第5回:猫でたとえる「ことば」 のチカラ
今回の話し手:
入社7年目の企画制作ディレクター。猫が大好き。
はじめに
デザインを「伝わる」ものにするために、「ことば」は視覚的な要素と同じくらい大切と考えています。
今回は、私の愛猫の話を例文に、「ことば」に着目してお話ししたいと思います。
「伝わる」ってどういうこと?
ことばについて考える前に、まずは「伝わる」について整理してみます。
第1回や第2回で取り上げたように、「伝える」デザイン(⇒一方的なコミュニケーション)を脱却し、「伝わる」デザイン(⇒双方的なコミュニケーション)にするためには、相手の視点に立って考えることが大切です。
「伝える」と「伝わる」のちがい
「伝える」は相手に情報を届ける行為を表します。このことばの主体は、行為をしている“自分”です。伝えたからといって、情報が自分の伝えたい通りに受け取られて(=理解されて)いるとは限りません。
▽伝える
一方、「伝わる」はその情報が受け取られた状態を表します。相手が受け取って(=理解して)くれることで、はじめて成り立つことばです。
▽伝わる
「伝わる」の実現は相手の理解があってこそ。
そのためには、「相手」のことを第一に考える必要があるのです。
相手の視点に立ってみてわかったこと
したがって、私たちは届けたい相手の視点に立つことを大切にしています。
たとえば私の場合は「相手(ユーザーやターゲットなど)」や「状況」、「背景・経緯」などをできる限り想像し、相手になりきって制作したコンテンツをレビューすることで、ブラッシュアップを図っています。(レビューというより、“追体験”という表現の方が近いかもしれません)
また、ディレクター自身によるレビューに加え、実際の生活者を被験者としたユーザーの行動観察調査を行うこともあります。
(生活者のリアルな言動を観察することは、作り手がついつい陥ってしまう“独りよがり”を阻止するためにとても効果的です。ぜひ取り上げてほしいなあ…今後の話し手さん、よろしくお願いします!)
調査を行うたび に痛感するのは、「自分(=作り手)と相手とでは、その情報を理解することへの“熱意”がまるで違う」ということです。
私たち の生活は情報であふれかえっています。
そんななか、目にする情報の一つひとつに時間や労力をかけられないのは当然のこと。
その情報によるベネフィット(=利益)を感じない限り、相手は情報を理解するための熱意を持たない(というか、持つ暇がない)のです。
この状況下で「伝わる」を実現するには、
①直感的に理解できるようにする
②理解するための労力を払うほどの、ベネフィット(=利益)を感じさせる
のいずれかを達成する必要があると考えます。
もちろん、目指したいのは「①直感的に理解できるようにする」こと。
レビューや調査を重ねるなかで、視覚的な要素はもちろんのこと、ライティング(ことば)によっても理解のしやすさに差が出ることがわかりました。「伝わる」デザインには、「ことば」も大切なのです。
「伝わる」ことばを模索する
前置きが長くなりましたが、「伝わる」ことばにするための工夫をご紹介します。
小学校などで文法の授業で習うような基礎的な心がけで、理解のしやすさは変わってきます。
ポイント①
「要旨(要するに何が言いたいのか)」を絞り、
即座に把握できるようにする
▽例
Before
↓一番伝えたい「食事をバラエティ豊かにしてほしい」を、すぐに目に留まるようにする
After
ポイント②
伝えたい情報が複数ある場合は、プライオリティ(優先順位)がわかる構成にする
▽例
プライオリティ(優先順位)がわかる構成に変えて、前の例をブラッシュアップします。
Before
↓伝えたい情報は「食事をバラエティ豊かにしてほしい」、「お水をぬるま湯にしてほしい」、「毛布を出してほしい」の3つ。
一番伝えたい「食事をバラエティ豊かにしてほしい」と、追加の2つを別のまとまりに分けて、強弱をつけた構成にする
After
ポイント③
一文の構造をシンプルにする
これにはいくつか手段があります。
◎一文をできるだけ短くする
不要な修飾語や重複していることばを削り、短くします。
また、1つ の文章に2組以上の主語・述語があると混乱を招くため、なるべく分けます。
▽例:不要な修飾語や重複していることばを削る
Before
↓「6.5キロもあり」は「肥満気味」、「『太い猫用』の」は「低カロリー」で説明に事足りるので削る
After
▽例:文章を2つに分けて、主語・述語を1組にする
Before
↓文章を2つに分ける
After
◎主語と述語を近くに置く
主語と述語が離れていると、要旨がとらえにくくなってしまいます。
▽例
Before
↓主語の「うちの猫」に、述語の「目指している」を近づける
After
◎修飾語と被修飾語の関係を明確にする
