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宮前平ウォーク

宮前平、という地名はあまりメジャーではないと思いますが、田園都市線沿線住民としては各駅電車の停車駅として、そして「平」という名前がついているくせして駅の南北はびっくりするくらいの急坂に囲まれている場所として知られています。

東急田園都市線宮前平駅

宮前平は川崎市宮前区に位置しており、宮前平駅は宮前区役所の最寄り駅です。グーグルマップとかを見て「区役所近いな」と何も事情を知らずに訪れると、壁のようにそそり立つ急坂に絶望することでも有名です。

地図上では近く見える
陰影起伏図で見るとこんな感じ。+印が宮前平駅
現実
平衡感覚が失われる風景

平均勾配が10%を超える急坂にもかかわらず、人気の住宅地ということもあって坂の中腹にも多くのマンションが立ち並びます。養老の天命反転地を思わせるような人間の本能に挑戦をする風景が建ち並びますが、これが宮前平の日常です。

筆者はこの近辺出身の人間で、今は別の地域に居住しています。私事ですが最近父親が亡くなったこともあり諸々の事務手続きが必要になり、そのため川崎市、宮前区、そして宮前平に久しぶりに訪れました。
この記事は、極めて私的な、自分なりの故郷への郷愁の思いを込めて、宮前平の周辺をそぞろ歩いてみた記録について記して行きたいと思います。

宮前平駅

そもそも、これだけ坂だらけの場所になぜ「宮前平」という名前がついたのでしょう。
この近辺は、昔は「宮前村(当時の読みは「みやさきむら」)」と呼ばれていたようです。宮前平駅の近くには尻手黒川線という市道が走っており、この道は矢上川に沿うような形で敷設されています。道沿いについては比較的平らな地形になっているので「宮前村の平らな場所」という意味で「宮前平」という名前がつきました。と私はずっと信じてました。

本当の由来は、市のホームページに書かれていますが、宮前と大平(おおだいら)の合成地名のようです。

明治22年の町村制の施行により馬絹、土橋、有馬(当時は有間)、野川、梶ケ谷の5村と溝口村の飛び地が合併して、宮前(みやさき)村が誕生しました。村名は役場が馬絹神社付近の「宮前」という場所に置かれたことに由来しています。昭和41年に東急田園都市線が長津田まで開通した際、尻手黒川道路沿いの新駅北側の台地の字(あざ)名が「大平(おおだいら)」だったことから「宮前平(みやまえだいら)駅」となりました。

出身者の私から言えることは、地元の人間はそんな地名の由来は知らず、「全然平らじゃねーじゃん(怒)」とルサンチマンを抱えながら日々急坂を登って生活をしている、ということです。少なくとも私はそうでした。

田園都市線沿線全体に言えることですが、宮前平周辺も基本的に昭和40年代ころから開発されたいわゆるニュータウンの地域のため、駅周囲には住宅地のみが広がる、他所者があえて訪れないような場所です。
それでも坂の中腹あたりに温泉施設「湯けむりの庄」があり、ここは人気もあるようで他県の方も訪れる場所になっています。

湯けむりの庄

この場所は以前は清泉女子大学の校舎があったのですが、しばらく前に撤退し、その跡地の一部が温泉施設として再利用されています。周囲には未だに当時キャンパスがあった名残を残すテニスコート跡などが残されていますが、この土地は売れば結構高く売れそうなのに放置されているのは何でなんでしょうね。

テニスコート跡地

さらに坂を登っていき、頂上から少し下ると宮前区役所があります。宮前区は比較的新しい自治体ですが(1982年〜)、区が設立されてからずっとこの場所にあるので40年ものの建物です。
今回は、父親が死去したことに関する諸々の手続きのために訪れました。役所の方々は皆親切でした。
役所の窓口にはたくさんのおじいちゃんおばあちゃんが訪れており「息子との折り合いが悪くてねえ」等手続きとはまったく関係ない世間話で役所の業務を圧迫していて、親切すぎる役所も考えものではあるなとは思いました。

