし僕はお言葉に甘えて、同じものを着ることにした。2年前に花火一回行った時に着たきりだし、10000円以上もする衣類なんて、私服ですら買わない。
「浴衣はごめんね、でもすごい楽しみ!」
そう言うしかなかった。
「気にしないで。そのかわり、うちわでずっと私を仰いでてね。」
彼女は笑ってそう言った。
その顔を見ていると、可愛いと思うと同時に胸はチクリと痛むのだった。
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