リチウムイオン電池の行く末を、レアメタルを取り巻くグローバル環境から考察する
こんにちは!Dawn's note運営部です。
2023年に入ってから、レアメタル、特にリチウムを中心とした国際的な動きが活発化していることを皆さんはご存知でしょうか?
2023年5月、オーストラリアに拠点を置くリチウム資源開発大手オールケムと同業米リベントが合併を発表し、企業価値106億ドルの世界第3位のリチウム生産企業が誕生することとなりました。
さらに2023年7月、日本と欧州連合(EU)は、レアメタル(希少金属)など重要物資の安定供給を相互補完する方針を固めました。
覚書の原案では、
が青写真として描かれています。
その他にも、レアメタル関連のニュースが相次いでいます。
なぜ、今になってリチウム関連のニュースが増加しているのか?
本記事では、
・リチウムバッテリーのバリューチェーンと課題感
・注目すべき米レアメタル特化ユニコーン
・日本のレアメタル領域における勝ち筋
をカバーしていきます。
リチウムバッテリーのバリューチェーン
「レアメタル」は大変広義であり緩やかな資源群を指すため、本記事では差し当たり話題性の高いリチウムを扱います。
リチウムはバッテリーシステムの正極に用いられる材料であり、その最終主要用途はEVや蓄電池です。
蓄電池に欠かせないリチウムは、その希少性から「白いダイヤ」とも言われています。
バッテリーのバリューチェーンは、
①原材料とその加工からなる川上
②さまざまな部品の製造を行う川中
③部品の組み立てとエンドユーザーを含む川下
の3つのセグメントに大別されます(参考図1)。
-上流
現在、リチウム・コバルト・ニッケルといった鉱物需要が増加することで、鉱物資源が豊富な国への依存が世界的に構造化されています。
リチウムが採掘されている国はわずか8か国で、世界の供給量の85%をオーストラリア、チリ、中国が寡占しています。
一方、電池材料の加工の大部分は中国で行われています。
中国は世界のリチウム処理の約89%を占めており、中国大企業は、市場でのシェアをさらに獲得し国際競争力を高めるために、生産能力の拡大や買収に着手し続けています。
しかしこれに関して、同年7月にはオーストラリア政府が外国投資審査委員会(FIRB)の勧告を受け、中国関連企業による豪リチウム鉱山会社アリタ・リソーシズの買収を阻止したことを明らかにしました。
FIRBが重要鉱物を巡り中国関連資本の投資を認めなかったのは、今年2例目になります。
世界のリチウムの約半分、そして電気自動車や防衛関連品に使用されるレアアースなどを多く輸出しているオーストラリアは、国際的なレアメタル市場においてサプライチェーンの中国依存を減らし多様化を図る現在の潮流を受け、上記のような行動に出ています。
-中流
ブルームバーグNEFによれば、中国は中流のリチウムイオン電池サプライチェーンを支配しており、世界の部品製造の約60%を支配しています。
「中国は2025年までに世界のリチウムの3分の1を制御する可能性がある」とも言われており、アジア市場の優位性は今後数年も非常に高いと見積もられています。
一方、中国を筆頭としたアジア市場への依存のループを断ち切ろうと、欧米は様々な動きを見せています。
このように、特に中国を敵対視するアメリカにとってレアメタル政策は喫緊の課題となっています。
-下流
リチウムに着目すると、川下の製造用途のほとんどは中国におけるEV製造であることがわかります。
リチウムの最終用途別の国別消費割合(左図)、需要割合(右図)をみてわかる通り、リチウムの用途のほとんどは中国でのEV製造です。
EV・バッテリーに関しては、需要(販売数と普及率)は今後も大きく伸びていくと予測されます。
しかし、この需要に供給は追いくことはできるのでしょうか。
殊にリチウムにおいては、需要と供給とのバランスが衝撃的なほど崩れています。
ここには、各国が年々リチウム探査予算を積み上げているにも関わらず、生産量が頭打ちになっているという現状があります。
川上における課題は、大きく分けて
・中国資本への依存
・鉱物掘削の際の誤検知率の高さ
の2つです。
中国資本への依存状況は上記で述べたとおりです。
