「ヨシタケシンスケ展かもしれない」最高でした
ずっと行きたかったんですよ。
……何にかって? それは、「ヨシタケシンスケ展かもしれない」に、です。
(完全なる余談ですが、行ってきたというのに、これを書くために調べ直すまで「ヨシタケシンスケかもしれない展」だとずっと勘違いしていました。
ううむ、展の位置を盛大に誤解していたぞ……?)
あの、自分は絵本がすごく好きなんですよ。これを語りだすと止まらなくなってしまうのでここでは割と割愛しますけど、本当に好きなんです。
で、ヨシタケシンスケさんの絵本も当然のことながら大好きなんです(なお、一番好きなのは『もうぬげない』。洋服が脱げなくなって絶望するちみっこの絵本です。健気で愛おしくて可愛らしい絵本なので、気が向いたらぜひ読んでみてください)。
もう ぬげない | ヨシタケシンスケ | 絵本ナビ:レビュー・通販 (ehonnavi.net)
ヨシタケさん作品の中で最初に読んだのは、『りんごかもしれない』でした。
これを読んだ時、その柔軟な発想に、いい意味でがつんと頭を打ちのめされました。
既成概念にとらわれず、柔軟で幅広い発想力をお持ちな素晴らしい絵本作家さんだなと強く感じて、それ以来すっかりファンになりました。
個人的な考えで恐縮ですが、小さい子どもに哲学的な思考や柔軟な発想を身に着けてもらう際には、ヨシタケさんの絵本はとても効果的だと思います。
……いや、寧ろ子どもの方が大人より柔軟な発想力をもっているから、これは大人が学ぶべき本なのかもしれませんね。
で、話を元に戻しますけども。
去年くらいから、雑誌「MOE」の裏表紙とかでしきりに宣伝してたじゃないですか。「ヨシタケシンスケ展かもしれない」。
東京でやっている頃から既に行きたかったんですが、その頃はどうもコロナ禍がひどかったし、ワクチンを最後に打ってから大分経っていて、行くのは怖かったし……と二の足を踏んでいる内に展示期間が終わっていたのです。なんてこった。
泣く泣くTwitter(未だにそう呼んでる)で行った人の感想レポートやら写真やらを眺めて回り、何やら「うるさい大人を黙らせる玉入れゲーム」があるなど、いろいろ面白い趣向が凝らされていることが分かりました。
その結果、もっと行きたくなった訳でありまして……。
この当時、行ける範囲では当分やる見込みが無かったので、調べなければよかったかもしれない、と若干後悔したという。
まぁそれは置いておくとして。
そんなこんなで、日本全国を巡業していた「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が、久々に関東圏内に戻ってきたので、これはラストチャンスではあるまいか? と一念発起しました。
丁度今年の3月にコロナのワクチンも打ったし、4月には麻疹の追加接種も超今更ながらにやったし。
一通りの予防はしているからいいかなぁと考えたのです。
が、玉入れゲームのような参加型の展示がちらほらあるようなので、一人で行くのでは面白みが半減しそうだなぁ……。
と思っているまさにその時、以前出かけた学生時代の友人から「遊ぼうー」と連絡が来ました。
渡りに船とはまさにこのこと!
友人たちに「ヨシタケシンスケかもしれない展」に行かないかと喜び勇んで声を掛けると「いいね!」と賛同してもらえ、皆で出かけることになりました。
(なお、展示の期間はもう終わっています。
自分が行ったのは7月の終わり頃でした。)
しかし、そごう横浜店にたどり着くまでは良かったのですが、肝心のそごう美術館が…なかなか…なかなか見つからない……!(笑)
「ヨシタケシンスケ展かもしれない」の宣伝もどこかで見かけた気がしたし、エレベーターには美術館の階が記されていたし、てっきり六階にも美術館までの案内板が出されているものとたかをくくっていたのですが……全然見つからず……!
結果、美術館前で落ち合う予定でいたのに、なぜか先に雑貨店を眺めている友人と落ち合うことができました。ランチョンマットを探していたそうです。
で、二人で美術館を探したのですが、二人でも「あれ? どこにあるんだろう?」とあちこち暫くキョロキョロ。最終的に、親子連れがたくさん並んでいる列を二人で発見し、あそこかな、と向かってみたらビンゴでした。もう一人の友人とも無事合流。
入口のこの子を見て、ああー、やっぱりヨシタケシンスケさんらしいユーモアに溢れているなぁ、とわくわくさせられました。
……んん? これ、今改めて見てみたら、おしっこがちょっぴり漏れてますね(笑)現地では気づかなかったです。
さすがはヨシタケさん、なかなか攻めてますね……!
