ひとは見かけによるのかも。
移動時間と妙な気遣いが一番の疲労原因日帰り出張の帰りに、京都駅でプチ贅沢なお弁当を買い込んで夕飯時のやや混んでいる新幹線に乗り込んだ。
自分の席は電源の確保できる窓際である。
余程の混雑状況でない限り、何か緊急でやりたいことや自分のうっかりの穴埋めのために電源が確保できる窓際の指定席をとることにしている。
自分の目を疑った。
何度も手もとの新幹線チケットと座席を見比べたが「それ」は無くならなかった。自分のチケットに指定されている座席に白いスーツケースとグレーのカーディガン、のみかけのペットボトルがあたりまえのようにちょこんと置かれているのであるが、周囲に人はいない。
キョロキョロとあたりを見渡すも間違えて置いたであろう持ち主は現れず、新幹線は無情にも出発する。
5分ほど経っただろうか。
荷物をどかさないことには座ることもできないため、何とも言えない怒りがこみあげてきて触りたくもない他人の荷物をまずはペットボトルを頭上の棚にぶんなげ、次にスーツケースとカーディガンを車両の最後尾の座席の裏に移動させて自分の座席を確保した。
持ち主はどこに消えたのだろうか。
後味の悪さと見ず知らずの持ち主への心配から、車両に来た制服の人に声がけをした。
「JRの方ですか?」
「えっと...車掌はすぐに来ます。」
「不審な荷物があって自分の座席に座れなくて困っています。すぐに呼んでもらえませんか?」
「あ。はい。」
簡単なやり取りで車掌を呼んでもらう。
来た相手に状況を説明していると、悪びれもせずにそいつはやってきた。
Gucci の GG marmont にそっくりな一般のコレクションではここ数年見たこともないデザインの黒いレザーのバッグをクロスボディでかけて。GGのロゴは今のクリエイティブディレクターの Alessandro Michele 時代のデザインなのだけど、バッグ本体のつくりとベルトのつくりがシンプル過ぎてみたことが無い。
ワンピースっぽい服に、ヒールのあるサンダル。ぼさぼさのセミロングのボブを無理やり尻尾のようにタオルゴムで束ねている。
通路側の席であることがわかるとそいつは夜間の室内なのに、サングラスを掛けて携帯をいじりはじめた。
大丈夫?
とうに日は落ちてて紫外線無いよ?
顔を見られたら困る自意識過剰な芸能人?
いや、顔を見られたら困る立場なら敢えて人の印象に残るような行動はとらないし、それなりに知れた芸能人なら普通指定席ではなく快適なグリーン車に乗ることだろう。
恐らく、こちらは単に礼儀のなってない女。
サンダルから覗くネイルもサロンで塗ったジェルネイルというよりは爪白癬の分厚い波打つ爪を隠すかのように雑に盛られたロイヤルブルーのエナメルが見えて、一連の行動の下品さと失礼さに納得のいく姿だった。
偏見や決めつけることは好きではないので、ひとは見かけによらないという持論だったけれど、態度や習慣は見かけに反映されるのかもしれない。
一連の行動で私の2時間を不愉快そのものにすることに成功した彼女はとてもすごい影響力なので、きっと魔王からの手先なのだろう。とても自然に私の魂を蝕もうとするその姿に魔王も喜んでいるに違いない。
そんな魔王の思惑になんて従ってあげないもの。
負け惜しみのように負の感情をクリアするために少しだけ消耗する私がいた。