いかにOTがおもしろいか
※2021年12月30日加筆
通勤途中のカブ畑。
これだけ見事に育っている畑をみるとヘッピリ家庭菜園者としては「スゲーなぁ」と思うわけです。
冬野菜が美味しい季節になりました。
私がOT(作業療法士)として急性期病院で勤務してもうすぐ14年が経とうとしています。
(OTの概略についてはこちらをご覧ください)
作業療法(OT)とは|自律整体めぐりや
これまでリハビリテーション職としての手応えと限界と無力さと…様々な経験をしてきました。
OTとは「作業」を「クライアント本人にとって大切な活動」と捉えてその作業によって治療するものです。
※OT協会の定義では、作業とは「対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」としていますが、私は生活行為に限らず、その人にとって価値ある活動はすべて「作業」であると考えています。
医療の中で特に分かりづらく、なかなか理解されにくい職種です。
そのため、作業療法士自身が自分たちのアイデンティティについて悩むほどです。
私は働く中でその中で明らかにOTの価値を感じてきました。
しかし、その価値を客観的に数値化して示しづらいことにもどかしさを感じ続けてきました。
それを打破すべく、この夏から一つの研究を始めました。
それは「半側空間無視(以下USN)患者におけるひげ剃り活動の治療的効果の検証」というものです。
USNとは脳の障害により視空間の片側が見えているにも関わらず認識できない病態のことです。
例えば左USNであれば右ばかりみていて左側に気付きづらい状況となります。
食事を食べていても左側に気付けず食べ残してしまう、左側にぷつかってしまう、左側のトイレットペーパーに気付けない…といった現象が起こります。
そんなUNSの患者さんを診ている中で気付いたことがあります。
それはひげ剃りの反応がとても良いということ。
右ばかり向いている患者さんがシェーバーを渡すとしっかり目の前の鏡を向いてくれる、という様子を何度も目の当たりにしました。
「これは絶対に治療的効果がある」
そう確信があるのですが、なかなか数値で示さないと世の人は納得しない。
というわけで経時的な変化を追って記録しているわけです。
そんな中、脳卒中で入院されたとある方を担当しました。
元々自立されていた方ですが、意識はもうろうとしていてコミュニケーションが取れない状態。
全介助で起こしても体がクタッと崩れて、自分では全く身体を保てないくらいの重度症状が出ていました。
そして常に右を見ている。
左側の刺激に全く反応しないわけです。
まさしくUSNの症状でした。
その方を車いすに乗せて鏡の前までお連れしました。
意識がはっきりしない中で果たして反応があるのか…と思いながらもシェーバーを渡したところ…なんと鏡を見ながらヒゲを剃り始めたではないですか!?
(顔を上げる補助は必要でしたが)
しかもいきなり目がキリッとなったわけです。
それはもう感動的な変化で思いっきり心が動かされました。
と同時にひげ剃りという「作業」の威力をまざまざと見せつけられたように思いました。
男性の多くが何千何万回と繰り返してきた動きです。
無意識のレベルにまで動きが染み付いているのでしょう。
あの独特の振動と音も覚醒に強く作用していると考えます。
ここまで劇的な変化は珍しいですが、様々なUSNの方に大なり小なり変化をもたらしています。
このようなとても日常的な「身の回りの活動」も大事ですが、人はそれだけしているわけではありません。
多種多様な活動をしています。その全てがOTとして使えるわけです。
なんせ「クライアントにとって大切な活動」はすべて作業なのですから。
料理、運転、パソコン操作、スポーツ、旅行、勉強、仕事…。
ありとあらゆることが作業になり得るわけです。
こんなに幅広い医療職は他に無いでしょう。
理学療法士(PT)がクライアントと将棋をしたり言語聴覚士(ST)が歩行練習などをすると、どうにも違和感があるわけです。
でもOTは何をしても馴染みます。
中にはがんの終末期のクライアントが遺書を書くサポートをしたという学会報告もありました。
その多様性が最大限の強みであると同時に「で、何が専門なの?」と言われがちな存在でもあるのです。
なんでもただやっているだけではあまり意味がありません。
どんな活動がクライアントにとっての「作業」たりえるのか。
それによってクライアントの課題をどう解決していくのか。
それらを科学的視点から捉えるのがOTです。
自分にはとことん性に合っていたようで、だからこそ10年以上続けられました。
何でもありなフリーハンドさだからこそできる無限のカスタマイズをフルに活かせるセラピストがどんどん増えてほしいと思います。
課題が山積みのリハビリ業界ですが、意欲的なOTがどんどん増えていってほしいですね😊
そして…今回が年内最後の記事となります。
読んでくださりありがとうございます。
この一年で延べ4000人以上の方に読んでいただきました。
あくまでアウトプットが第一の目的ではありますが、これからも本質的なテーマで「価値があると思える記事」を書いていこうと思います。
来年もよろしくお願い致します。