21世紀に蘇ったゲッターロボ 「創聖のアクエリオン」
諸君、ゲッターロボは好きだろうか?
私は大好きだ。石川賢が描く原作漫画版と上原正三が脚本をつとめる東映アニメ版はどちらも面白く甲乙つけがたい。「三人全員が主人公」というコンセプトが上原正三を唸らせ、後のスーパー戦隊シリーズにも繋がる偉大な作品だ。
もちろん後年に出たOVAや別作者の漫画にも光る部分はあるのだが、原作漫画や東映アニメ版には遠く及ばない。
しかし私の中で唯一原作漫画版や東映アニメ版に並びうると考えているゲッターロボがある。
「創聖のアクエリオン」である。
タイトルこそゲッターロボではないがマクロスシリーズで知られる河森正治が手がける紛れもないゲッターロボである。
ここでゲッターロボの必要条件である「三つの心」について的確に言語化した記事があるので貼らせていただく。
これに倣うならば、アクエリオンだってボルテスVだってジェットイカロスだって立派なゲッターロボだ。
逆に言うとチェンゲのブラックゲッターや新ゲの寄せ集めゲッターは「ゲッター」という名前こそついているが竜馬が一人で勝手に戦っているのでゲッターロボではない。もっと言うとOVAゲッターの中には命懸けの信頼はおろか最低限の協調すらままならない三匹もいて…
アクエリオンはゲッターロボである。
この前提の上で読んで欲しい。
心の合体
アクエリオンはゲッターロボの三つの心という概念を「エレメントシステム」という形で盛り込んでいる。三つの心に加え体と魂を同調させなければ戦闘はおろか合体すらできない。
アクエリオンが戦うには「心の合体」が必要不可欠だ。
なのでゲッターロボ恒例の合体阻止回では神話獣(堕天翅族の生物兵器)が精神攻撃をかける事で合体を阻止してくる。
過去のトラウマを抉ってきたり、自分が心に秘めている黒い感情を引き出してきたり。
そもそもアクエリオン自体が人間の感情を動力としている。なのでエレメント(要は本作のパイロットの名称)のテンションがそのまま戦闘能力に直結するのでこの手のロボットアニメやヒーロー番組にありがちな「ノリで勝つ」という展開が設定レベルで正当化されている。近いものは「エヴァンゲリオン」のシンクロ率や「仮面ライダー剣」の融合係数だろう。
そのためにも三つの心を一つにして戦う必要があるのだ。
侵略者に向けた三つの怒りが一つの正義になり、物理的に100万パワーの力を発揮するのがアクエリオンなのだ。
体の合体
マジンガーZで打ち出されて以降、ガンダムやエヴァンゲリオンなどのほとんどのスーパーロボットで当たり前のように採用されている「ロボット=拡張された肉体」という考え方。
アクエリオンも例外ではないが、かなりぶっとんだ解釈をしている。驚くなかれ、3機のベクターマシンが合体してアクエリオンになる瞬間、性交時のオーガズムのような凄まじい快感が身体を駆け巡る。
これが「体の合体」である。
キャッチコピーの「あなたと合体したい…」は割とそのまんまの意味で、愛する人との合体は凄まじいパワーを引き出す。
第24話で無限拳でも破壊できなかったアトランディアのゲートをつぐみが爆愛無限光で突破したシーンが顕著だ。
そして、肉体的にひとつになる事でヘッドを担当するエレメントに文字通り「命を預ける」というゲッターロボらしい信頼関係にまで昇華させている。
魂の合体
まず魂とは何だよって話だが私は正直よくわかってないので今回はWikiから引用する。
うーんわからん。
でも作中ではシルヴィアにアポロの魂が混じり「バロンを返せ!」と言っていたことがあった。これは魂の合体が不完全だったのだろう。
そして「過去生の記憶」はまさしく「魂」と言えないだろうか。肉体は死滅してもアポロニアスの記憶はアポロに、セリアンの記憶はシルヴィアに残り時折表に出てくる。
過去生を受け入れる事。これこそ「魂の合体」である。
