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レノファなスタジアムの話(38)自治体がスタジアムにお金を出す理由
そういうわけで、前回の続きです。
今回は、「なぜ自治体はスタジアム整備にお金を出す(出そうとする)のか」について触れます。
昨今(ごく一部の界隈で)話題の「税リーグ」なるインターネットミームに対する答えの一つになるかもしれません。
自治体がスタジアムにお金を出す理由
経済効果・地域活性化への期待
自治体がスタジアム整備にお金を出す理由の最大のものは、スタジアム(整備)に付随する経済効果や地域活性化を期待するものでしょう。
スタジアム・アリーナの整備にスポーツ庁と共に経済産業省が旗振り役を担っているのもそれを期待している証拠の一つで、「まちづくりや地域活性化の核となるスタジアム・アリーナの実現を目指す」ことを施策の柱に位置づけています。
具体例で言えば、広島市でサッカースタジアムを建設するに当たり、2019年(令和元年)5月30日に広島県・広島市・広島商工会議所がまとめた「サッカースタジアム建設の基本方針」では、冒頭に以下のような文言が載っています。
サッカースタジアムは、広島の新たなシンボルとして広域的な集客効果を高めるなど、広島市ひいては広島県全体の活性化につながるものであり、さらに、サッカーを通じた国際交流が期待できる中で、その建設場所である中央公園広場と平和記念公園が一体となった平和発信の拠点となることを目指す。
また、サッカースタジアムは、サッカーのための施設にとどまらず、都心部の更なる活性化に寄与することが期待され、スタジアムが都心部の再生の起爆剤となるよう、スタンド下を活用した賑わい機能の導入を進めるなど多機能化・複合化を図り、年間を通じて人が集まるスタジアムとしていくとともに、若者を含む幅広い世代が楽しめるような施設とする。
つまり、スタジアムやアリーナを整備することでその施設が交流拠点となり、そこから周辺部に人の流れが生まれ、地域が活性化することを期待する、というニュアンスが伺えます。
ニュアンスは若干違うかもしれませんが、道の駅の整備に力を入れている市町村が少なくないのと似たようなものかも知れません(道の駅は道路管理者が敷地を、市町村が施設を整備して地元の第三セクターが運営するのが一般的)。
老朽化施設の更新
次に整備理由として掲げられるのが、老朽化した施設の更新を機に…というのを目的としている事案です。
特に、国民スポーツ大会(旧・国民体育大会)開催にあたり、過去に整備した施設が老朽化したので…という点をきっかけにした施設の更新事例が非常に多いです。また、国体をきっかけに整備した施設の更新というのも理由として挙げられます。
ということなので、その多くは「陸上競技場兼球技場」であり、維新みらいふスタジアムもその一つなわけですね。
近年、国スポ(国体)の在り方の見直しが議論されており、その大きな理由の一つが「国体に伴う施設整備が自治体の重荷になっている」という意見だったりするのですが、国体が二巡目を終えようとしている中で、「国体を契機に全国各地にスポーツ施設を行き渡らせるという」役割が一区切りをつけつつあるというのは間違いがないところで、今後は国体等のイベントに左右されない、完成後の継続的な利用に応じた施設の整備が求められていくことになるのでしょう。
施設配置の適正化
もう一つ、これはあまり聞かない例かも知れませんが、「特定の施設の利用状況が集中し過ぎているために、別の施設を建設して利用を分散化させる」という目的で施設が整備されることもあります。
その一番の好例が、川崎フロンターレのホームスタジアム・等々力陸上競技場の専用スタジアム化です。
等々力陸上競技場は日本陸連第一種公認陸上競技場ですが、サッカーをはじめとする球技での利用頻度が高く、陸上競技大会がなかなか開けないという悩みが生じており、地元の陸上競技団体から「地域大会を開けるスペックの陸上競技場の新設」要望が出されていたほどです。
そこで、等々力陸上競技場を含む等々力緑地の公募設置管理(Park-PFI)を手掛けるグループ(東急が中心)が以下のようなスキームを提案します。
等々力陸上競技場の補助競技場を全面改修し、地域の陸上大会が開催できるスペックにまでグレードアップする。
