『花火』
まだ明るいうちに外へ出た。
浴衣のカップルがちらついて焦る。
駅に着いてみればホームに人の涙が押し寄せる。
もう少し早く出れば良かった。
皆、夏の尾を探るようにあの光景を目に焼き付けたいのだ。
甘いりんご飴と焦がした焼きそばの匂いが混ざって漂ってきた。
もう辺りは薄暗い。
ふと音がした。
たちまち赤、青、白の花火が打ち上がった。
始まった。
夏の終わりを告げるファンファーレのように次々と打ち上がった。
皆息を呑んで見守っている。
一際大きい花火が打ち上がれば大きな歓声が聞こえた。
辺り一体は釘付けだ。
カップルも、子供連れも、大学生達も、皆その光景を見逃すまいとカメラを向けている。
この景色を見れるのも今年で最後か。
そう思うと寂しくもあり、その一方で秋の訪れを待っている自分もいる。
少し肌寒くなってきた。
と、同時にたたみかけるように上がる光の束。
一連の閃光が闇に吸い込まれていった。
辺りはたちまち歓声に包まれた。
まだ夏は終わってないらしい。
そう思い聞かせながら、帰路を急いだ。