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【2021年】 データサイエンティストの給与は●●円?5年間の求人データから読み解く人材需要の推移
データサイエンティストは「21世紀で最もセクシーな職業」とも言われ(※1)、ここ数年で非常に注目されている職種です。注目や期待が寄せられる一方で、その人材不足も大きな課題とされており、2020年には4.8万人が不足する(※2)、将来的には25万人が不足する(※3)など、様々な予測が立てられてきました。
しかし現在のところ、データサイエンティスト人材の需要やその推移を知ることができる求人市場の情報は少なく、その実態を正確に把握することは非常に難しくなっています。
そこで本記事では、株式会社フロッグが保有する総計20億件以上の求人情報をもとに、ビッグデータ活用サービス「datist」のデータ分析プログラムを用いて、過去5年間のデータサイエンティスト求人の推移を調査しました。調査結果をもとに、データサイエンティスト求人の課題と対策についても考えてみます。
◆集計対象のデータと調査方法
今回、調査対象としたデータと調査方法は、以下となります。
【対象データ】
対象媒体:
doda、FIND JOB!、Green、type、エン転職、マイナビ転職、リクナビNEXT
(50音順)
調査対象日:
2016年4月~2021年1月の期間において、1,4,7,10月の第1月曜日に掲載されていた求人情報
給与金額の算定方式:
年俸表記を優先して採用、月給表記のみの場合は14倍して理論年俸に換算、範囲表記されている場合は上限と下限の合計を2で割った値を採用
【調査方法】
求人原稿に記載の職種、仕事内容、ページタイトルを職種の判定元として、以下3種類の職種を判定し、それぞれの集計結果を比較しました。
【職種定義】
・データサイエンティスト
→判定元に”データサイエンティスト”の文字列が含まれる求人情報
・IT系(データサイエンティスト除く)
→判定元に"IT"の記載が含まれる内、”データサイエンティスト”の記載を
含まない求人情報
・その他全職種
→上記以外の全ての求人情報
今回の調査では、
・求人数
・募集給与の推移
・各給与帯ごとの求人数
という流れで見ていきたいと思います。
◆調査結果
それでは早速、調査結果を見ていきます。
まずは各職種における、5年間の求人数の推移を見ていきます。
データサイエンティストの求人数は7倍以上に増加!人工知能ブームによる変動も
以下のグラフは、2016年4月時点の求人数を100とした時の、
各職種における求人数の変動を表したものです。
2016年4月の求人数2021年1月の求人数と比較したところ、その他の全職種では2.28倍、人材不足と言われるIT系職種でも、人材不足と言われるIT系職種でも3.06倍の増加であったのに対し、データサイエンティストの求人数は7.33倍に増加していました。
いずれの職種においても求人数の増加が見られましたが、他職種と比較しても、データサイエンティストの求人数の変動率は極めて大きく、データサイエンティスト人材のニーズはこの5年間、特に拡大してきたことがうかがえます。
更に詳細に見ていくと、それまで他職種と同程度で推移していた件数の変動率が大きく動いたのは2017年10月で、その時期を境に他職種との差が広がっていきました。その要因について調べたところ、2017年6月末には、国内初の人口知能専門の展示会「第1回 AI・人工知能 EXPO (1st AI EXPO)」が行われ、Googleトレンドからも「人工知能」への関心が高まっていたことが分かりました(※4)。
人口知能への期待や注目の高まりが、データサイエンティストの求人数を増加させた一因となったと推測されます。
※4. 「人工知能」への関心の推移(Googleトレンド)
新型コロナウイルスによる影響
また、新型コロナウイルスの対策として緊急事態宣言が出された2020年7月頃には求人数の減少が見られました。しかし現在、IT系職種とデータサイエンティストの求人数は、既に2020年1月以上の求人数まで回復してきています。IT系職種とデータサイエンティストでは、他職種と比べ、新型コロナウイルスによる影響は小さいようです。
5年間の求人数を見てきて、データサイエンティストでは他職種より顕著に求人数が増えてきていること、人工知能などのムーブも変動に影響を与えること、IT系職種やデータサイエンティストの求人数には新型コロナウイルスの影響からは回復してきていることが分かりました。
次に、人材需要と供給のギャップをより強く反映する募集給与についても見ていきます。
データサイエンティストの募集給与は710万円!
