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Prof.DamodaranのSP500に対する割引率推定

割引率推定はDCF法における永遠のテーマです。世の中的にはどうなっているのか、、、ということで表題にあるProfessor Aswath Damodaran氏の研究成果を紐解いてみます。この方、本源的企業価値評価の第一人者ですが、すごいのはSP500のインプライド割引率を毎月更新・公開しています。今日はHPにおいてあるエクセルの読み方、手法、理論的背景を整理します。

インプライドとは

日本語ではよく”示唆される~”と訳されます。そのまま使う例としては、インプライドボラティリティがあります。これは、オプションの価格から逆算したボラティリティですが、似たような例は山ほどあります。「インプライド」とは、”逆算すると”という意味です。示唆するという日本語はややニュアンスが違う気が。。。

A×B=C のとき、AとCが分かっていれば、
B=C/A で計算できます。このBはCがインプライドするBです

金融商品に関してこの言葉がよく出てくるのは、おそらく答えである”市場価格”が先に来て、その構成要素(決定要素)であるABなどがむしろ分からないからでしょう。

Aという構成要素は(ほぼ)数値が分かっているが、Bは分からない。答えである市場価格Cは観察できる。では逆算すると(だいたい)Bが分かるよね、といった具合です。

例えば、PERもそうでしょう。EPS×PER=株価ですが、EPSは企業のガイダンスやアナリストコンセンサスなどで大体わかります(もちろんリアルタイムには分かりません。ニュースが出て株価が上がった場合、それがEPSにはねるには時間がかかるし、完璧なコンセンサス数値は手に入りません。)。そこで、株価/EPSをすることでPERを算出するわけですが、これはインプライドです。

もっとも簡単なDCFの公式は

EV=FCF/(r-g)

ですから、インプットである
①FCF
②r
③g
のうちどれか2つを決めれば、残りは”インプライ”されます。EVは時価総額とネット負債の合計ですから、所与のものとしてOKです。

エクセルファイルの構成

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ちょっと細かいですが、順に説明していきます。

①実績の利益
これは単純な実績ですね。ただの直接インプット(計算ではなく手打ち数値男)です。

②今後5年の成長率
裏シートの複数のソースから選べるようになってます。これも直接のインプットですので適切なソースから取ってくるしかないやつです。ただ実はこれ、3年間の予想利益をとってきて、⑦の1.58%(トレジャリー金利)で2年分伸ばしています。別に3年モデルでやっても結果は変わりません。伸ばしたうえで、CAGRに直しています。1-3年は高成長、4-5年は低成長で、幾何平均したものを②としています。

②'成長率(②)から作った収益見通し

③無リスク金利=長期成長率
USトレジャリー金利(10年名目金利=インフレ含むリスクフリーレート)です。このモデルの特徴は、予想期間終了後に、すべての企業の成長率は無リスク金利=国としての潜在成長率とインフレ率の和に落ち着くという仮定です。この前提は非常に重要です。これをベースに割引率を逆算していくからです。逆に言えば、この数字を5%と置けば割引率はもっと大きくなりますので、常々書いていますが長期成長率と割引率はセットで考えることが重要です。

③'予想期間最終年の翌年収益
これは最終年度の収益に(1+長期金利)をかけて作っています。5年後以降は金利分しか成長しないということです。この数字がなぜ必要かというと、ターミナルバリューの公式はcashflow/(r-g)ですが、この分子は翌年度の数字を使わなくてはいけません。これはただの算数の問題で、公式を導くとこうなります。ターミナル年は5年目ですから、6年目の収益が必要になります。

④株主還元(配当+自社株買い)
これも実績の配当と自社株買いですね。過去4Q合計(LTM;last twelve month)の数字を取っているようです。この数字の意義は、利益をキャッシュフロー(株主還元)に変換して、配当割引モデルの形にするところにあります。

