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地域・自治体が少ない予算で始められるデータ化(リーンスタートアップ)
「デジタル関連は自治体などの地域主導では難しい・・」
そんなイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、少しずつですが、全国ではデータ活用を通じた住民サービスの向上や地域活性化の取り組みの面白い事例が生まれてきています。
例えば、千葉市が運営する「ちばレポ」は、住民が日常生活で見つけたインフラの課題や要望をスマートフォンから直接報告できる仕組みを提供しています。報告はデータベースで一元管理され、web上のマップで表示されることで不具合情報を可視化。それらを見ながら担当課に振り分けることで迅速な対応が可能になっています。
また、福島県が提供する「帰還支援アプリ」は、東日本大震災の影響で避難している住民に対し、ふるさとの最新情報を提供することで、帰還を支援しています。このアプリは、避難者が離れていても地域の状況を把握できるように設計されており、コミュニティの再生に寄与しています。
ただそういった取り組みはまだ一部の自治体に限られており、多くの自治体ではまだ十分に進んでいないのも事実です。その背景には、予算や人材の不足、データ活用に関する知識やノウハウの欠如など、さまざまな課題が存在します。
予算の制約: 限られた財政の中でデータ化に資金を投じる難しさ。
人材不足: データ整備やメンテナンスを担える人材が地域に不足。
持続可能性の欠如: 初期整備は実現しても、継続的な更新が困難。
本記事では、これらの課題を踏まえてできること、特に小さな予算で継続的に仕組化していくためにできるアイディアをいくつかご紹介します。もちろん地域によって何が最適かは変わりますが、発想の補助として少しでもお役に立てたら幸いです。
1. 既存の基盤を最大限活用する
デジタル関連のプロジェクトといえば、大きなシステムやサーバーへの投資をイメージされる方も多いかもしれません。しかし、スモールスタートという選択肢を考えた場合、既存のツールやプラットフォームを活用してできることの余地は意外に大きいのです。たとえば以下のような取り組みです。
①多くの人が使うサービスを活用する
例)Googleビジネスプロフィール(GBP)の活用
みなさんが日常使われるGoogleマップや検索などで出てくる店舗や施設の情報。これがどのような仕組みで登録されているかご存じですか?
実はこれらの情報、その店舗や施設のオーナーでなくても登録可能なんです(※正式にはオーナーになるためにはオーナーがGoogleへの申請・審査等はあり)。このあたりの仕組みはまだ理解が浸透しておらず、情報が出てこないというケースはいまだにけっこう多いのです。
千葉県銚子市では、データデザイン・プロジェクトの一環で地元の高校生がデータ収集を担当し、住民とのコミュニケーションを通じて地域情報を充実させる試みも行われています。このように地域として仕組化し、地域の若い世代なども巻き込みながらデータ化を推進することも可能です。
(GBPの活用については、また改めて具体的なノウハウをまとめますのでお役立てください)
②オープンデータの推進
自治体や各種団体がデータを公開・共有する際に、データの形式や構造を統一しやすくするための指針やテンプレートがデジタル庁から提供されています(リンク)。その標準オープンデータフォーマットを活用し、施設情報や公共交通データを公開する方法です。このフォーマットを使用することで、データの互換性や再利用性が向上し、市民や企業が活用しやすくなります。
システム間連携やデータ変換の手間が減り、運用コストが削減されるだけでなく、標準フォーマットを採用することで、他自治体とデータの比較や共有が容易になり、効率的な政策立案や広域的な課題解決が可能になったりもします。
例えば、福井県では観光データをリアルタイムで収集し、外部に提供することで地域経済の向上に成功しています。
2. 地域連携を深めてリソースを共有する
データ化を効率的に進めるためには、他の自治体や民間企業との連携が不可欠です。
①他自治体との広域連携
広域連携は、地域を超えた課題解決や、同じ問題を抱える自治体同士がリソースを共有し、効率化を図るための取り組みです。
以下のポイントにおいて大きなメリットがあります。
効率化: 同様のデータ整備を各自治体が個別に行う必要がなくなる。
拡張性: 一度整備したデータを他地域にも展開しやすい。
標準化: 統一フォーマットを活用することで、広域でのデータ活用が容易になる。
たとえば福岡市では、周辺自治体が参加する取り組みとして、都市圏共通のデータフォーマットでオープンデータを公開しています。観光、交通、公共施設情報を一元化することで、観光客誘致や地域住民の利便性向上を実現しました。
②民間企業との協働
自治体が民間企業の技術力やノウハウを活用することで、自治体単独では実現できないデータ整備や活用を可能にします。こちらもポイントを3つ挙げると、以下のような観点があります。
技術革新: 最新技術を取り入れたデータ整備が可能。
専門性の活用: ITやデータ解析の専門知識を持つ企業との協働で高品質な成果を実現。
経済波及効果: 地域の企業と連携することで、地元経済にもプラスの影響をもたらす。
3. 住民を巻き込む取り組みで継続性を確保
データ化を住民参加型のプロセスにすることで、地域全体の取り組みとしての持続可能性が高まります。地域データの収集や分析を進めると同時に、若い世代の人材育成にもつなげることも可能です。
①市民参加型データ収集
アンケートやワークショップを通じて、住民からデータを収集し、それを地域の魅力として発信するなど。
高校生が店舗情報を収集するプロジェクトなどは、世代間交流や地域の一体感を生む副次的な効果もあります。
②データ更新の仕組み作り
地域の就労支援事業者と連携してデータの定期更新を行い、地域内での雇用を創出。
GTFS(General Transit Feed Specification:公共交通に関する世界標準のデータフォーマット)は形式の公共交通データを用いた取り組みは、住民と行政、民間が協力して更新作業を行うモデルとなっています。
まとめ
先日、自治体やまちづくりに携わる団体の方などを対象にした講演の機会でも、このような取り組みの可能性についてご紹介しました。特に反響が大きかったのが、Googleビジネスプロフィールの活用について。身近なサービスであるがゆえに、そのような形で地域主導でプロジェクト化できるということ自体に「知らなかった」という声が挙がっていました。
限られた予算の中の取り組みだからこそ、既存のリソースをフル活用し、住民を巻き込むなど、身近なところから再検討する価値はあるのではないでしょうか。
データ活用は、もちろんシステムを構築して終わりではなく、むしろそこからスタートします。10年、20年先を見据えても、地域の人々に還元されるような持続的な仕組みづくりこそが大切であり、そのためのツールは意外に身近なところに転がっているかもしれません。