以下のグラフと表は、募集給与の平均値(以下、募集給与)の推移をまとめたものです。
2021年1月時点の募集給与を見ていくと、データサイエンティストでは710.2万円、IT系職種では574.4万円、その他全職種では478.9万円となっています。
推移としては、2016年4月から2021年1月にかけて、募集給与はそれぞれ、データサイエンティストで111%(71万円)上昇、IT系職種(データサイエンティスト除く)で117%(83万円)上昇、その他全職種で111%(46万円)上昇となっており、IT系職種が最も上昇していました。
データサイエンティストでは、2016年4月や2017年7月に急な上昇が見られ、2016年4月からの上昇率は他の職種とあまり違いが見られませんでした。しかし、2017年10月以降は求人数の増加とともに募集給与の上昇も安定してきており、2021年1月には募集給与は700万円を超えました。
各時期におけるデータサイエンティストの給与推移
この変動について、各時期の動きを見ていきます。
まずは低下傾向だった、2016年から2017年にかけてのデータサイエンティストの募集給与の推移を見ていきます。
2016年3月と5月には、人工知能(AI)囲碁ソフト「アルファ碁」が韓国のプロ棋士に勝利し、その特集が組まれ放送された時期で(※5、※6)、先ほどのGoogleトレンド(※4)からも、その時期に人工知能への関心が急激に高まっていたことが分かります。
2016年から2017年にかけては、求人数に大きな変動は無いまま、募集給与が低下しており、関心が高まりから各企業が高額な給与を出しても人材の獲得に動き、一時的に採用が終了した企業が募集給与を下げたとも考えられます。もしくは、関心や期待の高まりから高額な募集給与が設定されるも、採用後に高まり過ぎた期待と現実のギャップが見えて募集給与が下がった、というケースもあるかもしれません。
2017年7月、先述の「第1回 AI・人工知能 EXPO (1st AI EXPO)」が行われた時期にも、同様に関心の高まりから一時的な募集給与の上昇が見られましたが、上昇後の低下は、2016年から2017年よりも緩やかとなりました。
その後、2017年10月以降には多少の変動はありながらも、継続的に上昇を続けて、700万円を超えるに至りました。
募集給与の推移まとめ
ここまで見てきたように、2017年10月以降、データサイエンティストは他職種以上に募集給与が上昇してきており、人材需要と供給のギャップが拡がっていることが分かりました。
一方で、データサイエンティストの募集給与も求人数と同じく、一時的な関心や期待の高まりによる影響も顕著に出やすいという性質もあるため、今後どのように推移していくのかも、引き続き注目していく必要があります。
◆給与帯では600万円台の求人数が最も多く、特に高い給与帯で求人数が増加
最後に、給与について更に詳しく、募集給与を給与帯ごとに分けて、各給与帯の求人数の推移を見ていきます。
各職種において、給与帯ごとの件数は以下のように推移していました。
給与帯ごとの件数推移を見てみると、データサイエンティストの求人において400万円未満の求人が極めて少ないことや、現在最も多い給与帯は600~799万円であり、600万円以上の求人が全体の7割以上(72%)を占めていることが分かりました。
データサイエンティストにおける各給与帯の推移
全職種において、高額な給与帯の求人の割合が増えていますが、データサイエンティストの求人において、その傾向は特に顕著に見られました。
2018年以降のデータサイエンティスト求人では、800万円以上の給与帯の割合もかなり増えてきており、2021年1月現在その割合は31%と、11%だった2018年1月から3年間で20%も増加しています。
推移を見る限り、現在も800万円以上の給与帯の件数は増加傾向にあり、引き続き増加していくことが予想されます。
