No11. 精子を凍結保存するという選択
「あきちゃんの精子、念の為に冷凍保存していた方がいいんじゃない?」
それは多恵子が子供好きで、赤ちゃんを欲しがっていたことを知っていた
義理の姉からの提案だった。そうだ、赤ちゃん欲しかったんだった・・・。
告知を受けてからずっと心落ち着かず、僕たちはハッと我に返った。
「諦めたらダメだよ、その時のためにできることは準備してた方がいいんじゃない?」念の為という言葉が、「未来はあるよ」というように聞こえ、泣き続けて
カサカサになった心を潤したようで嬉しかった。
スケジュール通りにいけば大腸がん手術後、生殖機能にダメージを与える抗がん剤治療をはじめる予定だ。つまり妊よう性(※)が失われる可能性があるため、
精子を凍結して妊娠・出産の希望を残そうという提案だった。
がん細胞は細胞分裂を繰り返しながらどんどん大きく成長するため、
抗がん剤治療はその細胞分裂の増殖を防いだり、成長するために必要な物質を作らさせない、あるいは過剰に産生させてがん細胞の死滅を促したりする作用がある。
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