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知識の記録方式(32) 事例の蓄積

 エンジニアリングとは過去の知識、事例の記憶とその選択、組合せにより実現したい課題を解決する業務と定義している。この点で、エンジニアリングはITの活用が可能である。しかし、多くの課題はその要素の単位が異なることの組合せであるがために、その課題を解く数式を持ち得ない仕事となっている。
 例えば、燃費向上に於いて車の重量軽減という方針で検討する際、重量を軽減する材料をアルミや複合材料を選択して評価するにも、その材料の値段や車体の成形技術のレベルにより加工費が変化する。その時点で求めた材料費と加工費の増加コストが燃費向上分と天秤に掛け、意味のあることかどうかを意思決定する必要がある。
 このようなある時点での製造、加工技術により、その時点での製品性能の採否を決定する業務であるために、過去を振り返ってみると、今の製造、加工技術を用いることによって、過去の意思決定とは異なる決定が下されることが日常的である。つまり、技術はその時点での知識であり、その時点での経験である。
 したがって、技術進歩を行うには、過去の知識を知った上で、今の技術から、これから必要となる技術課題を捉えることが必要である。
 しかしながら、過去の知識今の技術を企業はどのように把握し、企業の財産とすることができているかは、全く不十分なレベルであると言わざるを得ない。企業の中でものづくり知識を共有することで、よりスピーディな意思決定とより正しい判断が行えるエンジニアリング環境となるはずである。
 特許を取得するためには、過去の特許調査に始まる。知識の調査の上に請求項が特定される。これと同じことが、エンジニアリングに於いても必要でありこのことがスピーディーに誰でも行うことができなければいけない。調査という仕事はエンジニアに必須の業務となっている。
 しかしながら、企業の中では、いつも調査からスタートすることが多いのではないだろうか。これは技術そのものの蓄積の方法が特許という形式でしか行われているいないからであり、企業内の技術の蓄積の方法を経営者はもっと真剣に考えるべきである。
 DXという言葉に振り回されずに、エンジニアリングの業務とは何をどのように行うべきかを考えれば、やるべきことは明確で、その概念は、ものづくり企業に共通であるはずだ。このような概念を明確に説明するシステム企業が存在しているのだろうか?そこが日本のIT活用の問題である。IoTデバイスやセンサー、箱売りだけでは進まないはずだ。
 知識の蓄積の方法としては、事例の記憶とその選択組み合わせにより実現することが必要である。事例とは企業において、各組織の機能により、対象となる事例は異なる。また、事例の説明の範囲も各組織の機能範囲に限定されることになる。一般的にこの機能範囲は重なっていることは少なく、どちらかと言えば、効率化のために、重複のないように機能範囲を業務分掌で定義することになる。ここに各組織の機能が接続の難しさの原因となっている。
 この接続を人のコミュニケーションにて相互に理解し、それぞれの組織機能に必要なことだけを解釈しあい、その結果をその組織にての結論とする仕組みとなってしまっている。
 エンジニアリングにITを導入する難しさがここにある。したがって、事例の記憶の為の記述方法にこの人のコミュニケーションにて処理されている知らない情報部分を得る工夫が必要となるのである。
 

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