インベストメントハイライト:株式会社find
はじめに
落とし物—それは人々の日常に潜む、ほんの一瞬の不注意から生まれる悲劇と考えられます。そんな何気ない悲劇が、私たちの社会に深い感謝と絆をもたらす可能性を秘めていることをご存じでしょうか。
株式会社find(以下、find社)は、この可能性に真摯に向き合い、「落とし物が必ず見つかる世界へ」というビジョンの達成を目指す企業です。
「インベストメントハイライト」第1回目は、2024年12月2日にシリーズAの資金調達を発表したfind社を取り上げます。Dual Bridge Capitalからは本ラウンドでリード投資家として資本参画させていただきました。
直近、お会いさせて頂く方々の多くから「findって何が良いんですか?」「落とし物ってマネタイズできるんですか?」という御質問を数多くいただくため、投資家としてどのような観点に注目し、find社に投資したのかを本記事でお伝えします。
会社概要
find社が設立されたのは2021年12月1日。オリックス株式会社に勤めていた高島さんと、Automagi株式会社で活躍していた和田さんによる共同創業でスタートしました。
このお二人がタッグを組んだ背景には、解決すべき明確な課題があったわけではありません。むしろ、起業そのものを目指してスタートした形です。
お二人に共通している(と勝手に私が捉えている)「新しい価値の創造」というスタンス。そのスタンスは、find社という企業そのものに宿る哲学となっていると節々に感じます。さらに詳細な会社概要については、高島さん、和田さんのnoteに丁寧にまとめられています。以下をご参照いただければ、find社がどのようにスタートを切り、どんな未来を描いているのか、その一端を知ることができます。
インベストハイライト
驚きの連続
高島さんとの出会いは、Industry Co-Creation® (ICC) サミットのイベントでした。7分間のプレゼンテーション。その衝撃は、いまだに鮮明に脳裏に焼き付いています。簡潔で、鋭く、そして圧倒的。忘れないようにと、そのとき急いでPCに残したメモを添付します。
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「非常に面白い。初期トラクションは十分で、事業者の課題も明確。エンタープライズ向けサービスとしてネットワーク効果が極めて高く、現在のトラクションの数字も驚異的。落とし物という情報を管理できるfindはインフラとなる。落とし物を管理する現場で、findに情報が蓄積されればされるほど、事業者、ユーザにとって社会における不可欠なインフラへと進化するスタートアップになる。
確認事項は以下の3つ。
・営業人員数
・これまでの累計商談数及び累計獲得社数
・1社あたりの平均月額単価及びオンボーディング日数
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プレゼンテーションを聞き終えた瞬間、私は「この会社に投資したい。どうしても、今すぐにでも。」その衝動は抑えきれないものだったため、気づけば私は、高島さんに熱烈なオファーを送り、面談の設定をお願いしていました。
数日後、次の面談で高島さん、そして和田さんにお会いすることになり、そこで投げかけた先の確認事項。返ってきた回答に、私は再び驚かされました。数字はどれも期待を上回り、findの背後にある確かな手応えと、お二人が描く「落とし物が必ず見つかる世界」の現実性。高島さんと和田さんの言葉には情熱だけでなく、計算され尽くした自信を垣間見ることができる内容でした。そしてその自信は、決して過信ではなく、これまでの成果と市場への理解に裏打ちされているものだったことを鮮明に覚えています。2度目の面談時に印象的だったQAメモもここに記載しておきます。
※本内容の公開については事前にfind社へ確認済み。
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Q「今営業は何名でやられてますか?」
A「私(高島さん)と和田さんの2名でやっています(現在は3名)」
Q「これまでの商談数はどれくらいでしょうか?」
A「70社程(あとで確認した数字ではサービスリリースから1年半で79社)です」
Q「累計獲得社数はどれくらいですか?」
A「内示まで含めると30社程(あとで確認した数字では契約済み・導入確定・内示数は33件)」
Q「1社あたりの平均月額単価はどれくらいですか?」
A「80万円前後です」
Q「1社あたりのオンボーディングはどれくらいかかりますか?」
A「平均3~4か月くらいです。」
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スタートアップの皆さんからお聞きする各種定量的な数字について、過去の経験から相対的に比較し判断することが多々ありますが、findの営業人員数は少数精鋭。それでも1年間で一定の商談数をこなし、累計獲得社数と受注率が示す成長力には目を見張るものがありました。さらに、1社あたりの平均月額単価とオンボーディング日数の効率性。これらの数値は、findが現場で必要不可欠な存在になりつつあることを証明し、社会を変えるインフラを築くスタートアップであることを確信。高島さんのnoteに記されている通り、すぐに投資オファーをさせていただきました。
創業者は元バンドギターボーカル
高島さんの経歴は非常にユニークです。2011年に慶應義塾大学を卒業後、すぐに企業に就職せず、在学中から活動していたバンドのギターボーカルとしてメジャーデビューを目指し、音楽活動に専念していました。その後、オリックス株式会社に入社し、スタートアップとの資本業務提携を通じた事業開発に従事。
セーフィー株式会社への投資及び事業連携を通じて得た経験、Automagi株式会社への投資検討から始まった和田さんとの物語。それがfind社創業への道を切り開く一つのきっかけとなっています。
しかし、高島さんがオリックス時代について語ることはあっても、情熱を傾けていたバンド活動について多くを語ることはありませんでした。
投資判断のためには、高島さんという経営者を可能な限り理解する必要があります。どんな思いでギターを掻き鳴らし、どんな言葉を紡いできたのか。今も高島さんの中で生きるバンド活動のルーツを探るべく、私は2011年から2013年に彼が綴ったアメブロや、2012年以降のインスタ投稿を拝見し、その足跡を追いました。ストーカーのように――いや、まさにストーカーだったなと思います。
そこから見えてきたのは、バンド活動時代から一貫して、挑戦することへの純粋な情熱、失敗や挫折を恐れない姿勢、そして、仲間とともに何かを成し遂げようとする信念でした。それらは、find社創業後の高島さんの経営にも通底しています。高島さんは常に「何かをつくり出す」「仲間とともにつくり出す」ことに向かい続けています。そしてその魂が、バンドのギターボーカルから、スタートアップの経営者へと形を変えて受け継がれています。
(余談ですが、高島さんとカラオケバーに行きましたが、とにかく歌がうまいです!find社メンバーのカラオケバー全体の場を支配する力も物凄いです!)
