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「どこかにビューーン!」で巡る水沢江刺~花巻の旅

「どこかにビューーン!」は、JR東日本が提供するサービスで、ランダムに選択される4つの候補駅のうち一箇所の駅までの往復新幹線チケットがもらえるサービスです。申し込みにはJRE Point 6000ポイントが必要。

詳しい人は、「JALのどこかにマイルと同じようなサービス」と思うでしょう。両方ともシステムを開発しているのはNRI(野村総合研究所)で、似ているのも道理という感じです。

JALの「どこかにマイル」は全国の空港が選択対象になるので行動範囲が広く夢も広がりますが、「どこかにビューーン」はJR東日本の新幹線駅(東北・上越・北陸)が対象なので範囲が東日本限定です。また「上毛高原」「安中榛名」「いわて沼宮内」あたりが推薦される事の多い非道さも私の中では話題です。

ということで私は利用は敬遠していたのですが、昨年JRE Bank のサービスが開始し、一定の条件を満たした人は「どこかにビューーン!」を4000ポイントという破格で使用できるクーポンがもらえるため、私もこちらを使用して旅に出かけました。

行き先候補駅の4駅は 【大曲駅】【水沢江刺駅】【新青森駅】【長野駅】という組み合わせで、抽選前から「水沢江刺だろうな」と強く確信していましたが、結果は想像通りのものでした。

水沢江刺駅

水沢江刺駅
みんな大好き後藤新平

水沢江刺駅で検索しようとすると「水沢江刺 何も無い」「いらない」とサジェストされます。駅周辺には目立った商業施設もコンビニすらありませんが、私が下車した時にも30人くらいこの駅で降りる人たちがいたので、私の印象よりは使われているようです。
東北新幹線は水沢江刺~新花巻のあたりの駅間距離が極端に短く、最低でも20~30kmあるのが普通の中この区間だけ10数kmごとに駅がある密集地帯になっています。水沢江刺駅が作られた理由も様々語られていますが、地元の政治家、小沢一郎の影響について触れる人もいます。

https://raillab.jp/transport/5#google_vignette  より引用

それでも、私が思っていたよりは水沢江刺駅の利用客は多いようです。口コミでは「タクシーすらいない」などと書かれてましたが、駅前には相当数のタクシーが待機していました。
理由はいくつかあるでしょうが、最近だと「光る君へ」の撮影現場となった「えさし藤原の郷」が駅至近にあり、下車した人でもそちらに向かうのではという人を見かけました。

そして、水沢江刺駅があるのは奥州市。奥州市出身の有名人といえば、泣く
子も黙る大谷翔平。水沢江刺駅周辺はどこもかしこも大谷翔平、と思わせる人気ぶりです。

駅併設の「奥州市観光案内所」にて
駅近くの「奥州市伝統産業会館」にて

駅西側すぐの「奥州市伝統産業会館」には、大谷翔平の真鍮製の握手像が展示されており、誰でも大谷翔平と握手をすることができるようになってます。私もせっかくなので握手してみました。冷え性なのかだいぶ手が冷えていました。

3Dスキャナで測定した実物大の握手像

奥州市伝統産業会館のメインの展示は南部鉄器。水沢江刺駅近くの水沢羽田町地区は代表的な南部鉄器制作の集積場のようで、個人・法人あわせて50を超える窯が存在するようです。産業会館でも気合の入った展示の数々がありました(多くは撮影不可)。

入口に飾ってある巨大な南部鉄器

鉄器の作り方を丁寧に解説した動画も流れており、私も少しだけ作り方を理解しました。外面を象る鋳型と、中の空洞を作るための中子というものを作り、その隙間に鉄を流し込むことであの繊細なカタチを作り出すようです。鋳型と中子の隙間はわずか2ミリ、それを掌の繊細な感覚だけで調整して作り出すとのこと。まさに職人の世界、という感じです。
昔は生活用品だった南部鉄器も、その鋳造の技術は高度成長期にはマンホールの作成など工業製品に横展開され、今では高級な伝統工芸品として生き残ろうとしているようです。

ということで、水沢江刺駅周辺は意外と見どころが多く、回りきれませんでしたが次の場所に移動します。今度時間があったら江刺の武家屋敷あたりを訪れてみたいなと思います。

新花巻駅~宮沢賢治記念館

水沢江刺駅の2つ隣が新花巻駅。どこかにビューーンで買ったチケットの範囲外ですが訪れました。花巻と言えば、あえて言うまでもなく宮沢賢治。周辺には宮沢賢治関連の施設がたくさんあるので、そのうちの一つの宮沢賢治記念館に訪れました。新花巻駅からはタクシーで1000円くらいです。

宮沢賢治記念館

周辺にいくつか関連施設があるなか、宮沢賢治記念館は、宮沢賢治が過ごしてきた人生を中心にまとめたスペースになっていました。農業に尽力した宮沢賢治、宗教への信仰の深かった宮沢賢治、鉱物や天文が好きだった宮沢賢治、音楽家としての宮沢賢治、等々。展示も「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」のような童話作品よりも、「春と修羅」に代表される詩作についての展示が多かったです。

