本当にはじめての人が読むバリュエーション入門③PSRとPER
最近はPSRという指標が流行っています。正直私自身は使ったこともない指標なのですが(DCFはPSRも含めた万能手法だからです)
PSR=時価総額/売上高
PER=時価総額/(売上高×利益率)
PSR=PER×利益率
ということになります。でもこれを見てもいまいちすっきりしないと思いますので、「イメージ」と重ねることで、理解を深めていきましょう。
注意)今回も「利益」を株価に変換していきますが、これは厳密には間違いで、配当やFCFを使うべきです。DCFを極めた暁には、ああまあ大体合ってるね、となるのですが、一応PL上の利益から直接株価を求めるのは王道ではないことは頭の片隅にいれておいてください。
準備体操ー2本の線
まずここから始めます。売上高の線がなければ前回のイメージと同じです。(見せ方の問題上、売上の伸びが遅いですが、右肩上がりで一定速度になっています)
この利益の部分を右上からつぶしたのが右の図です。このイメージがすごい大事ですからね。さてPSRを考えていくので、この図の中でPSRがどこにあるか確認しましょう。
PSR=P/S, PER=P/Eですので、Pは共通しています。最初の点(SとE)に対して、面積Pがどれくらい大きいか示すのがPSR/PERです。
Pは面積のことで、「将来すべて」の事象が入っています。それを、ただの「点」で割るのです。いかにPER/PSRが使いにくい指標だか理解していただけたでしょうか。
いくつかの比較を通じて理解を進めていきましょう。
①売上高成長率
②利益率
③リスク
の3つの視点を変化させることで、PSRとPERがどのように計算されているかイメージがわかるようになります。
比較1ー売上成長率の違い⇒PER/PSRに影響
マルチプルを計算するとき、発射台の高さは常に同じですから、面積のほうだけに注目しましょう。そうすれば当然、成長スピードが速いほうが面積が大きくなって、マルチプルも高くなります。PSRとPERともに同じ傾向を示します。上の図の中の、マルチプルを縦に見てみると、利益率が出てきます。両方とも50%です。これは当たり前で、割る数が半分(売上100に対して利益50)なので答えもその分ずれますよ、というお話。
比較2-利益率の違い⇒PERには影響せず
ここで面白いことが起きます。PERは同じである一方、PSRは大きな差がついています。まずPERが同じである理由を見てみましょう。
つぶす前の利益を見てみるとこれは明らかです。売上高が同じペースで上がっている中で、利益はそれに一定の利益率を掛けただけなので、同じスピードで増えていきます。
左側の図では最初が利益30からスタートしていますので、その分面積が小さくなります。右側は50ですので、ちょうど3/5になってしまうのです。しかし、発射台の利益水準も同じだけ違うので割り算をすることでなくなってしまいます。これが利益率が違ってもPERは同じになる計算上の背景です。昔、相似ってやりましたよね。サイズは違うけど形は同じ。それに近いです。
次にPSRが異なる理由を見てみましょう。「利益は発射台が違うので、割り算すると消えてしまう」というロジックはPSRには使えません。なぜなら、「売上は同じ」だからです。面積の違いを吸収するための違いがありません。その結果、PSRは異なった値になります。
これは本質的には何を意味しているのでしょうか。私は、
売上は企業価値の源泉ではない
ということに尽きると思います。この例でPERが同じになるのは、利益自体が企業価値に直結しているので、利益で割れば「利益規模」の要素が消えるためです。それを、直接企業価値と関係のない売上高で割ってしまうと、答えに「利益率」という不純物が入ってしまいます。
利益率が違う企業のPSRを比べても何の意味もない
という1つの重要な結論がでますが、これって致命的じゃないですか?利益率なんて違うにきまってます。たとえば、利益率が20%と15%では25%も違います。そんなにずれたら使い物になりませんよね。赤字グロース企業においても、何年で黒字化するのか、その時の利益率はどの程度か、ということを考えないとバリュエーションはできません。
比較3ーリスクの違い⇒PER/PSRに影響
のこった視点の1つがリスクです。これは具体的には割引率に影響します。またの名を要求収益率とか期待リターンとか言ったりします。混乱しやすいので、しつくこく書きますが、これは「あなたがリスクに応じて投資対象から得たい年率リターン」のことです。「この株は50%はあがると思う!」というのは”期待リターン違い”です。
リスクの違いは、成長率の違いに似ています。同じスタート地点に対して面積が大きくなるので、右側の低リスク企業ではPERもPSRも高くなります。
まとめ
このnoteではPERとPSRを、DCFのイメージに紐づけて説明しました。この3つの視点は、どんな銘柄を比べる時も有効です。特に成長率とリスク。この2つでPERが決まっていると考えてください。