⑤株主還元(予測最終年度)
あまり実績の数字と変わらないのでわかりにくいですが、これは理論的な総還元性向を意味します。裏シートで長期成長率(長期金利)/ROEをしています。これはどういう意味でしょうか。ROEは株主資本に対する純利益の割合、すなわち株主資本リターンを表しますが、もう1つ重要な見方があります。それが資本の成長速度です。E(株主資本)×ROE=R(利益)ですが、RはEに再度加算されます。ぐるぐる回るのです。すると、例えばROEが10%のとき、前期資本に、その10%の利益を加えると、当期資本になるわけですから成長率は10%です。ROEは資本の成長率を表すことが分かります。そして、還元とは、このROEによる複利回転から資金を抜く=成長率を下げるということを意味します。したがって、1-成長率/ROE=リターンのうち成長に不要な分=理論的な総還元性向となります。これが実績と変わらないというのは驚きです。

⑥キャッシュフロー
②'×⑤で作った数列。これを割り引いて適正株価を求めます。

⑦ターミナルバリュー
6年目以降のすべてのキャッシュフローの価値を5年目に寄せたものです。5年目時点の価値なので、さらに現時点まで割り引く必要がある点に注意です。

⑧割引率
画像の下方には似たようなボックスが2つありますよね。上は割引率⇒適正株価を求めたもの、下は現株価⇒インプライド割引率を求めるものです。ここではまず、上段の、割引率を決めて適正株価を出す、というプロセスに使う割引率を示しています。
数字としては1.58%+5.0%になっています。これはERP(株式リスクプレミアム)が5%で、総割引率が6.58%ということです。

⑨目標株価
これまで計算したものを使って最終的に株価の形に直したものがこれです。

⑩逆算に使う適正株価
割引率を逆算する際に、⑪の現株価とこの項目が一致することを条件にゴールシークをかけます。ゴールシークとは、ちょうどいいポイントを探すための機能です。Aを入力するとBが出力されるとします。B=Cにしたいとき、D=B-Cのセルをつくり、D=0になるという条件のもとAを機械計算で逆算します。

⑪逆算された割引率
長くなりましたが、やっとここまできました。大きな構図としては、
・収益予想からキャッシュフロー予想(還元予想)をつくり
・その現在価値が現状の株価に一致するように
・割引率を決めます

結果の解釈

先生のフレームワークでは、r=金利+ERP、g=金利になっています。ということは、バリュエーションの基礎公式は以下のように表されます。

FCF/(r-g)=FCF/(金利+ERP-金利)=FCF/ERP

株のようなキャッシュフローが成長する資産のバリュエーションにおいては、割引率に成長率が含まれています。これは当たり前で、割引率=要求リターンですから、リスクフリーで得られる成長率は、まず当然要求します。その上で、株式に投資することの報酬を要求するわけです。計算上、rとgの差分がその報酬部分として残ります。この差分をERP(株式リスクプレミアム=総株式リスクーリスクフリーレート)と呼ぶわけです。

Damodaran先生の計算によれば
・割引率r=1.58%+4.24%=5.82%
・成長率g=1.58%
・Pat out Ratio=88%

ですから、細かいことを置いておくと
・EPS×88%/(5.82%-1.58%)=株価
・株価/EPS=PER=20.8x

ということも言えます。

このPERは成長率が1.58%に落ちる6年目以降に適用されます。その時点のEPSを掛け算すれば、その時点の目標株価が得られます。気を付けないといけないのは、その方法で株価を計算する場合、1-5年目に生み出されるキャッシュフローも株価に加えることです。なぜなら、当たり前ですが今投資すれば配当をもらう権利があるし、もし配当を出さなければそのぶん保有現金が増えて企業価値にプラスだからです。どう払い出すかはあまり問題ではなく、生み出される価値をもれなく捉えることが重要です。

よくDCFmonsterの長期成長率は高すぎるという指摘を受けますが、別に下げても全く問題ありません。ただ、その場合は割引率も下がることを気を付けてください。

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