第4話「子育てと妄想の日々」
子供が生まれてからは、夫婦二人三脚で子育てに夢中だったけど、その間もバイクの事を忘れることは1日たりとも無かった。
むしろ、疲れた体と脳にはバイクのエキスが必要で、毎日寝る前にYouTubeを見たり、VIBESを読み返したりしたものだった。
そして、いつも同じことを思い浮かべる・・・
あの時、大型免許を取らなければ、きっとここにはSRがあったはずだ。
バイクが売れた金を教習所代にしたせいで、手元からバイクが無くなってしまった・・・きちんと考えずに行動してしまう自分が嫌になる。
とはいえ、娘がオイラ達のもとへやってきてくれた事は最高にHAPPYだ。
娘と遊んでいると、何もかも忘れて楽しめるからね!
娘が5歳の誕生日を迎えたころには、すっかり大型バイクの事を忘れかけていたオイラだったが、妻の思いがけない一言で心の奥底に眠っていた獣が目を覚ますこととなる!
「来月末の土曜日なんだけど、ママ友の家に遊びに行くけど良い?」
何気ない妻のアナウンスに、ああ良いよと即答する。
「午前中から行って、夜ご飯食べて帰ってくるから、パパは1人でお留守番ね」
そう言う妻は、久しぶりに楽しみな予定が入りご機嫌だった。
キタキタキタ~ッ!これは千載一遇のチャンスなんじゃないのぉ!?
オイラは極力平静を装い
「うん、俺は適当に家の事でもしとくから、ゆっくり楽しんでおいで。」と妻に伝えたが、脳内は熱く沸騰し興奮を抑えるのが大変だった。
高性能タブレットよりも激速で起動開始した脳は、あっという間にフル稼働を始めた。
「時間は気にしなくて良いから楽しんできたらいいよ!」
優しさに満ちあふれたほほ笑みを浮かべながら、実は飛び上がり奇声を上げたいくらいに嬉しかった。
いたってクールに振る舞う自分に若干の罪悪感を感じながらも、久々のフリーダムな時間をどう過ごそうかと妄想し、きっと微妙にニヤケていたに違いない。
それからというもの、昼も夜も通勤電車の中、仕事の合間、いや何なら仕事中でさへ、何して過ごそうかと考えていたのだが、ある日の夜オイラの人生を大きく左右するような、世紀の大発見をしてしまった。
それは「レンタルバイク」の存在だ!
な・な・なんと!レンタカーのようにバイクをレンタルできるという。
こりゃすごい!
きっとわが町にもレンタルバイク屋はあるに違いない。
そう信じて、速攻でググってみると、1件のレンタルバイク店がヒットした。驚いたことに、福岡にもレンタルバイクの店があるじゃないか。
今でこそ、レンタルバイクの全国チェーンもあるが、当時はかなりマイナーな存在だった。当然Web上での在庫車確認や予約もできない。
予約は電話のみと記載されていた。
時は深夜2時。
レンタルバイク店の営業開始時間まであと8時間。
バイクをレンタルする夢でも見たいなとニヤニヤしながら眠りについた。
けたたましい目覚ましの音が・・・鳴る前に目が覚め、オイラはそそくさと朝食の準備を始め、妻と子が目を覚ますのを待つ。
いつものルーティーンだが、気持ちはいつもの何十倍も浮かれている。
こんなウキウキした朝を迎えたのは何年ぶりだろうか。
出勤前のわずかな時間でさへ、どんなバイクを借りようかとウキウキワクワクしている中年おやじは、きっとキモイくらいニヤケているに違いなかった。
ホームページに掲載されたレンタル可能な大型バイクは、ホンダCB1300SF、ヤマハXJR1300、カワサキゼファー750、ドラッグスター1100だ。
さあ、どれを借りてやろうか!そんな事ばかりを想像しながら、いつものように地下鉄に乗りご出勤。
出社後も10分おきに腕時計を見ている自分が、とんでもなく浮かれていると実感しつつ、その10分後にはまた時計を見ている自分がいるwww
そしていよいよ、レンタルバイク店がOPENする10時。オイラは勢いよく席を立ちトイレに行くふりをして事務所を出た。
ドキドキしながらレンタルバイク店に電話をかけると、5回ほど呼び出し音が鳴り電話がつながった。
「はいレンタルバイク〇〇・・です・・・」
とても商売人とは思えない、寝起じゃないかと思うような口調の男性が電話に出た。
「あの、バイクレンタルしたいんですけど、月末の土曜日、CB1300かXJR1300空いてますか?」
・・・・すると無言のまま電話保留の音が流れだした
おいおい、なんだその態度!
「確認いたしますので、少々お待ちください、だろーが!まったく」
1~2分ほど待たされた後、相変わらずな寝ぼけた様子で
「ないっすね、CBとペケジェー」と言いやがった。
おいおい、その口のきき方なんだよ!ないっすね~だと!
「・・・そ、そうですか、それじゃードラッグスター1100っ・・」
【せんひゃ】くらいまで言ったところで、その寝ぼけ野郎はオイラの声をかき消すかのように
「あー、修理中なんで無理っす」と食い気味に言いやがった。
カッチーン!
この野郎なめてんな!
しかし、ここでレンタル出来なければ、最高潮に盛り上がった俺のハートを誰が受け止めてくれるのか!
ここはグッとこらえて、最後の1台を告げてみる。
「じゃあ、ゼファー750はいけますか」
「ちょっと見てみますね」
なんだよ!一応敬語は使えるじゃないか。
きっと昨晩は、遅くまで点検や修理で残業して
なおかつずっと休みもなく働いている青年に違いない。
もしかすると、とてつもなく薄給なのかもしれない。
あーそうだ、きっとブラックな環境に違いない。
そう考えると、態度が悪くなるのもしょうがないさ!と思えてきた。
そんなどうでもいい想像をしていると
「月末の土曜日ゼファー750大丈夫ですね。予約しますか」という返事が。
いいいいいい、やっほ~!
本当はハーレーに憧れていたんだけど、当時はハーレーを借りられるお店が無く、国産車を借りることになったのだが、それでも飛び上がる程嬉しかったのを覚えている。
こうして、オイラの大型バイクデビュー日が決まった。
まだ妻には何も話してないにも関わらず・・・
つづく
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