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【ジャックジャンヌ】睦実介ルート感想:孤独な少年少女の心が交差する

ジャックジャンヌ初見感想も第三弾。今回は睦実介ルートについて書いていこうと思う。毎度ながらネタバレのオンパレードなので未プレイの方はご注意を。

今回は睦実介ルート

わたしが三周目に選んだのは、クールで大人びた印象のクォーツのジャックエース、睦実先輩(以下、カイさん)。
一周目でプレイしたフミさんと同様、クラスのトップスターとして登場する彼は、クールなビジュアルからどことなく近寄りがたい第一印象を受けた。けれど物語が進むうち、実力があるだけでなく、とても面倒見が良い後輩思いの先輩であることが明らかになる。
当初感じていた近寄り難さの原因は、彼が圧倒的な才能を持ち合わせているフミさんや立花継希といった華のある生徒と自分を比較して生まれる劣等感や、彼らと並ぶことへの後ろめたさ由来のものだったのだ、とわかった時には、いやそのビジュアルで?とツッコミを入れたくなったけれど、とにかく彼のなかでは自分と花形スターたちのあいだには線引きがあるらしい。…というのが高科白田ルートをプレイしてのカイさんへの印象だ。

睦実ルートでは、そんなカイさんの知られざるバックグラウンドや、クォーツ屈指の「器」であるカイさんに磨かれて、苦しみもがきながらも「華」として才能を開花させていく希佐の新たな一面を知ることができた。

「私たちは寂しいところが似てた」

カイさんと希佐の物語にテーマを見出すなら、そのひとつは「孤独」になるだろう。
物語の序盤で、カイさんが実は幼い頃に両親を亡くし、血縁の薄い親戚の元を転々としたのち、施設に預けられて育ったことが明らかになる。この不幸な生い立ちの影響で、カイさんは人に頼ったり、甘えることができない。一方で、人の役に立たなければならないという強迫観念は人一倍強く、いつも誰かのために奔走している。たしかに別ルートで見てきたカイさんはいつも、クォーツにとって、後輩にとって、フミさんや根地先輩にとってどうか、という物差しで言葉を語っていたように思える。強いて言うなら自我を出していたのは冬公演の一幕くらい。
そのせいでなんとなく、高科白田ルート攻略時においてはどうしても印象が薄いキャラになってしまっていた。
わたしはこの「印象に残らなさ」すらも製作陣の手腕によるものなのではないかと思う。生い立ちによる影響で、自分を主張できないカイさん。そんなカイさんの真実を知らずに、無意識に彼の物分かりの良さにフリーライドしている、あるいは彼の感情を軽視している人々の無情さを身をもって体感させられているような…。さすがに考えすぎだろうか?

一方、主人公の希佐自身も、カイさんとはすこし状況は異なるがある種の孤独を纏った少女だ。かつてユニヴェールの至宝とまで呼ばれた兄は失踪し、父親は職を失い、進学すらも諦めようとしていた彼女は、持ち前の朗らかさと明るさのなかにカムフラージュされているものの、常に強い危機感を抱いてユニヴェール生活を送っている。それは他ルート攻略時にもしばしば指摘されてきた彼女ならではの雰囲気だ。そんな孤独を知っている彼女だからこそ、カイさんはすべてを打ち明けることができたのだろう。

「器」に彩られ、希佐の才能と危うさが際立つ

ふたりのエピソードで特に好きなのが、定番ではあるが話の山場となるクリスマスとバレンタインだ。

クリスマスは、施設の子どもたち(ところで施設の子どもたちと遊んでいるカイキサはめちゃくちゃ良い)とのパーティーの準備中、ケーキをとりに行った男の子を交通事故から庇った希佐が病院に運ばれるというなかなかハードな内容。甘々な高科白田ルートのクリスマスの印象が強く完全に油断していたので、かなりショックが大きかった。
希佐が事故に遭ってからのカイさんを見ているのも辛い。やはり幼い頃に両親を亡くしている彼には、希佐を失うかもしれない恐怖は相当堪えるものがあっただろう。しかしこれをきっかけにカイさんは希佐の秘密を知り、ふたりはより親密な間柄になっていく。

余談だが、事故に遭ったのに希佐がほぼ無傷だったり、夏合宿の肝試しで洒落怖展開になったり、精神的に追い詰められた希佐が山に入って行ったりと、このルートはどこか霊的な要素が強い。やはり事故から守ってくれたのは継希なんだろうか…。だとしたら彼はもう…。今考えるのはよそう。

続いてバレンタインの話に移る前に、このルートの希佐がかなり危うげな側面を強く描かれている点について語りたい。特にユニヴェール公演のパートでの彼女は、今後もユニヴェールでの生活を続けるため、そしてパートナーのカイさんの名誉のため、成長の機会と判断すれば手段を選ばずに何にでも手を出してしまう。たとえ自分の心に傷を負うような方法であっても。まるで命を削っているかのような切実で痛々しい彼女の様子には周囲も戸惑う。どのルートでも彼女は頑張り屋さんだったけど、こんな姿を見ることになるとは思わなかった。辛すぎる…。
個人的な見解としては、希佐がこうなってしまった背景として、カイさんが良くも悪くも精神的に自立した大人(でも今思えば希佐に遠慮してただけなのかもなー)なので、希佐が細やかに彼のケアをするような事態にはならず、自分自身を見つめる時間を長く持ってしまったゆえの悲劇だと思う(アーティストの時間の使い方としては正解だと思うけどね…)。ただ他ルートでは他者の面倒を見ることが多かった希佐が、人の手を焼かせているところを見れたのはよかった。心根の優しい舞台ジャンキーな彼女が、自分を上回る「器」に出会えてしまったら、こんなに我を忘れるほど突っ走ってしまうのだと新たな一面を知ることができた。