生成AIを活用したシステムが生み出す付加価値
find社がターゲットとする顧客は落とし物を管理する事業者です。従来、大手Sierや大手企業の子会社がシステムを創ってきた領域に対して、findはAIを駆使した画像検索とデータ統合の力で、返却率を4倍に引き上げるという驚異的な成果を達成しています。返却の可能性が一気に跳ね上がるこのシステムは、従来の解決策にはないユニークな価値を持っていると考えられます。
findが生み出す変化
日本だけでも2023年に全国の警察に拾得物として届けられた現金以外の「落とし物」は、2978万7068点と膨大な数の落とし物が発生しています。
この問題は一見限られた範囲のように思えますが、実際には巨大な市場です。鉄道業界を起点に各種交通機関、警察署、商業施設、飲食店、宿泊施設、スタジアム・テーマパーク、アミューズメント関連施設、自治体、大学と対象顧客数は非常に広く、findの影響力は着実に広がりつつあり、そのスケールの可能性は計り知れないものです。
さらにネットワーク効果も発揮されつつあります。日本全体の遺失物データの10%を既に網羅しているfindは、あらゆる施設へ導入を進めることで、データベースが拡張され続けています。この拡張は「横断問い合わせ」という新たな機能を生み出し、落とし物の返却率をさらに向上させます。findが作り出すのは単なるサービスではなく、システムそのものであり、社会のインフラとなりつつあります。
また、サブスクリプション型のビジネスモデルは、すでに年間7.6億円という成果を上げ、さらなる成長が十分に見込める状況です。findが提供する価値は、サービス価格を遥かに超える業務効率化と顧客満足をもたらしています。その信頼は、導入企業自らがfindの存在を広めるというユニークな広がり方にも表れています。
ここまでの話をすると、
「素晴らしい!」
という回答とともに多くのVCの方々から頂く質問は以下の御質問です。
「とはいえ、ビジネスとしてのアップサイドが小さくないですか??」
特異な可能性を秘めた成長余地
find社のビジネスは、単なるサブスクリプション型ビジネスに留まらない可能性を秘めています。それは、落とし物という特性が成り立たせる、特異な可能性を秘めた挑戦です。落とし物は、単なる個人の問題にとどまらない。施設で拾われた品々は、遺失物法という法律で厳格に扱われ、その運命が決定される。法令の規定によれば、所持が禁止されている落とし物を除き、保管期間3カ月を経ても引き取られることのない品々には、①拾得者、②施設占有者、③都道府県や国、いずれかに所有権が移行します。
find社は、ここに新たな価値を見出しています。返却されなかった落とし物。失われたはずの品々。これらを必要とする人々の元へ届けるという、かつて誰も試みたことのない挑戦が、find社の次なるステージとして待っています。株式会社メルカリや株式会社BuySell Technologiesが形成するリユースマーケットに対して、まったく違ったアプローチから新たな事業展開を見据えているのです。
この仕組みが広がれば、落とし物は単なる「失われたもの」ではなくなります。それは、悲劇から発生したものが、新たな希望へと転じる瞬間を作り出し、無数の「拾われなかった物語」が、必要とされる誰かの手に渡り、感謝という形で新しい価値を生む。それは、見捨てられたものが再び息を吹き返す瞬間のようでもあり、失望が希望へと変わる過程そのものでもあると考えられます。
findが拡大するほどに、私たちの社会の中で、失われたはずのものが新たな命を吹き込まれ、感謝の連鎖を生み出していく。悲劇の裏にある可能性を拾い上げ、社会に新しい物語を紡ぐ。それがfind社の真の価値であり、未来へとつながる道筋と捉えています。
絶賛採用中
find社では絶賛採用強化中です!ご興味ある方は是非一度コンタクトをとってみてください(私に連絡をいただけたら、担当者へお繋ぎします!)
・IPOに向けた管理部 / 経理担当
・関西エリアでの営業職
・導入効果を最大限に引き出すカスタマーサクセス職
・エンジニア多数
まとめ
以上、昨年12月に7億円の資金調達を実施し、急成長を遂げているfind社を振り返るインベストメントハイライトでした。次回(2月中旬)はDual Bridge Capitalがシードから投資をしている株式会社WIREBASE(https://wire-base.com/)についてまとめさせていただきます。