……ん? とするとこの青年、にこやかにお出迎えしてくれているけど、自身の失敗を元に来場者に注意喚起してくれているということになりますね🤔
なんて優しい子なんだ……!! 君の未来にいいことがありますように……!
確かに、美術館の展示を観る前にトイレに行っておくのは大切なことですよね。ゆったり時間をかけて観たいですし。何度もトイレの確認をしてくれるなんて、手厚い配慮ですね……!
あちこち見て回るぞ、と喜び勇んでいるときにこの表示が目に飛び込んできて、すごく嬉しくなりました。
ヨシタケさんのイラストは本当に素敵なので、記録に残したくなりますからねぇ。
随所に溢れるヨシタケさんのユーモアに、思わず好奇心がおさえられなくなりました。
この展覧会の一番のみどころは「あなた以外のお客さん」というのも、何ともヨシタケさんらしいユーモラスな切り口です。確かに展覧会の会場には、同じものに興味のある人々が一堂に会します。展示品はずっと期間中そこにありますが、そこを訪れる人はまさに一期一会。そう考えると、確かに自分以外のお客さんの存在が実は密かに重要なのかもしれません。
入口付近にあった「カブリモノシリーズ」はなかなかシュールでした。若干、闇のようなものも感じられました。面白い作品もありましたが、中には少し陰鬱な雰囲気が表れている作品もあったように思えました。そういうのも個人的に惹かれるものがあるので、興味深く拝見しました。
ヨシタケさんが学生時代に制作されていたもののようで、27年前に学生だった頃にも、そごう9階の市民フロアに展示してもらったことがあるそうです。
”異形頭”などの昨今の流行りを考えると、ヨシタケさんは若くしてその先を行っていたのだなぁと感じました。
ヨシタケさんのメモ帳が壁一面に所狭しと貼りつけられているスペースは、大勢のお客さんがじぃっと目をこらして見つめていました。自分もその中の一人です。
一枚一枚じっくり見たいところでしたが、そうもいかなかったため、一部だけじっくり眺めました。もともと小さい紙なのに、その中に豆粒のように小さなイラストがぎゅっと詰め込まれていました。視力が良い方ではないので、そういう意味でもじぃっと眺めたという感じですね…!(笑)
なお、館内の展示の側には至るところにヨシタケさん直筆の黄色い付箋が貼られていて(他の方の呟きなどを見た感じでは)、一部の付箋は後から増えている? 様子でした。たまにヨシタケさんも足を運んでいたんでしょうか。それとも事前にたくさん書いておいた付箋を、徐々に展覧会のスタッフに貼っていってもらったのかな? どちらにしても、この付箋一つひとつからとても遊び心を感じられて良かったです。
友人がすごく面白がっていたのは、片側の壁にはみかん(制作物)が埋め込まれていて、「はんたいがわはなんだとおもう?」とヨシタケさんの付箋があり、後ろ側を見ると、そこにはりんご(制作物)が埋め込まれていたコーナーでした。ひとひねりしてある感じが何ともヨシタケさんらしくて自分にとっても印象に残りました。
ヨシタケさんの絵本の原画や下書きがあちこちに飾られていて、これがあの絵本の原稿かぁ……と感慨に耽ったりもしました。
また、絵本をつくる際にヨシタケさんが構想を練るために考えついたことを一面に書き残している紙なども引き延ばされて貼られたりしていました。
ヨシタケさんの思考回路を覗かせてもらえた感じがして、興味深かったです。常に日常にアンテナを張り巡らせて想像を膨らませていることが、その貼り紙からもすごく感じられました。創作者とはかくあるべし、というお手本を見せていただいているような気がしました。
展示会に行ったことで初めて知りましたが、ヨシタケさん作品は着彩はデザイナーさんがしてくださっているんですね。その後、改めてヨシタケさんの絵本をよく見たところ、着彩担当者の名前がしっかり書かれていました。
『りんごかもしれない』制作時、「絵本作家らしく色もつけよう」とコピック全色を買いそろえたそうなのですが、最終的にお蔵入りし、以後、原画は白黒で着彩はデザイナーにお任せ…というのが定番になったそうです。展覧会ではヨシタケさんが試しに彩色した『りんごかもしれない』の一シーンが飾られていました。
そこにあったヨシタケさんの付箋によると
『「色は…う~ん…デザイナーにつけてもらいましょうか!」(編集者)
絵本作家・ヨシタケシンスケ誕生の瞬間です。』
『自分で色をつけなくて本当によかった…』 とのこと。
コピックの着彩も綺麗だったので作品として観てみたかった気持ちはあるのですが、なんとなく塗り方に迷ってヨシタケさんが試行錯誤している感じも伝わってきました。
この展覧会の面白いところは、体験型スペースが随所にあることです。
そんなこんなで、あちこち巡ってまいりました(体験型スペースについて書く際は番号を振ります)。
①つまんないかおでしゃしんをとろう!(絵本『つかんないつまんない』より)
ソロ活では楽しめないスポットその1。
意外と、敢えてつまんない顔をするのって難しいんですね……!