また、需要と供給のバランスが非対称な今、どの国家・会社も原材料やその価格の安定性を確保しようと、市場では鉱床の運営権と利権の奪い合いが活発化しています。
以下は運営権(右図)とその利権(左図)別にみた市場に占める各企業の割合です。一見寡占企業はいないように見えるものの、国別で見るとほとんどが中国資本の企業であることがわかります。
さらに、機械や採掘者が誤って何もない場所を鉱床であると認識してしまう誤検知率の高さは、
・レアメタルの眠る深海底での広範囲探査の難易度が非常に高い
・地域ごとに分布鉱物の割合や種類が異なるため、地域によって精密に探査方法を変える必要がある
→それだけの高度な技術がなかなか実現できない
という課題感からきています。
既存の資源探査ではこれらのペインのため誤検知率が非常に高く、わかりやすく言えば100回掘削すると1回だけ成果をあげる程度で、99%は誤検知に終わっています。
AI×鉱物採掘ユニコーン:Kobold Metal
ここで、これらのペインを解決しうる注目ユニコーンが、高い精度をもって鉱物採掘を推進するKobold Metalです。
本企業は、2023年6月20日にユニコーン企業となりました。
Kobold MetalはAIを使用して地球の地下をモデル化し、従来の技術では到達できなかった精度での鉱床発見・探索を目指しています。
彼らの技術は、地殻に関するあらゆる情報(地質報告書、土壌サンプル、衛星画像、学術研究論文、果ては100年前の手書きの現地報告書など3000万ページ相当)を組み込んだ巨大なデータベースを構築し、このデータを元にAI探査を行うことで実現されています。
彼らは実際の採掘作業にも参加し、具体的な採掘作業を通してさらなるデータの蓄積と探査精度の向上を行っています。
Kobold Metalの強みは、世界トップレベルの自然科学分野の博士号を持った人材と、AI・コンピュタの専門家たちが協働し、その複眼的観点から研究開発を行うことで鉱床採掘に特化した稀有なAIモデルの開発に成功している点です。
CEO自身が地球惑星科学の博士号を持つ科学者であり、その希少な頭脳とコネクションで他では真似できない会社を作り上げました。
AIと地質学の専門的知見を掛け合わせ、レアメタルの鉱床を100%の精度で発見できる日は、案外遠くないのかもしれません。
日本産レアメタルのポテンシャル
翻って、日本にレアメタルを産出できるポテンシャルはあるのかということを解説します。
日本は国土面積ランキングでは世界第61位にすぎませんが、排他的経済水域という意味は世界6位とトップクラスに広く、リチウム採掘市場の6割を占める中国の5倍近くにものぼる面積を誇ります。
ポイントは、日本周辺には火山国ならではの海底熱水鉱床(=海底火山などの周囲に多くみられ、海底から吹き出した熱水に溶け込んでいた金属成分が析出したもの)が多数存在すると予測されていることです。
ここで、資源を「持たざる国」である日本の状況を覆すかもしれないのが、「コバルトリッチクラスト」です。
日本の排他的経済水域を含む領海には、このコバルトリッチクラストが多く貯蔵されている可能性が高いと考えられています。
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構・金属海洋資源部長の五十嵐吉昭氏は、「日本を資源大国に導く? 海底に眠るコバルトリッチクラストが秘める大きな可能性」において「鉱物資源の少ない日本にもたらされたギフト?」と述べています。
コバルトはリチウムイオン電池製造における正極材料の一つであり、リチウム同様に需要が拡大して市場価格が高騰しています。
属地性の高いレアメタル掘削の領域において、日本にこのような海底資源が眠っていること、そして世界有数の経済的排他水域を誇っていることは、十分に日本におけるレアメタル事業のポテンシャルが高いことを表しています。
AIを筆頭に科学技術が発展する今、鉱床掘削の誤検知率という深いペイン、リチウムイオン電池に対する深い需要、そして日本産レアメタルの実用化・商用化を解決できるスタートアップの今後の登場に期待です。
文・リサーチ/ 八並映里香・劉又誠
クリエイティブ/ 池田龍之介
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