第12話「ツーリング前夜(後編)」
妻からヘルメットを受け取り、先に家に帰るように告げた俺は
このCB1300SBに慣れるために、遠回りして帰る事にした。
いよいよこいつを走らせる時が来た。
何ともいえない高揚感と緊張感が全身の毛を逆立たせる。
ワクワクが止まらねーぜ!
ヘルメットをかぶり、大きな車体に跨ってみる。
で、でかいぞ!
想像以上にデカい!
サイドスタンドを下げたまま、少し車体を起こしてみる。
おおおおお!重い!260kg超えるってこういう事か。
乗れるのか俺!?
ヘルメットの中では強張った表情だったに違いないが
あくまでも平静を装い、エンジンをかけてみる。
勢いよくセルが回り、ドドーンという震動と共に野太いマフラー音が響き渡る!
おおおおおおおいおい!
なんだよこのマフラー音!
これでノーマルなのか?
やる気にさせるじゃないの!こんな音聞かされたら、もう笑いしか出てこないっつーの(笑)明日のツーリングを想像するだけで、興奮してくるわ。
密林で購入したグローブをはめ、クラッチを握る。
そして恐る恐るアクセルを捻り、ゆっくりとクラッチがつながる感覚を確認する。
すると拍子抜けするほどスルスルと車体は動き出した。
バイク屋の駐車場を出て、公道に合流するまでは緊張感を持ってないと、
そう思いながら合流地点までゆっくりと進んでいく。
歩道を横切る様に公道へ出るのだが、
通行量が多い幹線に出るためには、歩道の急激なスロープを降りる必要がある。
ところが、この歩道につけられたスロープ、スロープとは言いがたい、しっかりとした段差がついている。
店から歩道へは約30mほど。
2速でゆっくり進みながら歩道へ近づいていく。
道路が見えてきた所で、右からの来る車を確認。
止まるつもりでブレーキをかけながら、ゆっくりと減速していく。
歩道の端に差し掛かった所で一旦停止するつもりだったので、まさに今左足を地面に付けようとしたその時、オイラの予想に反して右から来た車が止まり、お先にどうぞの合図。
えっ!?
予想外の状況に、慌てて2速のままラフにクラッチミートしたその瞬間!
無情にもガクン、という衝撃とともに、バイクはエンストした!
左足をつこうとしたタイミングだったので、車体はやや左に傾いている。
そんな状態でエンストしたら、当然車体は左方向に倒れだす。
やばい!
とっさに左足を地面におろし全力で踏ん張った時、足に痛みが走った。
痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
260kgの車重が容赦なく左足にのしかかる。
気合いだ!踏ん張れ俺!
そして、ギリギリのところで踏ん張り切ったオイラは、車体を立て直す事に成功した!
恥ずかしさもあり、譲ってくれた車にペコリともせずに、逃げるように走り去るオイラだったが、あまりの足の痛みに、遠回りもせずに帰宅した。
その後、社用車を会社に戻し、結局家で夕飯を食べたのは22時を過ぎていた。
風呂に入り、左足に湿布を貼って寝たのだが、その晩は足の痛みでしばらく寝付けなかった。
翌朝起きて足を見ると、甲がひどく腫れているではないか!
しかも昨日より痛い!
今日は楽しいツーリングなのに、なんて事だ。
とはいえ、オイラの辞書にツーリング中止という言葉はない!
痛む足にバシバシと湿布を貼り、テーピングで足を固める。
エンジニアブーツで行くつもりだったが、当然こんな足では履くことができず、泣く泣く大きな長靴で出かける事にした。
こうして、痛くも楽しいツーリングが始まるのだった。