レノファなスタジアムの話(28)続・スタジアム基準の話(2)
そういうわけで、前回の続編でございます。
今回は、ある意味J1クラブライセンスの判定結果よりも物議を醸している「J3クラブライセンス判定結果 (J3入会を希望するクラブ)」の結果についてです。
J3ライセンスについて
本題の前に、J3ライセンス(及びJ2ライセンス)とJ1ライセンスの違いについて説明しておきます。
そもそもJリーグのクラブライセンス制度はヨーロッパ各国で導入され始めた制度で(ドイツが最初だと言われています)、国際サッカー連盟 (FIFA) が2008年11月より導入したことを受け、アジアサッカー連盟 (AFC) が2009年3月に加盟国に対してAFCチャンピオンズリーグ (ACL) 参加資格としてクラブライセンス制度の導入を通達、2010年3月26日のAFC理事会において2013年シーズンからの導入を承認した…という流れになっています。
とはいえ、全てのクラブがACLに参加できる可能性がそれほどあるわけでも無く(今年の甲府のような例外もありますが)Jリーグに参入したてクラブにACLに参加できるレベルの諸基準を求めるのも酷な話ということから、2014年度に発足したJ3リーグでは、ACL参加基準よりも多少緩やかにした独自のライセンス制度が導入されています。
これがいわゆる「J3ライセンス」というやつです。
一応スタジアム話のnoteですので、スタジアムの基準に着目してみますと、
観客席はJ1の「15,000人以上」に対して「5,000人以上」
芝生席も安全性が確認できれば観客席としてカウント可能
全席個席で無くてもOK
屋根、大型映像装置、VIPルームは「設置することが望ましい」要件
ざっくり違いを書くとこんな感じ。
レノファが年1回試合を行っているセービング陸上競技場(SV下関、下関市営下関陸上競技場)は「J1/J2スタジアム基準」はクリアできていませんが、「J3スタジアム基準」はクリアしていた…といえばわかりやすいでしょうか。
(過去形なのは、2023年度からJ3のスタジアム基準でも「1500ルクス以上の夜間照明」が必須となったためで、SV下関はこの部分が充足していないため、現状ではJ3のスタジアム基準も満たせていません)
今回のJ3ライセンス判定の結果
さて、そういった前振りを踏まえて、今年のJ3ライセンスの判定結果が明らかにされました。
今回は「J3入会を希望するクラブ」、すなわち現時点でJFLに在籍するクラブが対象で、既にJ3で戦っているクラブについては後日判定結果が明らかにされます。
判定結果としては、ラインメール青森・クリアソン新宿・ヴィアティン三重・ヴェルスパ大分の4クラブに対して「J3クラブライセンス交付」となり、レイラック滋賀・高知ユナイテッドSCの2クラブに対しては継続審議ということになりました。
ここで注目すべきが、今年初めてJ3ライセンスが交付された「クリアソン新宿」。東京都新宿区をホームタウンとしており、2005年創設・2009年本格活動開始(東京都リーグ参戦)、選手が原則として社員選手であるなど、Jリーグ参入を目指すクラブとしても割と新しい部類に入り、立ち位置も少々独特なサッカークラブです。
JFLでは第21節を終わって4位と、上位につけています。
で、このクリアソン、実は施設基準(ホームスタジアム・練習場)の要件を明らかに満たしていません。
実際、昨年(2022年審査=2023年ライセンス)については「施設基準が未充足であると判断されたため、認定には至りません」との判断を下されています。
その状況から1年経って、施設に関して何らかの明確な状況の変化があったとは思えないのですが、今回に関してはJリーグが以下のようなコメントを付してライセンスが交付しています。
これに対して、既存のJリーグサポーターからはかなりの異論やら反論やらが寄せられているように見えます。
今回同様にライセンスを申請したレイラック滋賀が「施設基準に関して確認が必要な事項が残っている」との理由で継続審議となったこととの整合性もありますし、現在J3最下位の(JFLとの入れ替えの可能性がある)クラブが、2014年シーズンにJ2で5位につけながらも、施設基準(スタジアム)が未充足でJ1昇格プレーオフ参入の機会すら奪われたギラヴァンツ北九州ということも相まって、批判的な目線が注がれているようにも見えます。
(その他の理由、特にクラブ主導の応援スタイルなどでクラブに批判を集めているのも承知していますが、ここではその点には触れません)
クリアソンがJ3ライセンスを取得できた理由
Jリーグはライセンスの交付に当たって「東京23区というホームタウンの特性」という理由を付しています。
確かに、東京都区部(23区)で、Jリーグのリーグ戦を開催したことのあるスタジアムは以下の5つしかありません。
国立競技場
味の素フィールド西が丘(北区)
駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場(世田谷区)
江東区夢の島競技場
江戸川区陸上競技場
国立はさておいて、西が丘はWEリーグなど他のカテゴリでも多く使われるスタジアムですが、収容人員が7千人あまりしかありません。
駒沢は2万人収容でそこそこの規模があり、FC東京が(味の素スタジアム開場前に)ホームゲームを行ったことがありますが、照明設備が無く、東京医療センター(国立病院)が近接しているため照明設置が難しいと言われています。
夢の島と江戸川はJ3を開催するレベルならなんとかなりそうですが、収容人員5千人程度。
いずれにしても、国立と西が丘以外の3場は、J3ライセンスを満たせそうな感じではありません。
そうやって考えると、クリアソンは「国立でホームゲームを開催する」ことをプッシュしてJリーグに認めさせた…というのは考えられそうな気はします。実際、国立競技場の所在地は新宿区ですし、クリアソンはJFLで国立でのホームゲームを開催した経験も持っています。
加えて、一つキーワードになりそうな事項として、国立競技場は日本スポーツ振興センター(旧・日本体育協会)がコンセッション方式の導入を予定しており、運営権が民間に移譲される予定となっています。
(2023年7月31日公募開始、2025年度からの運営権委譲を予定)
そこら辺を踏まえると、「施設基準の例外規定」を少し拡大解釈して、国立競技場の管理運営権への参画・協力を前提に国立を「5年以内にホームとして使えるスタジアム」として確保する、と申請して、これが認められた可能性があるかな…と想像する次第です。
とはいえ、この程度で(というと表現が悪いですが)Jリーグが容認するかなぁ…というのも正直な感想としてあるのですが。
いずれにしても、本筋は「クラブが(行政の協力も得て)スタジアムの整備を進める」というのがライセンス制度導入の主眼の一つではあったわけで、その意味で言えば、国立競技場の「後利用」問題の解決に用いられているという状況証拠も含めて、個人的には「まあ、判らなくも無いけどさぁ…」といった感じの、後味の悪い結果だな、とは思うところではあります。
そういえば、代々木公園に球技専用スタジアムを!という構想もあるようですけど、クリアソンがこれにリンクしなかったことも踏まえて、どの程度実現に向けて動いているのでしょうかね。
というわけで、今回はここまでです。