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レノファなスタジアムの話(37)スタジアム整備費用の捻りだし方
レノファ山口FCのホームスタジアム、維新みらいふスタジアムは山口県が整備した陸上競技場兼球技場だということはご存じの方も多いと思いますが、サッカーに限らず、スタジアムやアリーナは建設費用が民間投資を行うには非常に高額なことと、その存在自体に公共的な性格が強いために、自治体が建設主体となっている事例が基本となっています。
自治体が建設主体になるということは、そこに充当されるのは「自治体の財源」となるわけですが、今回は、行政が整備するスタジアムの『費用の出所』についての話をしていきます。
自治体の自前財源
公共施設の整備に限らず、自治体の独自財源として一番用いられるのが「起債」すなわち「自治体が発行する債券」です。細かい話は財務省のサイトに委ねますが、ざっくりというと「自治体が建設費用等を市場から前借りする」、いわば「自治体の借金」ってことですね。
※よく「(自治体が徴収した)税金」が財源になっているのでは?という意見がありますが、こういった税金は「一般財源」と呼ばれ、使途の特定されない(=何にでも使える)財源として用いられるので、公共事業に一般財源が使われることは稀です。
起債は所詮は「前借り」「借金」なので、返済計画が成り立たないといけないわけですが、その返済計画に関しては国(財務省)の承認が必要となります。一方で、その「起債」の内容に公的な性格が見られる場合、国がその返済を一部肩代わりする制度(交付税措置)があります。
市町村合併が行われた時に用いられる「合併特例債」などはその典型。
で、スタジアムやアリーナを整備するにあたって起債を充当しようとした場合、完成後の施設がいかに「公共的な位置付け」を有するかによって、起債が認められるかどうか、あるいは国の償還補填があるかが変わってきます。
なので、スタジアムやアリーナの整備にあたって「公共事業的性格」を持たせようとするのは、費用を起債で賄おうとするが故の理由づけの側面もあったりするわけです。
スタジアム整備に使える補助金
自治体の独自財源以外の財源として「補助金」があります。
補助金にも大きく2種類があって、「国からもらう『国庫補助金』」と「公的機関や民間からもらう『補助金』」があります。
※詳細はスポーツ庁が「スタジアム・アリーナ改革の実現に活用可能な施策」としてまとめているので、そちらを見てもらうといいかもしれません。
国庫補助金
スタジアム整備で用いられる国庫補助金には一例として以下のようなものがあります。
国土交通省「社会資本整備総合交付金」:地方自治体が公園施設の一つとしてスタジアムを整備する場合、用地費の1/3または施設費の1/2を対象に補助
国土交通省「都市構造再編集中支援事業」:立地適正化計画に基づき実施する(スタジアム・アリーナを含む)公益施設整備事業において、主に周辺施設の整備事業に補助
内閣府「デジタル田園都市国家構想交付金」:地方自治体がデジタルの活用などによる観光等の地方創生に資する拠点整備を行う場合に補助
環境省「新築・既存建築物のZEB普及促進支援事業」:建築物のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング=建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物)化を推進するため、該当するシステム・エネルギー機器の導入に補助
この中で圧倒的に活用事例が多く、かつ使える金額も大きいのは国交省の「社会資本整備総合交付金」で、整備費の3分の1から半額が国からの補助となるのが非常に魅力的でもあります。
スタジアムやアリーナが単体ではなく「運動公園」の一施設として整備されることが多いのは、実はこれが最大の理由だったりします。
一方で、公園施設にするとその整備や利用に当たって様々な制約が生じるため「公園施設じゃなくてスタジアム・アリーナ単体だったらもっと使い勝手が上がるのに」という声も聞こえてきそうですが、実際のところはスタジアム・アリーナ整備に当たって自分たち(自治体)の直接の「手出し」を如何に節約するかを考えるので、こういうスキームを選択するのが一番都合がいいということになっているわけです。
民間の補助金
国庫補助金とは別の、民間(公益団体を含む)によるスタジアム・アリーナ整備に以下のようなものがあります。
(独法)日本スポーツ振興センター「スポーツ振興くじ助成金」:スポーツの振興を目的とする事業に補助。特に「大規模スポーツ施設整備助成」は、スポーツ振興くじ(totoやWINNER)対象試合を実施する競技場の新設事業に対象経費(上限40億)の3/4を助成。
日本サッカー協会「JFAサッカー施設整備助成事業」:都道府県サッカー協会等が行うサッカー施設の整備事業に対し助成。
民間都市開発推進機構「まち再生出資業務」:民間事業者が都市再生整備計画の区域や都市機能誘導区域等における民間都市開発事業を行う場合に金融支援を実施。
こちらで大きいのはスポーツ振興くじ関連ですね。ただし「大規模スポーツ施設整備助成」は対象経費の上限が40億円といわれており、フルスペックの競技場の建設費用に比べて若干見劣りするかなというのが正直な印象ですね。
ちなみに、「JFAサッカー施設整備助成事業」はスタジアム本体ではなくトレーニング施設やクラブハウス等にも適用できますので、こちらに使用するのが適切かも知れません。
というわけで、行政(自治体)がスタジアム整備するに当たって、思ったよりたくさんの資金メニューがあることが判りましたが、ではなぜ、自治体はスタジアム整備に積極的になれるのか、といったあたりについては、次回に触れてみたいと思います。