その上で、等々力陸上競技場のトラックを廃止し、球技専用スタジアムに改修する。
これによって、陸上競技団体は(補助)陸上競技場単独での大会開催が可能となり、元々の等々力陸上競技場は球技専用となって陸上と球技(サッカー、ラグビーなど)棲み分けが可能になる、ということなのです。
実は陸上競技場兼球技場(その多くは国体をきっかけに整備されたもの)をJリーグクラブのスタジアムとして使用する場合、運用面で「陸上競技との棲み分け」が結構問題になることが多いのです。
レノファのホーム・維新みらいふスタジアムも例外ではなく、陸上競技イベントの開催に合わせてホームゲームの日程をずらすということも少なくありません。兼用施設なので稼働率は見込めますが、逆に稼働率が高すぎて、改修工事の必要が生まれても日程的な余裕がなくなっているというのが実情だったりもします。
特に維新公園は、陸上競技場兼球技場、アリーナ、テニスコート、野外音楽堂などが狭いエリアに集中していることもあり、実際の施設個々の利用度合い以上に混雑を感じるというのが正直なところです。「駐車場が足りない」というのはその典型例でしょう。
山口で新スタジアムの建設気運を高めようと思ったら、そういう方面(施設一極集中状態の解消)からアプローチするのも手かも知れません。
いわゆる「税リーグ」批判について
ここまで書いて、Jリーグに批判的な方達の中には、恐らくこんな意見を言う人もいるでしょう。
プロスポーツ(Jリーグ)のためになぜ自治体が税金を投じてスタジアムを整備しなくてはいけないのか
Jリーグのライセンスのために屋根を架けたりビジョンをつけたりしてグレードアップする必要はあるのか
プロスポーツは興業なのだから、自前でスタジアムを用意すべき
いわゆる「税リーグ」批判、というやつです。
で、この答えは実にシンプルで、
プロスポーツ興業に付随する(来場者による)経済効果や地域活性化を期待するのも自治体による施設整備の目的。何もJリーグだけのために整備するわけではない。(当然一般利用も見込んでいる)
Jリーグのライセンスで定められた項目の一部は「来場者の快適性や利便性」を考慮したものであり、どんな公共施設であっても来場者の快適性や利便性を考えるのは当然のこと(「客席をつければおしまい」というものではないし、そうでない施設は利用頻度が下がる)。
そもそも「スタジアム事業」だけで採算が取れるのであれば、最初から民間企業がやっている(たとえそれが野球場であっても)
特に最後の観点は非常に重要で、スタジアム・アリーナ整備に限らず「公共事業」として行政(自治体)が手がけている時点で、事業で利益を(積極的に)出すことは求められていないのですよ。
もし公共事業として手がけた事業で利益が出るのであれば、それはそれで「民業圧迫」「民営化を」という批判の誹りを免れないのは火を見るより明らかなわけですし、実際にそうなっていない時点でスタジアム運営が「民間企業が手を出さない(出しにくい)事業分野」であることは明らかでしょう。
(そういう意味では、これまで野球場や陸上競技場に関しては採算性を問う意見があまり聞こえてこなかったのが不思議でしょうがないのですけどね)
もちろん、今のご時世、公共事業・公共施設といえども赤字の垂れ流しは許される時代ではないというのは確かなのですが、施設を適切に整備・管理して収支トントンぐらいでまとめる為にどうすればいいのかというのを考えながら、様々な意味でバランスを取った施設整備と運営というのは大事だと思うのですよ。
だから指定管理者制度というものが存在するわけで。
とはいえ、新たなスタジアム等の整備に当たって、クラブやサポーターから「行政に(スタジアム・アリーナを)おねだりする」という願望が前面に来すぎると、そういった分野に興味が無い(或いはそういった分野が嫌いな)人びとから批判を受けるのは仕方のないことなので、そういった反対意見が前面に出てこないように、さまざまな材料を検証して「行政に(スタジアム・アリーナ整備の)必要性を訴える」ことが肝要なのではないかな、と思う今日この頃でもあります。
とまあ、ここまで書きましたが、では本当に『民間で整備したスタジアム』が皆無かと言えば、決してそうではないので、次回はそういった実例に目を向けてみたいと思います。