散桜鬼 其ノ三~ヴァサラ戦記二次創作~
・・・・・・
「サクラ、今日も食べる物はこれだけしか無いの、本当はもっと食べたいだろうにごめんなさいね?」
「いいえお母さま、私はお母さまのお陰で今日もこうしていきていられます
感謝してます
だから、そのような事を仰らないで下さい」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「・・・」
「・・・お母さま?
体が優れないのですか?」
「あっ、いいえ
私は大丈夫よサクラ
ありがとうね?」
ーーーーーーーー
「あなた、今までどこにいたの!?」
「うるせぇな、俺が何処にいようが勝手だろ」
「!?
その血、まさかあなたまた・・・」
「関係ない!
俺は鬼だ、お前も分かってるだろうが!
それにな、これは相手が吹っかけてきた喧嘩だ
俺はそれを買ったまでの事」
「だからって何も殺すことは・・・」
「何か文句でもあるのか?」
「・・・いえ、でもここ最近サクラにも構ってあげたこと無いでしょう?
サクラも寂しがって」
「これ以上俺に指図するな
わかったな?」
「・・・」
ーーーーーーーー
「カムイ軍だー!とうとうこの村にも来やがった・・・」
「どうするんだよ、俺達このまま滅びるのか?」
「んな事黙って見てられるかよ!
カムイ軍がなんだ!俺達で追い払ってやろうぜ!」
「無茶苦茶だ!俺達がカムイ軍にかなう訳ないだろ!?」
ーーーーーーーー
「あなた、何をしているの?」
「戦の準備だ」
「そんな!?あなた!」
「これは決まった事だ
まあ俺は好きに暴れられるから満更でもないがな」
「それじゃ私達は!?サクラはどうするの!?」
「知らん
精々戦の邪魔にならん様に逃げれば良いだろう」
「そんな、待って!」
ーーーーーーーー
「サクラ・・・私たちの下に生まれて来てしまって、辛い運命を背負わせてしまってごめんなさいね?」
「お母さま、そんなことありません!私はお母さまの所に生まれて幸せです!だからそのような・・・」
「サクラ、よく聞いてね?私たちはもう逃げられるだけの蓄えがありません
でも、サクラにはこれからも生き延びてほしい・・・私のたった一人の子なの・・・」
「私はここまでです・・・
もしお腹が空いたら・・・私を、食べなさい?」
「お母さま?何を言い出すの!?お母さ・・・」
「短い間だったけど・・・サクラと・・・一緒にいられて・・・よかった・・・」
「お母さま・・・?
お母さま!?」
ーーーーーーーー
「お母さま!」
!?
・・・
ここは・・・
私は・・・
「目が覚めたのね?」
いつの間にか私は
私の知らないところにいた
どうやら眠っていたようだ
そして目の前には
知らない女
桃色の長い髪に白装束のような物を纏い
手には紙で出来た筒の様な物を持っている
「まだ安静にしてなきゃ駄目よ
おじいちゃまが気絶させただけだから目立った外傷は無いけど、一応ね?」
・・・!
駄目よ!
私は今まで沢山の人々を手に掛け
胃袋に収めてきた
人間にとって私は忌まわしき存在
その私がこんな所にいては・・・
殺される・・・!
「ちょっと!待ちなさい!
安静にしてって言ったでしょ!」
殺される・・・
殺される!
逃げなければ!
頭では理解している
ただ体が思うように動かない
外に出るのもやっとだった
寒い夜の下、追いつかれるのは時間の問題だった
「行く宛はあるの?」
この人は正気なのだろうか?
今の私をよもや心配しているの?
「・・・ある訳無いでしょう」
「・・・昨今、世間を騒がせている物の怪と言うのは私の事です
忌まわしき、醜い半妖です」
「物の怪の討伐を依頼されたのでしょう?
標的は目の前です
討伐の対象である私に行く宛など」
「もう終わったわよ」
!?
「色々調べたけど
ただの噂だったみたい
だからもうこの話はお終い」
・・・
「気が変わったらいらっしゃい?
おじいちゃまもあなたのことを心配してるわよ」
そう言い残すと彼女は去っていった
そう、今の私に行く宛は無い
居場所なんて
無い
でも・・・
あの人の目は優しかった
顔には出さなかったけど
何故だろうか、お母さまの温もりを感じた
それに白髪の男性・・・
私でも知っている、覇王ヴァサラ
覇王ともあろう者が討伐対象の私を
ここへ連れてきてくれた
頼っても良いのだろうか
こんな私が・・・
居場所を求めても良いのだろうか・・・
ーーーーーーーー
「戻ってきてくれたのね?
寒かったでしょう?
ベッドくらいしか座れる所は無いけど
良かったら座ってちょうだい」
私は言われた通りベッドに座る
しばしの沈黙が流れた
「そういえば、紹介がまだだったわね
私はハズキ、六番隊の隊長を任されてるわ
よろしくね」
・・・
「・・・サクラ」
「?」
「私はサクラと言うものです
先程も言った通り、半妖です」
私は藁にもすがる思いでこれまでの経緯を話した
カムイ軍に村を追い出された事
逃げ続けた結果、食糧もお金も底を尽き
それでも私のために
目の前でお母さまが命を絶ち
その亡骸を食べた
それからはただひたすら生きるために数多の人間を喰らったこと・・・
彼女は一通り話を聞いたのち
「そう・・・
それで、これからどうしようかしら?」
えっ・・・
「あなたの経緯はよく解った
それについて今更どうこう咎めることはしない
だから、これからの話をしましょう?」
これからの・・・話・・・
「先ずはおじいちゃまに会ってみない?
決して悪い人じゃない
これからのあなたにとっても良いキッカケになると思うけど?」
この人の言う通り
今はとにかく身の振り方を考えなければ
このままじっとしているより余程ましだ
何か道が開かれるはず・・・
「お、お願いします」
「うん、話は決まりね
さあ今日はもう遅いから早く休みなさい?
そのベッド使って良いからね」
「はい、ありがとうございます・・・」
その日はもう休む事にした
ーーーーーーーー
翌朝
私はハズキさんに案内され、ヴァサラ邸を訪れた
「よく来たのうサクラ、儂がヴァサラじゃ
大体の事はハズキから聞いておる」
「はい・・・」
「確かにお前のした事は到底許される事では無い
しかし、かような現実を目の当たりにしてそれでもお前は今日まで生き抜いてきた
よく耐えてきたのう」
・・・
「そこでじゃ
あの時お前に言ったことは単なる気まぐれでは無い
儂はお前をヴァサラ軍に迎え入れようと思うておる」
!?
「ヴァサラ軍には色々なヤツがおる
元は盗賊やゴロツキ、大罪を犯した者、海を渡ってきた者、家族を愛する者を奪われ逃れてきた者
出自は勿論、種族も問わん
当然、お前のような半妖もおる」
「そして、儂も大罪人じゃ」
「かつての王国に対し声を挙げ、革命を興し、王をこの手で斬った」
「儂もお前も一緒じゃ」
・・・
「まあ、今ここで答えを出せとは言わん
じっくり考えて返事を聞かせてくれ
待っておるぞ?」
ーーーーーーーー
あれから一週間ほど経っても私は答えを出せずにいた
ヴァサラ総督本人はああ言ってくれたが
それ以外の人間はどう思うだろうか
そもそも私はどうしたいのだろう
悩んでも考えても答えは出ないままだ
・・・
「随分考え込んでるわね?」
そう、この人に少し尋ねてみよう
ハズキさん、あなたはどうしてヴァサラ軍に入ったのですか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?