宮前区役所
正面からだとモザイクが必要なので後ろから撮影

宮前区役所にはコンサートが開けるような文化ホールや、多くの蔵書がある図書館も併設されていて、様々な公共機関の集積地になっています。私も子供の頃は図書館に自転車で足繁く訪れており、あまりお金が無い家庭で娯楽も少なかった日々の慰めとして本を読み漁っていたのが今でも懐かしいです。

なお、そんな宮前区役所ですが、近々移転することが決定しており、2026年からは鷺沼駅近くの場所に移ることになったようです。私もおふくろに聞いてはじめて知りました。

やっぱ、宮前平の急坂の上にあったのは、皆不便だと思ってたんでしょうね...。移転によって多くの人が便利になる反面、宮前平住民の数少ない優越感のひとつ(区役所が近い)が喪失してしまうわけですが、移転後も地元の人たちは強く生き抜いてほしいと思います。

宮前平周辺には東名高速道路が走っており、東名川崎インターチェンジも近くにあるため車のアクセスは比較的良い立地です。距離的には東京料金所も宮前平のすぐ近くにあります。
今回は普通に帰ってもつまらないので徒歩で東名の東京料金所までアクセスしてみました。

宮前区役所〜東京料金所
宮前平周辺の典型的な住宅地の風景

宮前区役所から北側には少しだけ平らな土地があり、比較的瀟洒な住宅街が広がります。宮前平のビジュアルイメージとしてはこの辺のものが代表的なものになると思いますが、個人的にはもう少し奥にいったグリーンハイツあたりが個人的な「宮前平」の印象です。
宮前平グリーンハイツはいわゆる団地です。私の実家とは離れた場所ですが、幼稚園に通っていたときにスクールバスがこの周辺を走っていたので個人的に印象に残っている場所です。この辺の地名は「けやき平」ですが、いうほど平らではなく坂道が目立つ地形です。

けやき平。ほぼ全域が宮前平グリーンハイツ
宮前平グリーンハイツ
プールはまだあるのだろうか
グリーンハイツ周辺の商店

私が幼稚園児の頃は、新しめの建物が美しく整理された街路樹に囲まれていており、風光明媚な場所だなという印象でした。今は多くのニュータウンと同じように高齢化の問題を抱えているのでしょう。「昭和」の匂いをまといながら、商店の多くは開いておらず、住む人もまばらな印象です。
人の命も儚いですが、街も年が経つごとにその姿を変えていき、あの輝いていた昔の風景には戻れないのだな、と感じさせられます。

グリーンハイツは東名高速道路と併設しており、すぐ目の前に巨大な構造物を目にすることができます。構造物の脇の細い路地を歩いていくと、東京料金所近くにある「東名向ヶ丘」バス停まで徒歩でアクセスすることができます。

奥の構造物が東名高速道路
東京ハイウェイバスのりば(東名向ケ丘)
東京料金所

東名を走っている高速バスのうち一部の路線については東京料金所近くのバス停(東名向ヶ丘)から乗車が可能です。

ただし、コロナもあった影響か、現状はバスの本数はかなり少なくなっているようです。下り側(静岡側)の停留所はそもそもバスが来るのかどうか、入ってこれるかどうかも怪しい雰囲気になっていました。

時刻表。多くのダイヤに横線がつけられていた
待合所
バス停の入り口には多数のトラックが停車していて絶対にバスが入ってこれない

実家に住んでいたころは、裏技的に東名向ヶ丘バス停から高速バスに乗って静岡方面に訪れる、ということをよく行っていました。渋谷や新宿にわざわざ出るよりかなり効率的な手段として重宝してました。
そんな裏技も、今では懐かしい思い出となってしまったのかもしれません。ほんと、いつまでも変わらないもの、同じままでいてくれるものというのは、本当に少ないものですね。

東名の東京料金所をまたいで宮前平の反対側に抜けると、溝の口に向かうバスが走っています。今回はこちらを用いて溝の口まで戻り、帰路につきました。

東名向丘入口バス停
この周辺には、それほど平らではない「平」という地名がある
平周辺


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