アポロは「俺は俺だ」としっかり自分のアイデンティティを持った上で前世からの使命を受け継いで戦う。そう、例えるなら私が愛する原作漫画版の月野うさぎ/セーラームーンのように。
そして「俺は俺だ」は「お前はお前だ」に変わり人と天翅の間で揺れ動くシリウスやシルヴィアを救う。
そして本作の合体が「同調」ではなく「協調」である事が作中でハッキリ明言される。第18話「魂のコスプレイヤー」である。不動のリーナのコスプレが強烈すぎてネタ方面で語られる事が多い回だが序盤から張っていた「三本の矢」の伏線が回収される回だ。
個々のエレメントが強い自立心を持った上で協調する。
キン肉マンの兄・ソルジャーが提唱する「真・友情パワー」を思わせる考え方を加えることで本作はゲッターロボの「三つの心」の解像度をさらに大きく上げた。
そしてゲットマシンにあたるベクターマシン名前の由来もまた三次元ベクトルに見立てた「三つの心」だった。これ下手するとゲッターロボよりゲッターロボなんじゃないのか…?そして「同調ではなく協調」である根拠がもうひとつあり、それがアポロとシリウスの関係である。
彼らは最初からまるで馬が合わず、訓練でも戦闘でもたびたび激しく衝突するがそれが逆に「嫉妬変性剣」「無限交差拳」「超3D無限拳」といった数々の必殺技を生みだす。
特に超3D無限拳は上記の第18話で披露された必殺技であり本作の三つの心の方向性を完璧に示した。
人と天翅の「合体」
ゲッターロボは三つの心を一つにしなければ100%の力を発揮できない。それはアクエリオンも例外ではない。
アクエリオンを開発したアポロニアスが人間と堕天翅族との調和を望んでいたため、人間と堕天翅族の双方が搭乗しないと真の力を発揮できないように設計されていた。
人間の戦士セリアンを愛した堕天翅アポロニアスの転生・アポロ。
アポロニアスを12000年想い続けた天翅の首領・頭翅(トーマ)。
アポロニアスとセリアンの間に生まれた子の子孫=人と天翅の混血であるシリウス。
セリアンの転生であるシルヴィアが彼らを和解させ、三つの心が一つになった時、アクエリオンは本来の黄金の姿「太陽の翼」を取り戻した。
人も天翅も多くの罪を犯した。しかし憎みあい殺しあっていたはずの二つの種族が互いの苦しみや罪を認め、受け入れた事で和解し、滅びゆく地球を守るために手を繋いだ。
手と手を合わせればその空間は何も無い闇の空間だが、あたたかい。これが本作が2クールかけて唱え続けてきた「合体」である。
そして最強最後の必殺技「無限合体拳」は無限に伸び続けバラバラに崩れる地球を縫い合わせた。
枯れた生命の樹の代わりに地球を救う人柱になったアポロはシルヴィアに最後に再会の約束をする。
愛する人に向けた「また会おう」…?
まさか!
そうか…!そういうことだったのか!
「天元突破グレンラガン」や「トップをねらえ!」などゲッターロボのオマージュをしている作品は数多くあるが、ここまで上手く落とし込んでいる作品は「創聖のアクエリオン」くらいだろう。
創聖のアクエリオンはゲッターロボフォロワーではありません。ゲッターロボそのものです。原作漫画版や東映アニメ版にも負けない至高のゲッターロボです。
まとめ
ここまで書いた事ざっくりまとめるとアクエリオンとはゲッターロボの全てを「合体」で解釈した作品である。
さらに言うと私はこの作品を河森正治版のゲッターロボアークだと考えていて、異種との共存をマクロスで描き続けてきたからこそ人と天翅の「合体」を描くことができたのだ。
三つの心が最後まで揃わなかった原作版「アーク」は美しいバッドエンドを迎えたが、アニメ版は歪ながらまだ希望は残されている。人と天翅が手を取り合えたように、人と恐竜が、そして人と人が協調の上で「合体」できればゲッターエンペラーの誕生を阻止しできるかもしれない。応援しています。