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レノファなスタジアムの話(41)プロ野球の『本拠地球場』の話
改めまして、前々回の続きです。
前々回の最後で「『でもプロ野球の本拠地球場は球団が作って球団が好きなように使っているでしょ?』といった声が聞こえてきそうですが、その考え方は実は全く違います」と書きましたが、実際のところ、プロ野球(NPB)の各球団の本拠地球場はどうやって運営し、収益を上げているのか(あるいは収益を上げていないのか)について、調べてみたいと思います。
サッカースタジアムからはちょっと離れますが、前回の記事と合わせて、サッカースタジアム建設に批判的な皆様へのアンチテーゼと思っていただければと思います。
本拠地球場(専用球場)の定義
まず、NPBの「本拠地球場」の定義について。
NPBには諸々の(競技以外の)ルールを定めた「日本プロフェッショナル野球協約」というものがあり、その第29条と第30条にこういう文言があります。
第29条(専用球場)
この組織に参加する球団は、年度連盟選手権試合、日本選手権シリーズ試合、及びオールスター試合を行うための専用球場を保有しなければならない。
第30条(球場使用)
コミッショナーは、前条による球場使用につき満足が得られない場合、実行委員会及びオーナー会議へ、その球団の参加資格の喪失の決定を要求することができる。
この「専用球場」というのがいわゆる「本拠地球場」のことです。
「球団が専用球場を保有しなければならない」と定めてはいますが、専用球場(本拠地球場)が全部「球団(あるいは親会社・関連会社)の所有」かというとそうではなく、公設の野球場を専用球場(本拠地球場)と指定している場合も少なくありません。
12球団の本拠地の「持ち主」
というわけで、ここからは12球団の本拠地球場について、どういう位置づけで整備されたのかについて示していきます。
ここで12球団の本拠地球場の詳細を書いてもいいんですが、むちゃくちゃ長文になるのが避けられないので、一覧表を埋め込んでおきます。
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これを見ていただくと判るのですが、
球場の「所有者」は民間(宗教法人含む)が8つ、自治体が4つ。球団が直接保有しているのは2つのみ
球場の「管理者」には、神宮を除いて球団(或いは関連会社・親会社)が関与
なので、少なくとも「プロ野球の本拠地球場は球団が作った」というのは(完全に間違いとは言わないにしても)正しくないといえると思います。
もっとも、東北楽天や横浜DeNAは自治体所有の施設を使っているとはいうものの、大規模リニューアルに当たって球団の親会社が資金拠出して整備し、完成後に自治体に寄付して自分たちで管理しているので、その辺りは考慮すべき点ではあります。(とはいえ、野球場を含むスタジアムで一番お金がかかるのは土地代を含む初期投資なので、そこを免れているというのもまた事実なのですが)
一方で、野球場の管理に関して言えば、自治体所有の野球場は「指定管理者制度」により管理されているのでフリーハンドとはなりませんが、その他の施設が民設民営で、民設民営の球場ではスケジュール面で球団に優先利用させることが可能ではあるわけです。
よく「プロ野球はJリーグやBリーグに比べて日程が早く決まりやすい」といわれますが、民設民営球場で全体の日程調整がしやすいという点はあるでしょうね。
民設民営球場の収入源
さて、私は以前から「スタジアム単体で収益を上げるのは無理」ということを繰り返し申し上げていますが、こう言うと「民設民営のプロ野球本拠地球場は収益を上げているじゃないか」とおっしゃる方が出てくるでしょう。
なので、民設民営の8球場について、どういう運営スキームで運営されているのか解析してみますと、大きく以下の分類に分けられると思います。
周辺施設とセットで利益を上げる:エスコンフィールド、東京ドーム、京セラドーム、みずほPayPayドーム
親会社とのセットで利益を上げる:ベルーナドーム、甲子園球場
球団(親会社)からの補填:バンテリンドーム
不明:神宮球場
周辺施設とセットで利益を上げる方法は以前の回でもご紹介していますね。
ベルーナドームと甲子園球場は、球場までの主要アクセスが親会社である鉄道会社という関係なので、球場自体で利益が上がらなくとも、球場へ行くことで親会社の利益が上がるという構造なのですよね。(かつては、プロ野球球団の親会社が鉄道会社というのは鉄板中の鉄板でした)
バンテリンドームの場合、スポーツイベントでの使用料が1日1000万円(週末は1100万円、いずれも税別)と極めて高額となっていて、加えてWikipediaによれば、中日球団が年間40億以上の利用料を支出しているらしいです。
