観察と模倣の力:バンデューラのモデリング理論を活かす教育の在り方

レトリカ教採学院(教採塾)、学院長の川上です。

本日も、教職教養の知識教養を、教育現場の実践事例とともに、お届けしていきます。



バンデューラのモデリング(観察学習)とは

バンデューラのモデリング(観察学習)とは、個人が他者の行動を観察し、その行動を模倣することで学習するプロセスです。
 
この理論はアルバート・バンデューラによって提唱され、社会的学習理論の一部を形成しています。
 
モデリングは、直接的な体験による学習とは異なり、他者の行動やその結果を見ることで学びを得るため、間接的な学習と呼ばれることもあります。
 
バンデューラは、観察学習が成立するためには4つの過程が必要であると述べています:

 
1. 注意過程(Attention):

学習者はモデル(他者)の行動に注意を向ける必要があります。
 
モデルが魅力的であったり、権威があると、注意が引かれやすくなります。

 

2. 保持過程(Retention):

観察した行動を記憶し、その後模倣できるようにするためには、学習者はその行動を心の中に保持する必要があります。
 
行動を記憶することで、後にその行動を再現できるようになります。

 

3. 再生過程(Reproduction):

 記憶した行動を実際に模倣する段階です。
 
ここでは、観察した行動を正確に再現できる身体的な能力やスキルが必要です。
 

4. 動機付け過程(Motivation):

学習者がその行動を実際に行うための動機付けが必要です。
 
報酬や賞賛、あるいは罰を避けるための動機などが関与します。
 
観察した行動の結果がポジティブなものである場合、模倣する可能性が高まります。
 
バンデューラのモデリングの有名な実験の一つに、ボボ人形実験があります。
 
この実験では、子供たちが大人が攻撃的に人形を扱う様子を観察した後、同じように攻撃的な行動をとることが確認されました。
 
この実験は、モデリングが社会的行動の形成においてどれほど強力であるかを示しています。
 
教育現場では、教師が良いモデルとして行動することで、子供の学習や行動に影響を与えることができます。
 
また、他の子供の成功事例や協力的な行動を観察させることで、ポジティブな学習環境を構築するのにも役立ちます。
 

バンデューラのモデリング理論を日本の学校教育に活用する方向性と方法


バンデューラのモデリング理論を日本の学校教育に活用する方向性と方法は、社会的学習や人間関係の構築を通じて、児童・生徒の発達を支援する上で非常に効果的です。
 
以下に、その方向性と具体的な方法を論じます。
 

1. 教師が模範となる行動を示す

教師自身がモデリングの重要な存在であることは、日本の学校教育において特に強調されるべきです。
 
児童・生徒は教師の行動、態度、問題解決方法を観察し、学びます。
 
以下のような形でモデリングが活用できます。
 
社会的スキルのモデル:
教師はクラス内でのコミュニケーション、協調的な行動、問題解決のスキルを日常の中で実践し、児童・生徒に示すことが重要です。
 
これにより、児童・生徒は、社会的な対話や共感の仕方を学ぶことができます。
 
学習態度のモデル:
 教師が自主的に学び続ける姿勢や、困難に直面しても諦めず挑戦する態度を見せることで、児童・生徒にもポジティブな学習態度を促します。
 
特に、日本の教育文化では努力の重要性が強調されており、教師の努力が、児童・生徒の行動に強い影響を与えることが期待されます。
 

2. 児童・生徒間のピアモデリング

児童・生徒同士が良い行動モデルとして、お互いに学び合う環境を整えることも有効です。
 
モデリング理論に基づくピアモデリングの活用は、次のような方向性があります。
 
協働学習:
 
児童・生徒がチームで取り組む授業形式(協働学習)を積極的に導入し、互いのスキルや知識を観察して学べる機会を提供します。
 
特に、協働学習ではリーダーシップや問題解決能力を持つ児童・生徒が、他の児童・生徒にとってモデルとして機能し、全体の学習を促進します。
 

ロールモデル制度:
 
先輩の児童・生徒が、後輩の児童・生徒に、学習や行動の面で助言や指導を行う「ピアサポート」制度を導入し、年齢の近い子供同士で学び合う仕組みを構築します。
 
特に、中学や高校の部活動では、先輩が後輩に技術や心構えを示し、自然にモデリングが行われることが多いです。
 

3. メディアによるモデリング

現代の教育環境では、デジタルメディアを通じてモデリングを行う方法もあります。
 
以下のように、メディアを利用したモデリングを導入することが可能です。
 
教育映像やデジタル教材:
 
教材の中に、適切な社会的行動や学習手法を取り入れたビデオやアニメーションを使用し、児童・生徒に観察学習の機会を提供します。
 
例えば、科学的な実験方法や歴史的な事象に対する、批判的な考え方を示す映像教材は、具体的な手本を児童・生徒に示すことができ、理解を深める手助けになります。
 
エデュテイメント:
 
エンターテインメント性の高い教材(エデュテイメント)を通じて、ポジティブな価値観や問題解決スキルを児童・生徒に教えることが可能です。
 
たとえば、ゲーム形式の教材や、実際の社会問題に取り組むシミュレーションを使用することで、効果的なモデリングを行うことができます。
 

4. 反省的なモデリングの活用 

モデリングのもう一つの重要な応用は、児童・生徒自身に対して自己モデル化を行わせることです。
 
つまり、自分の行動や学習プロセスを観察し、それを改善するためのフィードバックを行う方法です。
 
反省的な自己モデリングを取り入れることも推奨されます。
 
自己評価と目標設定:
 
児童・生徒に自己評価や自己観察のスキルを身につけさせることは、将来の自主的な学習に繋がります。
 
具体的には、教師が児童・生徒に、自分の行動や学習の進捗を振り返り、次にどう行動すべきかを考えさせる時間を設けることが重要です。
 
ポートフォリオの活用:
 
自分の学習成果や取り組みを記録し、定期的に見直すことで、児童・生徒は自分の成長を観察することができ、将来的なモデルとしての自分を構築できます。
 

結論

バンデューラのモデリング理論は、学校教育において、教師の行動モデル、児童・生徒間のピアモデリング、デジタルメディアの活用、そして反省的な学習方法の導入を通じて、社会的スキルや学習効果の向上に役立てることができます。
 
教師は児童・生徒に対して、常に模範となる行動を示し、さらに児童・生徒同士の学び合いを促進することで、より効果的な教育環境を提供することができます。
 
 ではまた!

レトリカ教採学院(教採塾)
学院長
川上貴裕

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