第3話「乗れない豚はただの豚だ」
深刻な表情の妻に対し、樹海に一人置いてけぼりをくらったかのような、不安な表情のオイラ。
その間、おそらく1分程度だったのではないかと思うが、オイラにとってはとてつもなく長い時間だった。
とその時、おもむろに顔を上げた妻が衝撃の一言を言い放った!
「じ~つ~は~!できちゃった~っ♥赤ちゃん!!」
いたずらっ子のような笑顔で無邪気に喜ぶ妻。
それに対し、すぐに状況が呑み込めず放心状態のオイラ。
そりゃそうだ、目の奥底は暗く淀んだ雰囲気を醸し出し、かと思うと鋭い眼差しで下からオイラを見上げる。
それはまるで迫真の演技をする「満島ひかり」のようだったんだ!
急に「UQモ〇イル」の「UQEEN」のようにおちゃめな姿見せられても、すぐに脳みそは切り替わらないってwww
そんなオイラの表情をみて、
「ちょっと!リアクション悪いんだけど!」と妻。
この一言で、我に返った俺のもとに、突然感動の波が押し寄せてきた。
急降下からの急上昇。
操縦かんは握っているつもりでも、感情のコントロールはすでにできなくなっている。
「やった~!やったね~!ありがとう!ありがとう!涙」
子供が欲しいとは思っていたが、いつかはできると思いながら数年が過ぎ
少し焦りを感じだしていた矢先だったので、喜びはひとしおだった。
そして大きな大きな感動の波が押し寄せてくる。
最近では、感動系CMくらいのレベルでダムが決壊し、大粒の涙がこぼれ出す。もはやこの高ぶる感情を止める事は不可能で、穴という穴から涙がこぼれ出すのではないかと思う程泣いた!
「ほんとに!?もう最高の気分だよ!最高!最高だ~!本当にありがとう!」
こうして新米パパが誕生するわけだが、その数週間後、予想外の問題が勃発した!
子供の名前を考え始めていたある日の夜、ハーレー雑誌VIBESを読みながら晩酌をしていると、妻が衝撃的な一言を言い放った。
そしてその一言は、オイラのハートをぶっ壊すには、十分すぎるものだった。
極太の支柱が、いとも簡単に破壊され、大きな建物がガラガラと音を立てて倒壊していく、まさにそんな様相であった。
つわりで苦しむ妻は、すこぶる機嫌が悪い。
イライラしている様子の妻は、いきなりオイラに嚙みついてきた!
「いつもニヤニヤしながらエッチなバイク雑誌読んでるけど、子供できたんだから、バイク購入とかありえんけんね」
えっ?えええっ?
・・・バイク買うって顔に書いてあんの気づかれたか??
微妙なリアクションをする俺をしり目に妻が畳みかける
「さて問題です。第1問!子供ができたんだから、いつバイクに乗るタイミングがあるのでしょうか?」
いや、そ、それは・・・・
ほら、土日祝は仕事も休みなんだから、1か月に1度くらいは乗ってもいいやん・・・
あっ!ついつい買う前提で話を進めてしまった!!!
すると間髪入れずに妻からの攻撃が。
「はーっ??やっぱり買うつもりなんやね!子育てなめんでよ!シングルエイジの間は全力で子育てしなきゃでしょ」
「それになに?土日は仕事が休みなんだからって?私は365日子育てと家事をする事になるんですけど。あなたも土日くらいは家の事や子育てしようって思わんと?まさか思わんとかないよね?」
いや、もちろん週末のみならず平日もできるだけ協力するってば・・・
だから1日くらいは大丈夫やろ・・・・ね・・・・
「大丈夫って?それは何を根拠におっしゃってるんですか?」
怖い!その「敬語」怖いって
「あーそうですか!それでは第2問!うちに大型バイク買うお金と、それを維持する余裕なんてあるんでしょうか?子育てにはいくらお金がかかるか試算されているのでしょうか?シンキングタ~イム!」
「チッチッチッチッチ・・・・ブッブーッ!時間切れです!正解は~」
もうそれ以上言わんでいい!!!!!
バイクとか買わんどけば良いんやろ!!!
それぐらい理解できるけん!
突然の出来事に、逆切れする余裕すらなく、
怒りながら承諾するを得なかったオイラ。
ハーレー購入までの道のりは遠く、それはエベレストに登るくらい困難にさへ思えてきた・・・
こうして大型二輪免許を取得したにもかかわらず、バイクに乗れないただの豚が誕生したのだった。
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