バレンタインでは、ついにカイさんが複雑な内面を吐露する。吐露なんて言葉では表現しきれない……堪えてきた思いが堰を切って溢れ出してしまう。
役者としての成長のため、なりふり構わず邁進している希佐をカイさんは大人の目線で見守っている……かと思いきや、彼女が強く意識している相手に嫉妬してしまう、自分のことを見てほしい、と懇願するカイさん…。それを告白する時の取り乱しかたも含めて胸がギュッとなってしまう。彼は生まれてこのかたずっと、自分を見てほしいという願いを押し殺して生きてきたのだ。希佐はそんな彼の内側に秘められた想いを蘇らせたのだ、とときめきと同時に涙も溢れてくるシーン。
あと、カイさんも希佐も絶対プラトニックなのに、なんだか妙にセクシーに感じてしまうシーンでもあった。ただこのシーンに関してはスチルパートでも語りたいので、詳しくは割愛する。
他ルートのバレンタインも好きだったけど、ここまでずっしりフィーチャーされてはいなかったので、いまのところカイさんのバレンタインエピソードが1番好きだ。

好きなスチルの話

何度も言っているけど、このゲームはスチルが本当にいい。全部ポスターにして部屋に飾りたいくらい良い。というわけで今回も好きなスチルの話をしていこうと思う。

「俺のアルジャンヌ」

やっぱり外せないのは、上でも触れたバレンタインイベントのスチル…!互いの頬に触れて至近距離で向かい合い見つめ合うふたり。

カイさんが希佐に対する複雑な心境を吐き出したあとに訪れる、この糖度高めかつ扇情的なシーンに心臓がバクバク。なによりこのスチルに切り替わった瞬間のカイさんの吐息混じりな「好きだ…」が甘すぎる。わたしはこのシーンをギャラリーからすでに50回くらい再生した笑。

自分を見てほしい、希佐の舞台人生にとって重要な1ページに刻まれている立花継希が羨ましい、というカイさんに、希佐も「カイさんのことたくさん刻んでください」と受け応える。希佐の態度がピュアだからギリギリセーフなものの、この状況で結構攻めたこと言うな……とドキドキさせられた。この距離感なのにキスすらしてない(たぶん)の、すごい…。きわめつけは、刻んでください、と言う希佐に対してカイさんの口から漏れる熱い吐息と、「俺のアルジャンヌ…」発言である。

希佐を看病するカイさん

実兄である立花継希の一年時の最終公演を見て、そのあまりのレベルの高さにショックを受けた希佐が我を忘れて稽古に取り組み、体力や精神の限界を迎えてしまうあのシーン。

大伊達山で意識を失ったところをカイさんに救われ、看病までしてもらっている希佐を見て、この子がここまで人に世話を焼かれているのは初めて見たな〜と感慨深かった。このルートの希佐はカイさんを慕っている様子が健気で年相応な可愛らしさがある。彼女も心身を預けられる人に出会えたら人並みに甘えるんだなあ。
そして同時にカイさんにとっても彼の孤独に寄り添えた唯一の存在が希佐で、彼が器として誰よりも彼女を輝かせられた、という関係性もすごくいい。

話は変わるけど、ユニヴェール公演後に希佐を誰よりも「華」として完成させたカイさんに対する田中右の言葉もかなりグッときた。こんなに直球な賞賛を口にするタイプだったんだこの人?!という純粋な驚きがあった。希佐も田中右もまだまだ知らない側面があるなー。

プリザーブドフラワー

序盤の親密度イベントのスチル。喫茶店で興味津々にプリザーブドフラワーを見ている希佐とカイさんが微笑ましくて好き。

暇さえあれば大伊達山にこもっていたカイさんが、希佐と一緒に喫茶店で思い出を重ねていくのもこのルートの見どころ。特に希佐が山に迷い込んで意識を失ってからはカイさんは大伊達山から距離を取り始め、希佐との思い出が詰まった喫茶店に通うようになる。根地先輩からのあだ名が山男→街男に変わるシーンも微笑ましくて可愛かった。

こういうところからも、カイさんは単に山や自然が好きだったから山に通っていたわけではなく、ただ温かい思い出に心底飢えていたんだな、と考えて切ない気持ちになる。山にしかなかった家族との温かい思い出に縋らなくても生きていけるようになって本当によかった。

おわりに

カイさんのルートは彼の穏やかな人柄とは裏腹に、意外と話のテンションの上下が激しく、山場のイベントは切なくなったり糖度が高すぎて動揺したりと常に感情が忙しなかった。カイさんがウィスパーボイスで愛を囁くシーンは必聴の価値ありなので、未プレイの方はぜひ。

ここまで読んでくださった方、どうもありがとう。

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