全職種において高い給与帯の割合が増えてきているため、人材市場全体として人材不足が起きていることがうかがえますが、他の職種以上に、データサイエンティストの人材不足は進んでいる可能性がありそうです。
また、高い給与帯の割合が増えたその他の要因として、データ利用の準備が進み、データサイエンティストを活用できる土壌が整った企業が出てきている、という側面もあるかもしれません。
◆データサイエンティスト採用の課題
5年間の求人情報から、データサイエンティストの求人は増加してきたこと、現在の給与平均は710万円で、まだまだ上昇する可能性があることが分かりました。引き続き、人材を確保するための競争は激化していくことが予想されます。
その中で、データサイエンティストを「21世紀で最もセクシーな職業」としたハーバードビジネスレビューではその後の特集で、金銭面の報酬以外に環境、やりがいなどを用意する必要があるとしています(※7)。
最後に、データサイエンティスト確保における課題と、その対策を挙げてみます。
①「データサイエンティスト」という用語の曖昧さ
まず、「データサイエンティスト」という用語の曖昧さが原因となり、採用時に問題が生じている可能性があります。「データサイエンティスト」は「最もセクシーな職業」と表現されたことや、人工知能などに注目されていることなどと関連して、ある種、バズワードとして扱われているところがあります。
現場ではデータサイエンス自体に重きを置かないポジションを求めているにもかかわらず、「データサイエンティスト」を募集してしまっている求人があるという意見も多く存在しており(※8、※9、※10)、今回調査したデータ内でも、そのような求人が多く見られました。
データ人材を募集する際には、募集の目的から、求めるスキルや人物像を明確にしてミスマッチを少なくすることも、適切な給与で必要な人材の確保に繋がる一手と言えるでしょう。
まずは「アナリスト」と「エンジニア」に大きく二分して、分析に重きを置くアナリスト・データサイエンティストと、エンジニアリングに重きを置くエンジニア・機械学習(人工知能)エンジニアといった分類から、整理が必要と思われます。
そこから更に、現場やフェーズによって、スキルレベルによる分類(※11)や、役割による分類(※8)などとも合わせて、求める人材を的確に設定していくことが、他社との差別化にも繋がり採用成功の一因となるでしょう。
②データ人材が活躍できる組織文化
データサイエンティストは採用が困難である一方で、業務にあたって様々な困りごとを持っている場合もあるようです(※12)。「データサイエンティスト」に対する期待値が高すぎて、多くを求められる環境では、苦労して採用したデータサイエンティストがすぐに離職してしまう可能性も大いにあります。
既にデータサイエンティストが在籍している企業の場合は、離職率を下げつつ、自社で新たな人材を育成してチーム、組織を強化していくという方法を取るのもよいかもしれません。
データサイエンティストが働きやすい組織文化の醸成は、採用の課題を減らせるだけでなく、魅力的な環境を用意できるという採用時の強みともなるでしょう。
◆データの分析、活用はdatistへ!
以上、データサイエンティスト人材について、求人データをもとにレポートにまとめました。今回は求人数と給与についてのレポートでしたが、データ系の別職種との比較や、募集条件と給与を詳細に分析するこによっても、面白い結果が得られそうです。
また、2021年4月以降の最新データや、1ヶ月ごとの細かいデータからも、市場を更に読み取ることができるかもしれません。
株式会社ゴーリストは、クローリング技術を用いたデータ収集や、AI技術によるデータの正規化、データの可視化まで、ビッグデータの活用における一連のシステム構築と運用を得意としています。
大規模データの調査や分析のご要望、データ収集システムを開発したい際は、ゴーリストが運営するビッグデータ活用サービス「datist」へ、お気軽にご相談頂ければ幸いです!
お読みいただき、ありがとうございました!