レノファなスタジアムの話(27)続・スタジアム基準の話(1)
最近、いろいろ忙しくて月1更新みたいになっています。
本当は今回別の内容をアップする予定でしたが、去る9月26日に発表された「J1クラブライセンス判定結果」と「J3クラブライセンス判定結果 (J3入会を希望するクラブ)」がいろいろと物議を醸しているようなので、この件について記事を書くことにしました。
内容としては、以下の記事の続編のような形になります。
J1ライセンス判定の結果
まず、J1ライセンスの方についてです。Jリーグのリリースはこちら。
全部で49のクラブが申請し(いわき・藤枝・讃岐が新たに申請)、全てのクラブにJ1ライセンスの交付が認められることになりました。
ここで注目を集めたのが『ライセンス剥奪のおそれ』などと報道のあった秋田・鹿児島・琉球の動向。
秋田と鹿児島については、過去の私の記事でも取り上げています。
結論から言えば、これらのクラブに対してもJ1ライセンスが発給されることになりました。
では、ライセンス発給に当たっての条件等はついていないのかというと、「判定に付帯する事項(是正通達)」が対象となったクラブは無し。
ただし、「スタジアムに関するB等級基準」を満たしておらず制裁の対象となったクラブとして、19のクラブ(のホームスタジアム)が挙げられており、ここに秋田・鹿児島・琉球が含まれることとなっています。
ここで指摘されている(制裁の対象となりうる)「スタジアムに関するB等級基準」は主に『トイレの数』と『屋根のカバー率』になります。
トイレの数
トイレの数に関しては規則番号I.08に定めがあり、「1,000名の観客に対し、少なくとも洋式トイレ5台、男性用小便器8台を備えなければならない」とされていて、例えば15,000人収容のスタジアムであれば、洋式トイレ75台、男性用小便器120台が必要、という計算になります。
但し、トイレの数に関しては「判定の計算根拠となる観客席の数を『満員』から『60%入場』を母数として判定した場合に基準を充足していれば、制裁を免除する」というルールが導入されています(ちなみに、レノファ山口FCのホームスタジアムである維新みらいふスタジアム《みらスタ》も、この「60%ルール」の恩恵を受けています)。
このため、結果的にトイレの数で制裁対象になったのはソユースタジアム【秋田】のみとなっています。
屋根のカバー率
屋根のカバー率に関しては規則番号I.09に定めがあり、「スタジアムの屋根は、観客席の3分の1以上が覆われていなければならない」とされています。
これを満たしていないクラブ(スタジアム)は以下の18クラブ。
いわぎんスタジアム【岩手】
ソユースタジアム【秋田】
NDソフトスタジアム山形【山形】
いわきグリーンフィールド【いわき】
正田醤油スタジアム群馬【群馬】
NACK5スタジアム大宮【大宮】
三協フロンテア柏スタジアム【柏】
ニッパツ三ツ沢球技場【横浜FC】
レモンガススタジアム平塚【湘南】
JITリサイクルインクスタジアム【甲府】
サンプロ アルウィン【松本】
富山県総合運動公園陸上競技場【富山】
IAIスタジアム日本平【清水】
ヤマハスタジアム(磐田)【磐田】
シティライトスタジアム【岡山】
Pikaraスタジアム【讃岐】
ニンジニアスタジアム【愛媛】
白波スタジアム【鹿児島】
タピック県総ひやごんスタジアム【琉球】
こうしてみていくと面白いのが、いかにも屋根のカバー率を満たしていそうなアルウィンやアイスタ、ヤマハあたりが基準を満たしていなくて、基準に足りなそうなKsスタ(水戸)やみらスタが基準を満たしている、ということなんですよね。
Ksスタの屋根などは客席から非常に高い位置にあって、雨風を凌ぐには有効かどうか疑問が残らなくもないのですが…
制裁の内容
では、これらのスタジアムをホームとするクラブに対する『制裁』の内容とは何かという話ですが、屋根のカバー率のみ満たしていない17クラブに対しては「対象スタジアム名公表」「屋根のカバー率不足への改善策もしくは構想の提出」となっています。
「改善策もしくは構想」となっているとおり、実際にいつまでに改善されなければいけないのかという点を明らかにする必要はないようで、その意味ではかなり甘めな(というか大甘な)制裁内容となっている感が否めなくもありません。