修飾語と被修飾語が離れていたり、1つの被修飾語に対して修飾語が複数あったりすると、関係性がとらえにくくなってしまいます。
▽例
Before
↓「なるべく」は「15分以上」、「うちの猫と」は「運動する」にかかっているので、それぞれ近づける
After
◎読点を活用する
読点を打つことで、意味のまとまりがとらえやすくなります。
打ちすぎるとかえって読みづらくなるので、基本的には1つの文に対して2つくらいまでに留めるといいと思います。
▽例
Before
↓「帰りが遅くなっても」は場面を仮定する前置きなので、読点を打ってまとまりを分ける
After
◎指示代名詞を多用しない
「これ/あれ/それ」「この/あの/その」などの指示代名詞は、何を指しているのかを前の文章から探す手間が発生します。
答えが直前にあったり、明確であったりすればすぐに見つけられますが、離れていたり、曖昧だったりすると理解しづらいです。
重複を避けるために指示代名詞を用いたい場合は、名詞を加えて補足すると親切です。
※視覚障がいがあり、音声から情報を得ている方にとって、指示代名詞が多用された文章はとりわけ理解しづらいものとなってしまいます。ユニバーサルデザインの観点からも配慮したい点です。
▽例
Before
↓「それ」とは「猫を肩に乗せて歩くこと」だが、そのまま繰り返すには長いので、名詞「憧れ」を加えて補足する
After
ポイント④
専門用語をなるべく使わない
自分(伝えたい側)は、その情報・分野に詳しい分、無意識に専門用語を使ってしまいがちです。
専門用語の使用は「詳しくて、頼もしそう・信頼できそう」な印象を与える一方で、相手にとっては難解で理解しづらくなってしまいます。
生活者にとって身近なことばに置き換えるか、用いる場合は補足をすると親切です。
▽例
Before
↓「リンクスティップ」は猫の耳先から伸びた毛の名称。「ω(オメガ)」はヒゲが生えているぷっくりした部分の愛称(正式名称は「ウィスカーパッド」)。「猫吸い」は猫のお腹などに顔を埋めて匂いを吸い込んだりすることを指す俗語。猫に詳しくない相手にとっては難解なので、平易な表現に置き換える。
After
その先の「共感」を生むために
以降は、私が今後目指したい「これから」の話。
「伝わる」の先に目指したいのは、「共感」を生むことです。
▽共感を生む
「共感」は、相手が受け取った情報を理解したうえで自分ゴトとしてとらえ、同じ気持ちを感じてくれること。
同じ気持ちはいきなり生まれるものではなく、潜在的な「相手の気持ち」とかみ合ったときに生まれるものだと思います。
たとえば、情報を届けることによって何か(商品やサービスなど)を訴求したいとき。
ただ声を張り上げてその「何か」のメリットを訴えても、相手の共感は得られないのではないでしょうか。
「自分の持っている情報」と「相手の気持ち」の両方が重なる(=気持ち・ニーズに応えられる)部分を見つけ出し、キーワードとしたアプローチをすることで、「共感」を生むことができるのではないだろうか…と考えています。
※もちろん、そもそも相手の気持ちやニーズと合致していない場合は別です。
▽例:猫のペット保険を訴求したいとき
それぞれ上記のような情報・気持ちを持っているとします。
自分(伝えたい側)が特に伝えたいポイントは、おそらく
―――――
・年間の補償限度額内であれば、何度でも保険金を受け取れる
・医療費の何パーセントを補償するか、30%/50%/70%の3つのコースから選べるので、補償と保険料のバランスを決められる
・オプションを付ければ、通院時の診療費の補償も受けられる
―――――
の3つだと思います。
一方で、「相手の気持ち」と重なる(=応えられる)のは
―――――
・愛猫に、健康に長生きしてほしい
・心配ごとがあるときに頼る先があったら嬉しい
・保険料を安く抑えたい
―――――
の3つではないでしょうか。
たとえば、そのうちの一番強いに違いない「愛猫に、健康に長生きしてほしい」気持ちと重なる(=応えられる)部分を切り口として、「愛猫の健康を応援できる保険」をキーワードにしたアプローチを検討してもよいかもしれません。
(情報雑誌で学ぶことで病気やケガを予防できる/健康診断や電話相談で早期発見できる/通院費の補償を受けることで重症化前の早期治療に全力を尽くせる)
おわりに
ことばに着目してお話ししましたが、「伝わる」、そして「共感を生む」ためには、伝えたい相手に対し「みんな」や「誰か」ではなく“たった一人のあなた”として真摯に向かい合うことが大切なのだと感じました。
自分が携わるコンテンツが“あなた”に伝わり、共感いただけるように、これからも邁進してまいります。
―――――
Special thanks
◎いつも素敵な「ことば」を編み上げる、
敬愛するデザイナーyさん
◎宇宙一プリティな私の愛猫
◎読んでくださったみなさま