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第8話「ほろにがデビューからのチャンス到来」

ライダーとしての経験がまったく足りないことを思い知らされた大型バイクデビューから半年。

その間、1回も大型バイクに跨る事もなく、乗ったものといえば、通勤快速号PCXとドイツ製小型ワゴン車だけだった。

モトブログと、バイクの中古車サイト閲覧がベッドでのルーティーンとなり、ますますバイクへの憧れは高まるばかり。

そんなある日の事、オイラのハートがメラメラと燃え上がる出来事があったんだ。

いつもお世話になっているクライアントと、来年度の打ち合わせも終了し、いつもの様に雑談タイムに突入したんだけど、その日はいつもと違っていた。

雑談とはいえ、通常は仕事の延長線上の話や、いま話題になっている事なんかを話しているんだけど、その日はなぜかお互いのプライベートな話題に。

「いやぁ、実はここ半年ほどバイクの事が頭から離れなくて・・・せっかく大型二輪の免許を取ったのに、レンタルで1度乗れただけなんですよ。もう乗りたくてしょうがなくて」オイラがそういうと・・・そのクライアントさんの目が突然キラキラと輝きだした!

「えっ?大型持たれてるんですか?実は僕も乗ってるんですよ!」そういうと、内ポケットからスマホを取り出し、自慢の愛車を見せてくれた。

な・なんと!漆黒のBMW S1000Rだ!

スマホの中から次々と出てくるツーリングの写真。聞くと、かれこれ20年ほどバイクに乗っているらしい。

ドラスタからスタートし、大型取得するや「隼」を購入。
そこからBMW×2連荘で現在に至るらしく、今のS1000Rが一番気に入っていると言っていた。

聞けば聞くほど羨ましい話なんだけど、臨場感のあるバイクネタは、酒のつまみになる程の美味さだ。

オイラのような「にわかライダー」と違い、20年にわたりバイクを愛し続けた漢(おとこ)は、なぜこんなにも魅力的なのか!?
まるで恋する乙女のような眼差しでクライアントさまを見つめるオイラは、ますますバイクにのめり込む予感しかしなかった。

気付けば打ち合わせ時間も1時間半。
おそらく、その3分の2はバイクの話だった気がする。

次回ぜひツーリングに誘ってください!
この時の「次回ぜひ」は、「今度飲みに行きましょ」という社交辞令とは明らかに違う、まさにこれは「愛の告白」だwww

クライアントの会社を後にしたオイラは、妻に対して良い言い訳ができたとほくそ笑んでいた。

思い立ったら即行動。よーし、今晩妻に話をしよう!

クライアントとバイクの話で盛り上がった事を。そして、そのクライアントは俺の大口のお客様であることを!こりゃ、さすがの妻も反対できまい。何しろ相手はクライアント様だからなwww

「接待ツーリングは最高~♪接待ツーリングにさ~いこ~♪」心の中でそう歌いながら、妻へ伝えるストーリーを考える。

まずは、クライアントとの出会いからだな。
そして最近大口のクライアントになった事も話に盛り込んどこう。
たまには接待でもして、絶対に離すなと会社からも言われている事も(ここは大げさに)
あとは・・・すごく良い人だってことも追加情報として加えとくか。
とにかく重要なクライアントであることは、しっかり認識してもらった上で「接待ツーリング」の約束をした事を伝えるか。
よーし、あとはその場の雰囲気で臨機応変にやるぞ。

これでシミュレーションもバッチリ。

いつもより何倍もテンションが上がっているが、あえて冷静に振る舞わないと、浮かれているなんて思われたらいかんからな。

家路に向かう道すがら、そんな事を考えているオイラの表情は、確実に緩んでいるに違いなかった。

自宅の玄関前に立ち、大きく深呼吸をすると、オイラはいつものようにドアを開け大きな声で言った。
「ただいま~」

部屋のドアを開けると、寝かしつけ中の妻が鬼の形相で俺を睨んでいた!

眉間にしわを寄せ、口をパクパク動かしてオイラに何か言っている。

「ちょっと!いま、寝かしつけしてるんだから!静かにして!!」

解読するとそう言っているようだった。

こりゃヤバイ空気感だ・・・・
うん、今日は言わない方がいいな!
・・・でも言いたい。

つづく


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