写真撮影って大体「笑って笑ってー」という雰囲気になるので、逆に「笑わないでー」というのが難しかったです(笑) あと、顔はめスポットが赤ちゃんの顔の部分になっていて、大人からすると顔をはめづらい(苦笑)主に子ども向けだからなんでしょうね。
でも、自分たちも含め、結構大人の人も写真撮影を楽しんでいましたよ。
②あなたもりんごかもしれない(絵本『りんごかもしれない』より)
カメラの前に立つと、立った人間たちの顔をランダムで『りんごかもしれない』に登場する謎の”りんごかもしれない”物に変えて映してくれる優れもの(?)! その時によって違う「〇んご」に変えて映してくれるので、面白くて何回も顔を映しに行ってしまいました(笑)
③じごくのトゲトゲイス(絵本『このあとどうしちゃおう』より)
”ようこそじごくへ” ”せっかくなのですわってください”
と書かれた札を赤鬼、青鬼が持って待ち構えてくれていました。
自分たちの前に座っていた人たちが「あれ、思ったより痛くない」と口にしていて、勇気を出して座ってみると、確かに見た目ほど痛くは感じませんでした。短パンとかスカートの人が座ると痛いのかな? なんとなく、つぼ押し機に座っているみたいな感覚でした。
④『てんごくのふかふかみち』(絵本『このあとどうしちゃおう』より)
”ようこそてんごくへ!” ”あるいてみて!” ”まってるよ!”という札を持った天使たちがいました。
こちらは人が多くてなかなか踏みにいけなかったので、隙を見てちょこっと踏み踏みしてきました。ふにゅーっと柔らかい踏み心地で、気持ちよかったです。
なお、この近くに、絵本『ころべばいいのに』の”アイツ”が展示されていました。結構大きいりっぱな見た目をしていました。
これも良かったですし、その他に個人的に立体作品で好みなのが、
『西日』『ておくれ君』『トイキ』ですね。
前者二つは哀愁漂う表情が好みで、後者はなんというか…展覧会当日が暑い日でしたので、風が涼しかったのがありがたかったというのもありますし、展示に添えられていた文章も興味深かったことなども理由に挙げられます。
あと、名前がわからないけれど、木のお椀に目と(持ち手が鼻で)口がついている作品も可愛らしくてよかったです。
⑤うるさいおとなを”りんごで”だまらせよう!