「告別」の自筆原稿、の写真
本人が使用していたセロ(チェロ)

平日に訪れたこともあってか、私以外の他の来場者は、多くて1~2名。何も気兼ねもなくじっくりと展示を楽しむことができました。
私は主に詩人としての宮沢賢治が好きなので宮沢賢治記念館の展示は興味深いものばかりでしたが、多くの人にとっては童話作家としての宮沢賢治を期待していたのかもしれません。そのギャップも来場者の少なさに表れているのかもしれないなと思いました。
今回は訪れませんでしたが近くに「宮沢賢治童話村」という施設もあるので、童話好きの人はこちらに訪れると楽しいかもしれません。

記念館のそばには「山猫軒」という、「注文の多い料理店」に出てくるお店の名前を冠したレストランが併設されています。こちらでお土産を買う事もできるため、私も帰り際に立ち寄っていくつか小物を購入しました。

山猫軒
手に入れた小物

マルカンビル大食堂

宮沢賢治記念館からコミュニティバスに乗車して花巻市街まで移動。目的はマルカンビル大食堂で食事をするため。

昔、マルカン百貨店という百貨店があったようですが、2016年に閉店。ただし6Fにあった食堂について存続を希望する人が多かったようで、今でも「マルカンビル大食堂」として営業を続けています。
昔、多くのデパートの最上階にあった食堂を思わせるようなレトロな佇まいと、懐かしさを感じる料理の数々が人気のようです。

私も定番の「ナポリカツ」をいただきました。この日は氷点下前後で雪も降りしきる寒空だったので、熱々のナポリタンが体に染みて美味しかったです。

ナポリカツ

そしてこれも定番メニューなのが、10段巻ソフトクリーム。どうしてこうなってしまったのかはよくわからないですが、圧倒的な高さとボリュームを誇るマルカンビル大食堂の名物です。値段も350円と格安。
あまりの高さ故に、箸を使って横から食べるのが習わしとなっています。

10段巻ソフトクリーム。専門の技師?が丁寧に一つづつ作るため提供に時間がかかるそうです

味も本当に美味しいのですが、さすがに量が多すぎて、半分くらいから若干辛くなってきます。まわりの地元の常連客っぽい人たちは小さいサイズのソフトクリームを注文していました。
私は行きずりの観光客なので、一期一会を大事にし、定番中の定番のメニューを今回は堪能しました。メニューはびっくりするくらい多岐に渡り、どれもこれも魅力的なので、次回訪れた時は本当に自分が食べたいメニューを味わいたいなと思いました。

なお特徴的なメニューや意匠を逆手に取って、店側も最近は謎なグッズもたくさん作っているようです。当然私も釣られて購入してしまいました。買ったものの使い道は思いつかず途方にくれています。

スタンド、ステッカー、メガネ拭き

花巻駅~水沢駅~水沢江刺駅

どこかにビューーンで手に入れたのは東京~水沢江刺の往復チケットのため、帰路につくために再度水沢江刺駅を目指します。
在来線で花巻駅から水沢駅まで移動し、水沢駅からはバスでアクセスします。

花巻駅。白い点々は降りしきる雪
水沢駅
数多の場所で無限に目にする大谷翔平グッズ

花巻から水沢までは東北本線で27分くらい。510円。この程度の距離の間に新幹線駅が3駅(新花巻、北上、水沢江刺)あるというのだから不思議な気持ちになります。
それでも、花巻周辺は雪がかなり積もっていましたが、水沢周辺はほとんど雪が積もっていなくて、この短距離でも街によって気象環境がこんなに違うのだと驚かされます。

なお水沢駅は奥州市の拠点駅で、あの大谷翔平も日ハムの入団会見の際は駅近くの「プラザイン水沢」を使用したそうです。まさに聖地。
交通においても貨物ターミナルが置かれている場所で、地域の拠点だと感じさせる場所です。

そんな場所なのに、水沢駅はSuicaに対応をしておらず、私はうっかり花巻からSuicaで乗車してしまったため、花巻からの乗車賃を精算し、Suicaの入場記録の取り消しは水沢江刺駅で行ってもらいました。罠すぎる。観光客はひっかかりそうなので注意してください。

やたらとホームが狭い水沢江刺駅

水沢江刺駅、自分でお金を払って訪れるかというとまず訪れないような場所でしたが、「どこかにビューーン」のような仕組みを使った上での悪魔のいたずらで訪問することができました。セレンディピティとはよく言ったもので、こういう機会を与えてもらったことで色々と楽しい体験もできました。
こんな旅行を新幹線往復分の交通費実質負担ゼロ円で味わえるのだから贅沢な世の中です。
マルカンビル大食堂は最高。また訪れたいです。


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