マガジンのカバー画像

小説-DAWN OF AKARI-奏撃の い・ろ・は

14
以前クラウドファンディングでアニメ化を試みて未達に終わった「ABC of Akari」の企画をベースに、新たにストーリーを作り直した独自ビルド版の小説です。よろしければ読んでくだ…
運営しているクリエイター

2020年6月の記事一覧

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(03)

3 ――足許から微か5メートルほど先しか視認することができないほどの深い霧の中。アレイスターはひたすら歩いていた。此処が何処なのか、自分がいったい何処に行くのか解らないまま――ただひたすらに。 「体中に纏わり付く濃霧が方向感覚をも狂わせてしまう」  アレイスターは感じていた。  しばらく彷徨っていると、何本もの帯状の光が霧に反射して輝きだした。彼を取り囲むスポットライトだった。眩しい光の向こう側に目を凝らすと、薄らと巨大な円錐形のシルエットが視えた。  さらに近づけば、そ

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(04)

 この独自ビルドの物語にはオープンソースコミュニティへのリスペクトも兼ねて様々なオープンソース・ソフトウエアやガジェットが遊び心で登場してきます。その辺りも楽しんでただけるように頑張ります。 4  6月のロンドン、この季節は日没時間が遅いこともあって、繁華街のソーホー地区は地元のみならず多くの観光客で活気にあふれていた。街は華やかなネオンが輝きパブやナイトクラブは多くの人で溢れている。  そんなソーホーにも観光客が敬遠しそうな裏通りがある。そんな裏通りの一角にある店、それ

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(05)

5 深い眠りから覚めたアカリ。  全身を包帯で巻かれていた。  スタンドに引っかけられた点滴が滴のように落ちながらチューブを通って左腕に刺した針へと流れ込んでいた。  指先に装着したパルスオキシメータと、胸部に貼り付けた心電測定の電極から出たリード線はベットサイドモニタに繋がれバイタルサインを告げる微かなビープ音を静かな部屋にリズミカルに響かせていた。  足元には深部静脈血栓症を防ぐためのフットポンプが設置され、これもリズミカルに両足の圧迫と弛緩をひたすら繰り返している。  

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(06)

6  クラブハウス『シン・禁断の惑星』(ネオ・フォービドゥン・プラネット" Neo Forbidden Planet ")の入り口で、制服スタッフによるIDチェックを済ませるとアレイスターは、エントランスでマルボロを一服してから店内に入った。  一階のダンスフロアではDJによるクラブミックスソングが流れている。アレイスターは着ていたアクアキュータムのコートをクロークに預け、注文したスコッチのグラスを片手に二階のソファー席に座った。  ここネオ・フォービドゥン・プラネットに

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(07)

7 銀行のシステムエンジニア、リチャード・ガストンが住んでいたアパートはイコン大学近くのアドラー・ストリートにあった。  マット警部を中心に数名の警官によって近所の住人への事情徴収とアパートの家宅捜索がおこなわれていた。 「アレイスターはどうした! 連絡がつかないのか?」  マットが部下にアレイスターの所在確認を指示した。  リチャードの部屋は南側に大きな窓がある見晴らしの良い3階の部屋だった。  床に転がっているゴミも無く、本棚の書籍は整理整頓され片付けられており、一人暮ら

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(08)

8  鮮やかなアーデントレッドのエリーゼが停車した。  大株主だったロマーノ・アルティオーリの孫娘の名前が付けられたその車は、ノーフォーク州ヘセルでファクトリーチューニングされた直列4気筒DOHC16バルブのトヨタ製エンジンと、6速マニュアル・クロスミッションを搭載しながら、わずか876kgという当に英国が誇るスポーツカーブランド『ロータス』のライトウエイトスポーツカーだった。  エンジンを切ると、圧縮された空気が一斉に解放される様な低い音がして、その情熱的な紅色の扉が