ちなみに球場運営会社と中日球団の社長は同一人物で、中日球団の「利用料」が単純計算で合わないので、実質的に球団(または親会社)が損失を補填していると言えるのではないでしょうか。
京セラドームはちょっと事情が特殊で、元々は大阪市の第三セクター・大阪シティドームが建設し大阪近鉄バファローズの本拠地として管理していたのですが、建設費償還が追いつかず経営破綻(球団もオリックスと合併)、その後オリックスが将来大阪市に譲渡する前提で球場を不動産として買収し(ただし大阪市への譲渡はまだ実施されず)、運営法人の大阪シティドームも100%減資の上でオリックス不動産が子会社化するというスキームで取得したため、オリックスは当初建設費償還の負担無しに純粋に維持管理費のみの経営が行えており、元々あった周辺商業施設と共に収益を上げているという事情があります。
神宮球場だけは収益構造が判りません。何せ管理運営の主体が宗教法人明治神宮なので、財務資料がほぼ明らかになっていないのですよね。
とはいえ、最近色々と話題になっている神宮外苑の再開発は「明治神宮(宗教法人)が宗教活動の収入のみでは財政を維持できない」という背景があるようで、神宮球場の改築もこれがカギになっているようです。
ドーム球場の『もう一つの収益源』
さて、一方で、12球団の本拠地のうち5つ(ベルーナドーム、東京ドーム、バンテリンドーム、京セラドーム、みずほPayPayドーム)は全面が屋根で覆われた「ドーム球場」という共通点があります。北海道日本ハムも最近まで札幌ドームを本拠地にしていました(今のエスコンフィールドも屋根付き)ので、半数は全天候型スタジアムということになります。
そして、このドーム球場(全天候型スタジアム)には、もう一つ大きな収益源があります。
大規模な観客動員を見込むライブ・コンサートです。
よく「5大(6大)ドームツアー」とか呼ばれるあれです。
実は音楽業界ではCDが売れなくなったと言うこともあって収益構造が大きく変化して、大規模なライブ(とそれに伴う物販)が主要な収益源の一つになっており、コンサート需要はもそれなりに高まっています。
そうしたときに、普通の音楽ホール・ライブハウスでは賄いきれない「五千人単位」のお客さんを入れられるアリーナや「万単位」のお客さんを入れられるスタジアムは、大規模な音楽イベントにうってつけというのがあります。特に『屋根付き』であれば天候に左右される可能性が極めて低いというのは大きなメリットになっていますね。
野球場(ドーム)側としても、NPBの本拠地として使ってもらえるとは言っても最大で70試合程度(しかも基本的に三連戦なので、「年間における活用頻度」だけで見ると25回程度になって、Jリーグのホームスタジアムとそこまで大差ない)で、秋から春にかけてはオフシーズンですから、音楽イベント等で「使ってもらえる」というのは球場(ひいては球団)の利益につながる話になってくるわけですよね。
実際、(屋外型のスタジアムではない、屋内型の)アリーナの需要というのも非常に高まっていて、全国でスタジアム以上の建設ラッシュになっているのも事実です。
実際に採算は取れているのか
で、本題に戻って、野球場自体で採算は取れているのかという話になるのですが、正直微妙(単体ではおそらく採算は取れていない)というのが私の見立てです。
そもそも野球場はその特徴的な形状から野球以外のスポーツに不向きであり(甲子園のように臨時に芝生を敷いてアメリカンフットボールを行っている例もありますが)、いくら年間70日が試合で埋まると言っても、球場の純粋な利用料だけで球場の建設費と維持管理費が賄えているかどうかは(バンテリンドームの例を出すまでもなく)かなり疑問です。
ましてや、公設の野球場の主たる顧客はプロ野球であると同時に高校野球(神宮球場の場合は大学野球)ですので、そういった団体からプロ野球並みの利用料を徴収できるとも思えません。
だから、球場の運営組織としては、周辺施設や交通アクセスなどで稼いでグループ全体でトントンにするとか、あるいは建設費負担を軽減して管理費用だけ賄える体制にして黒字構造にしているとか、コンサート・ライブなど他のイベントを多く呼び込んで出来るだけ赤字を減らすとか、そういった工夫が成されているものだと思うところです。
で、いざとなったら球団(または親会社)に損失補填してもらう、と。
故に、サッカースタジアムのことをやれ税リーグだ、などと叫ぶ向きに対しても「では、野球場はそもそも建設費を賄えているの?」と問われたら、サッカースタジアムと似たり寄ったりじゃないかなと思うんですけど、どうでしょうね。
本拠地球場でさえこれですから、プロ野球が年1-2回使う程度の地方球場に至っては言うまでもなく…ということにならないでしょうか。
そんなわけで、今回はこの辺で。