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第9話「渾身のプレゼンテーション」

その晩は、クライアントがバイカーだった事を妻にアピールする気だった。

今晩どうしても妻に話しておきたい、そして「クライアントのご接待」という名目でツーリングの承諾を得たい!
そんなことを考えながら1人で夕食を済ませ、風呂に入った。

湯船につかりながら、妻へのプレゼン内容をじっくり考えてみる。
どう考えても今回のプレゼンは負ける気がしない。
Yes!と言いながら湯船でガッツポーズしてる自分に、油断するな!まだプレゼンは始まっていない!と言い聞かせる。

30分程度で風呂から上がり妻の様子をうかがうと、すっかり寝落ちしているようだった。

ああ、やっぱり今日はダメか・・・

しょうがないので、キッチンに残った皿を洗い始め、最後の1枚を洗い終えた時、眠そうな顔をした妻が起きてきた。

しかし、なんでだろう。
オイラが洗い物を終えた直後に妻が起きてくる。
いつも違った時間にやっているのに、まるで分ってそうしているかのように思ってしまう。
いや、きっとオイラの勘違いに違いない。
勝手な想像をしている自分が小さい人間に思えてきた。

いかんいかん。
片付けは嫌々やっている訳ではない!
できるタイミングがあればやる!
子供が生まれてからは夫婦協力し合う!
そう決めたじゃないか!

まして今夜は重要なプレゼンが控えている。
こんな色眼鏡で妻を見てはいけない!
色よい返事をもらわなければいけないんだから。

すると、あくびをしながら起きてきた妻が笑顔で
「お皿洗ってくれたんだね。ありがとう!」と言ってくれた。

そう!その一言があるだけで良かったと思えるよね。

「やれる方がやればいいし、家のことは誰の仕事って決めてるわけじゃないから、オイラもできるだけやるよ」

そんな笑顔のオイラの前には、同じような笑顔の妻がいた。

こりゃ良い流れだぞ!
よーし、今日は良いプレゼンができそうだ。

お互いに今日の出来事を報告しながら、まったりとした時が流れていく。
その空間は、春のような暖かさに包まれている。

空気はしっかり温まった。
そろそろ本題に入るか。
満を持してオイラのプレゼンがスタートした。

「今日ね、例の大手クライアントとの打ち合わせだったんだけど、実はその人がバイクとキャンプのエキスパートだったんだよ!すっかりキャンプとバイクの話で盛り上がってさ~」

「バイク」というキーワードに一瞬妻の表情が曇るも、かまわず話を進めていく。

これは、バイクよりもキャンプネタで話の流れを作っておいた方が良いな。
そう判断したオイラは、ファミリーキャンプネタに絡ませながら、その場を盛り上げていく。
オイラ同様、アウトドアが好きな妻。
早く家族でキャンプ行きたいね!などと話は盛り上がってきた。

そしていよいよプレゼンは核心へ。

「でね、そのクライアントがぜひ一緒にツーリングしましょうって言ってくれてるのよ。来月オイラの都合に合わせてくれるらしいから、1日だけ家を空けていいかな。ごめんね」

すると、急に妻の表情が変化した・・・・
でも「大手クライアント」というキーワードは刺さっているようだった。

すると妻が、少し語気強めで
「だいたいさ、子供がシングルエイジの間は、しっかり子育てしないとダメだって、いつも言ってるの理解してるよね」

「もちろん分かってるさ。だから子供の習い事とか、何かしらの予定が入ってる日に合わせて行くから。クライアントもそれに合わせてくれるって言ってくれてるしね」

あまり快く思っていない感じの妻だったが、
「じゃあ、子供のスケジュール確認しとくから、明日まで待って」
という言葉を勝ち取ることができた。

そして翌日、待ち望んだ2回目のバイクツーリングが確定した。
神様!どうか今度は気持ちよくツーリングさせてください!

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