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レノファなスタジアムの話(42)スタジアムの適切なキャパシティを考える
まもなく2025年シーズンのJリーグも開幕を迎えますが、中国地方にホームタウンを構えるJ1クラブ、サンフレッチェ広島とファジアーノ岡山は、前売りチケットの売れ行きが非常に好調なようです。
特に、今季初のJ1参戦を果たすファジアーノ岡山の場合、シーズンチケットが開幕前に完売(クラブ史上初だそうで)、アウェイのチケットは争奪戦状態になっているようです。
思えば、岡山で実施されたJ1昇格プレーオフ決勝の時に、チケットが取れない一部の仙台サポーターがスタジアムの外から声援を送っていたなんてことがありましたね。
そんなわけで今回は、スタジアムの適正な収容人員ってどのくらいだろう?ということを考えてみたいと思います。
スタジアムの収容人員の話については約2年前にも書いていますが、そのアップデート版だとお考えください。
収容人員の「ルール」
収容人員についての決まりですぐに思いつくのがJリーグクラブライセンス基準。クラブライセンス交付規則の「第9章 施設基準」に以下のような定めがあります。
第34条〔施設基準〕
I.03Aスタジアム:入場可能数
(1) スタジアムは、Jリーグ規約に定める算定方法により、以下の人数が入場可能でなければならない。
① J1クラブ主管公式試合:15,000人以上
② J2クラブ主管公式試合:10,000人以上
(2) 当該スタジアムが前項第2号のみを充足する場合には、J1クラブライセンスは交付されないものとする。
すなわち「J1基準で15,000人以上」というのが一つの目安になっているわけで、これは割と広く知られているところだと思います。
その一方で、最近追加された条項で、以下のようなものがあります。
ただし、原則としてJリーグ規約第34条に定める「理想のスタジアム」の要件を満たし、ホームタウン人口等の状況、観客席の増設可能性(特に敷地条件)、入場料収入確保のための施策等を踏まえて理事会が総合的に判断した場合、5,000人以上(全席個席であること)で基準を満たすものとする。
つまり、「理想のスタジアム」の要件を満たし、様々な要件をクリアできれば、「5,000人以上(全席個席であること)」で基準を満たすものとする、という新たな指標が生まれているわけですね。
平均観客動員から考察してみる
では、実際にJリーグのホームスタジアムの適切な収容人員はどのくらいなのか、ということを考えてみたとき、一つの目安になりそうなのが「平均観客動員」になろうかと思います。
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国立競技場開催分が入っていて一概には言えないかも知れませんが、2024年シーズンで言えば、J1で20,300人ほど、J2で7,700人ほどが「平均の」観客動員数にはなっています。
とはいえ、最小観客動員を記録した日は多くがミッドウィーク開催分で、元々のスタジアムの客席数が少ない柏や湘南を別にすれば、20,000人から25,000人というのがJ1での平均観客動員の一つの目安にはなってきそうではあります。
一方J2は、平均観客動員が10,000人を超えているのが5クラブ(清水・仙台・千葉・大分・山形)で、9,000人台の長崎・岡山も含めればここら辺は常にJ1を狙うクラブな訳で、10,000人から15,000人というのがJ2で上位を目指すクラブの平均観客動員の目安になってきそうではあります。
来場者数のばらつき
さて、ここでこんなデータを用意してみました。
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(J.LEAGUE Data Site のデータを元に筆者が算出)
2024シーズンのリーグ戦の試合ごとの観客動員に対する標準偏差と、標準偏差の平均観客動員に対する比率を算出してみたものです。
「標準偏差」って学生時代に数学で習ったと思うけどよくわかんない…という人が大多数だと思うのですが、超ざっくりと言えば「データのばらつき」を表した数字、だと考えください。
これを見ると何が判るかというと、J1の広島、川崎、湘南、C大阪、柏、J2のいわきあたりは「観客動員のばらつきが小さい」、つまり、いつもコンスタントにこのくらいのお客さんが来ることが見込めている、ということが言えると思います。これはすなわち、「常に観客が入っている」状態が作り出せている、ということにもなります。
この辺の比較は、本来であればスタジアムの「収容率」(平均観客動員÷収容可能人員)で算出すべきところなのでしょうが、チケットの販売可能枚数と収容可能人員が必ずしも一致しないのと、「ホームスタジアム以外での開催」(収容可能人員が試合ごとに異なる)というノイズが入り込むので、今回はそれを採用していません。
時間があれば、試合ごとの収容率の平均を取ってみてもいいのですが…
「常に観客が入っている」状態というのはスタジアムの『劇場感』は出しやすくなるので、一見いいことのようにも見えますが、裏を返せば、興行面で「(満員になりやすいが故に)本来取り込めるはずの客層を逃している」とも言えるわけで、つまりは「クラブの持つ本来の潜在能力に比べてスタジアムのキャパシティが小さい」ということにもつながってくるわけです。(広島の標準偏差比率3.9%というのは「ほぼ全試合満員」と言い換えても過言ではありません。)
逆に、平均観客数に比して標準偏差の大きいクラブ(特に比率が40%を超えるようなクラブ)は「試合ごとの観客動員のばらつきが大きい」ということになります。
何試合か通常のホームスタジアムとキャパの大きく違うスタジアム(国立とか三ツ沢とか駒場とか)で開催したクラブはばらつきが大きくなりがちですし、試合の曜日配列や気候にも左右される部分があるので一概には言えませんが、この辺はもうちょっと観客をコンスタントに入れられる営業努力が必要なのかもしれないな、とは思いました。
※ちなみに町田はばらつきが異常に大きいですが、これは町田のホームスタジアム・町田GIONスタジアムの入場可能数が15,320人にとどまるのに対し、収容6万人の国立競技場での主催試合を複数開催していることによる影響だと思っています。
そして、J1の方がJ2に比べて全般的にばらつきが小さい。
つまり、J1の方がコンスタントにお客さんを集められている、ということになります。上のカテゴリーほど、お客さんを恒常的に呼び込みやすいということですね。
必要なキャパシティの目安は
さて、そうなると、この記事の主題である「スタジアムを整備するときに必要となるキャパシティの目安」ということになるのですが、ここまでの話を総合すると、
20,000人から25,000人というのがJ1での平均観客動員の一つの目安
10,000人から15,000人というのがJ2で上位を目指すクラブの平均観客動員の目安
新規来場者のために30%から40%程度のばらつき(上振れ)は見込んでおいたほうがいい
ということになるので、そういったことを踏まえて、これからJリーグ向けのスタジアムを整備する場合には
J1=25,000人から30,000人収容
J2=15,000人から20,000人収容
が現実的な一つの目安になってくるのかな、なんて思うわけです。
前回(2年前)に書いたときに、後から増設する前提のスタジアムの話をしましたが、現在いるカテゴリや近い将来到達するであろうカテゴリを見据えてある程度の規模感がつかめていれば、(金沢や山形のようにスタンド1個丸々増設する構造とかでなければ)最初からその規模のスタジアムを作ってしまった方が全体で見るとコスト面でのロスは少ないと言えるのでないでしょうか。
そんなわけで、今回はこの辺で。