実際、18クラブのうち大半のクラブはクラブライセンス制度で「屋根のカバー率」が制裁対象となった2014年以降現在まで連続して制裁対象となっているという点からも、「見せしめ」以上の効果が無い(その効果すら薄らいでいる)と言わざるを得ないのかなというのが率直な感想です。
一方、「トイレ」と「屋根」の両方を満たしていない秋田に対してはもう少し厳しい制裁が科されています。
対象スタジアム名公表
スタジアム環境の抜本的な改善に向けた以下の計画および報告の提出
2023年7月から2023年11月までの活動報告 [期限:2023年11月末]
2024年活動計画 [期限:2023年11月末]
2023年12月から2024年6月までの活動報告 [期限:2024年6月末]
活動報告および活動計画に関連し、クラブライセンス事務局が個別文書を発信する可能性あり
つまり「施設改善に向けた活動内容を半年ごとに報告しろ」となっていて、暗に「今のままじゃダメ」と言うことを伝えた内容となっています。
こちらの方は具体的な計画をきちんと立てて、それを示す必要があるということになっていますね。
施設基準の例外規定
もう一つ、J1ライセンスの判定に当たって、「施設基準の例外規定」というものがあります。
以前にも書きましたが、簡単にまとめ直すと
スタジアムの(着工済み)改修工事を3年以内に完了
スタジアムを5年以内に新設し供用開始
トレーニング施設を3年以内に整備し供用開始
のいずれかの要件を満たしていれば、スタジアム又はトレーニング施設についてスタジアム基準を満たしたことにする、というルールです。
今回、上記の1.に該当するクラブはありませんでしたが、2.と3.の両方については岩手・いわき・藤枝・鹿児島の4クラブが、2.については水戸・金沢・琉球の3クラブが、3.については秋田が適用対象となりました。
なぜ「ライセンス剥奪危機」と報じられたか
…と書いてきて、ここで冒頭の話に戻るのですが、なぜ秋田・鹿児島・琉球で「ライセンス剥奪危機」みたいな報道が出てきたのかという話ですが、ざっくりと言えば「施設基準の例外規定に関するクラブ側のミスリードorマスコミの勘違い」に加え「ライセンス剥奪規定が無かった」ということのようです。
この辺については、サッカー情報サイト「ゲキサカ」を中心に寄稿しているサッカー記者(元地方紙記者)の竹内達也さんが連続Xポスト(ツイート)にまとめられています。
これ、もう少し細かくかみ砕くと、そもそも「施設基準の例外規定」に関して、「猶予期間」が発生するのは「昇格するタイミング」だということが、例外規定制定時(2018年12月)にJリーグからの説明で述べられていました。
なので、そのことをきちんと把握できている人であればライセンス基準の「例外規定」に関する猶予期間がカウントされ始めるのは「J1に昇格してから」ということになるのですが、そのことが文書等で明記されておらず(私も見逃していました)、猶予期間は「例外規定を申請してから」と勘違いしていた人が多数いた、ということになろうか、と思います。
とはいえ、「だったらスタジアム計画の空手形を切っておけばいつでもJ1ライセンスが取れるのか」ということになりかねないため、仮にライセンス取得条件となった計画が白紙撤回もしくは大幅な遅滞となった場合はその状況について細かく審査するし、内容によってはライセンス不交付もあり得る(ただし不交付に関して具体的なルール化はされてない)…となって今回の騒動になった可能性がある…とのことのようですね。
実際の所、秋田についてはトイレと屋根の制裁措置について他のクラブと比べてもかなり厳しい判断が下されており、ライセンス交付後の秋田・岩瀬社長の記者会見を見ても、要は「新スタジアム計画がこの1年で前に進まないと次はないかもよ」と警告されている状況のようですね。
鹿児島も、2016年にJ1ライセンスが不交付となっており(この時は国体工事中の収容数の不足とホームゲームの確約が無かったことが理由とされていましたが)、同じように厳しい目線が注がれていることは間違いがなさそうですが。
いずれにしても、計画が「停滞」だけであればお目こぼしの可能性はあるけれども、これに胡坐をかいて新スタジアム計画が停滞したままだと、来年こそどういうことになるかは何とも言えないところですね。
さて、そんな「クラブライセンス制度」に関する「スタジアム基準」の話ですが、今回J3の方ではそもそも論にさえ行き着いてしまいそうな事例が出来上がってしまったので、そちらにも触れる予定ですが、相当長くなってしまったので次回(以降)に回します。