このゲーム、ちょっと並びました。皆、日々の鬱憤を晴らしたかったのかもしれませんし、単純に玉入れが面白そうだったからかもしれません。
早速やってみると、これがなかなか難しい。一回目は、自分は一人しか黙らせられませんでした。
うーん、悔しい! と思い、ちょっと迷いましたがもう一回列に並んでみることに。全員を黙らせられる自信は全く無かったのですが、ちょっと不完全燃焼気味だったので再チャレンジしたかったのです。
少し並んで、また自分の番がきました。一回目はざっくりと取り組んだので、二回目のこの時は恐る恐る慎重に一つひとつ投げていきました。
すると結果は大成功! うるさい大人三人を見事にりんごの美味しさで黙らせることができました。正直なところ、けっこう嬉しかったです。
⑥これ、なーんだ?(絵本『なつみはなんにでもなれる』より)
ソロ活では楽しめないスポットその2。自分ひとりだったら恥ずかしくてとてもできないし、そもそも当ててくれる人がいなければやる意味もありません。
中に入った一人が、お題の立て札から一つを選んで入口側の穴から見える場所にそれを刺す。そして、書かれていたお題をジェスチャーで演じる。
外にいる仲間が、それを見て何のジェスチャーをしているか推理して当てるというもの。
答えは、外側の木の覆いを横にずらすと、内側にさしたお題のイラストで確認できるようになっています。
自分のジェスチャーは無事友人に伝わり、正解を当ててもらえました。
何をしたかというと「プールの後で耳に入った水抜き」(お題の文章そのものは忘れてしまったけれど、水抜きとは書かれていた気がします)。
子どもの頃のプール学習を思い出しながらやりました。友人から「分かりやすかった」と褒められてちょっぴり鼻高々。
友人にもジェスチャーをやってほしかったのですが、断られてしまいました。ちぇ。
展示の最後の辺りの「ヨシタケシンスケのかもしれない年表」も非常に興味深かったです。
小学生の頃は大工さんに憧れていたんですね。中高時代は漠然と将来への不安感が膨らんでいたのか「将来犯罪者になるかもしれない」と考えたりもしていて、大学時代は展覧会など行い創作に夢中になる一方で「楽しいのは今だけかもしれない」と考えたりもして、サラリーマン時代も「社会人はムリかもしれない」「この先つらいことばっかりかも…」と考えたりして、美術屋・イラストレーター時代には「この仕事は向いているかも」と思いつつ、「でも、ボクはどこかでズルをしてるのかもしれない」と葛藤し、絵本作家時代には「「できないこと」は役に立つのかもしれない」「でもこれはなにかのまちがいかもしれない」と煩悶し、そして今のヨシタケさんは「みらいはわることだけじゃないかもしれない」「そもそも、ものは言いようかもしれない」と思う。
会場入り口のカブリモノシリーズもそうでしたが、なんというか、やっぱりヨシタケさんも色々人生の中で感じるものや考えるものがたくさんあって、落ち込んだり苦しんだりした日々もあって、そういうのを全てひっくるめて今のヨシタケさんや、その作品たちがあるんだなぁと伝わってくる展覧会でした。
そもそも、ヨシタケさんの絵本はどれをとっても、色々人生の内でものごとを深く考えてきた人だからこそ表せるものごとがたくさん散りばめられていますもんね。
生きていて、嫌になることやしんどいことはたくさんあるけれど、それでも拙くても一生懸命生きていれば、こうしてヨシタケさんの展覧会に来てわくわくできる時もあるし、ヨシタケさんの絵本に救われる瞬間もたくさんある。
割と自分もネガティブ思考気味になってしまうことがあるのですが、ヨシタケさんが後ろ向きな気持ちなどもそうして展示で表してくださったので、ちょっとそういう自分が許されたような、(勝手な考えで恐縮ですが)仲間ができたような、そんな心強い気持ちにもなりました。
そして最後の体験型スペースがこちら。
⑦あなたのみらいはこれかもしれない!
展覧会の出口付近に置かれていたくじ引きの箱。自分の未来を暗示させる小さな紙が入っていました。 友人の一人は「かぐしょくにん」。自分の紙は今は手元に無いので思い出せずにいます(後で現物が見つかったらここに書き加えるかもしれません)。
そしてその後のお楽しみは、お土産購入と、一日限定30食のコラボメニューを食べること。
自分が一番好きな『もうぬげない』のお土産が色々ほしかったんですが、小さな布のキーホルダーしかグッズは無かったのでひとまずそれをゲットしてきました。他の作品はぬいぐるみとか色々あったんですけどね…!
コラボメニューは横浜そごうの10階「e.a.gran」というお店で頂けました。
自分は「りんごかもしれない白桃ぱふぇ」、友人は「アイツのにくしみソーダ」をチョイス。本当は両方食べたかったけど、冷たい物ばかり食べるのもよくないかな、と片方だけ。
自分の食べたのはりんごに見立てた白桃を使ったパフェで、ベリーソースやカスタードにヨーグルトクリームを合わせたものでした。見た目もさることながら、味もりんごっぽくて、ちょっと食べていて頭の中が混乱しそうでした(笑)
横で見ている友人も「そのりんごパフェ美味しそうだね」と見た目に騙されていました(笑)
いやぁ、すごく美味しかったです。
当然のことながら、このお店の他の食べ物もどれをとっても最高に美味しかったです。