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メディア/コンテンツフォーマットの変遷とスキルの連続性について

近年、メディア業界では動画コンテンツの重要性が急速に高まっており、各社が積極的な投資と戦略を展開しています。この「動画戦争」とも言える状況の中、東洋経済新報社での社長人事が注目を集めています。
今回はこの注目事象から見えてくる、コンテンツフォーマットの変化について、過去の変化地点を振り返りながら、見ていきたいと思います。

2024年10月30日、東洋経済新報社は田北浩章社長の会長就任と、山田徹也氏の新社長就任を発表しました。しかし、この人事は複数の役員によるクーデターではないか?と、文春オンライン・デイリー新潮が報じています。クーデーターなのか?否か?は、当事者の皆さんのみしか分からないので、この場で「あーだ、こーだ」と論じることは避けたいと思います。

ただ、見る視点は、報じる側と会社自体とで見え方・感じ方は異なるところですが、「動画」ビジネスに関することが焦点/注目の的であったことは、興味深い点です。

ちなみに、東洋経済新報社ご出身の佐々木紀彦 氏が、東洋経済オンライン、その後、NEWSPicksに転じて、動画コンテンツをどんどん増やして行かれ(ご自身もパーソナリティとして出演し)、現在は、PIVOTを創業し、動画コンテンツの道を爆走しておられるのも、余談的にですが興味深い所です。
※竹下 氏が、PIVOTからTBS テレビの特任執行役員に転出されたことも気になる所ですが、テーマがバラバラになるので、次回などに。



Webテキストメディアが動画コンテンツへと拡大・変化する意味とは?

2024年現在、テキストメディアが動画コンテンツへの事業拡大を図ることは、業界全体の趨勢として当然の流れと考えられます。動画コンテンツ市場は急速に成長しており、2024年度の動画コンテンツビジネス総市場規模は前年度比108.9%の9,880億円に達すると予測されています。

このような市場環境の中、テキストメディアが動画コンテンツに進出することは、以下の理由からも合理的です。

  1. ユーザーの消費行動の変化: スマートフォンや高速通信環境の普及により、ユーザーは短時間で情報を得られる動画コンテンツを好む傾向が強まっています。

  2. 広告収益の増加: 動画広告市場も拡大しており、企業にとって新たな収益源となっています。動画コンテンツを提供することで、広告主からの需要に応えることが可能です。

  3. ブランド価値の向上: 多様なコンテンツ形式を提供することで、ユーザーとの接点を増やし、ブランドの認知度や信頼性を高める効果が期待できます。

また、そもそも論ではありますが、これまでのメディアの栄枯盛衰的な変遷でも、メディア/コンテンツフォーマットは移ろいできました。メディア/コンテンツフォーマットが変化する中で、変化元のメディアにいる人たちのスキルセットは、横展開できるのでしょうか?

映画からテレビへ——映像技術と物語スキルの横展開

背景:テレビの普及と映画業界の人材流出

1950年代、日本のエンターテインメントの中心は映画でした。しかし、家庭にテレビが普及するにつれて、映画館で観客を集めることが難しくなり、多くの映画制作者や俳優がテレビ業界に転職しました。この「映画からテレビへのシフト」は、メディア形態の変化に伴いスキルが横展開される初期の例です。

映像技術の転用:映画技術の連続的な応用

映画業界で培われた高度な映像技術は、そのままテレビに応用されました。カメラワーク、照明、編集技術などは映画でのノウハウを基盤にしており、テレビ番組でも効果的な演出に使われました。特に、映画的な演出によってテレビ番組に「映画のような体験」をもたらし、視聴者を引き付ける力が強まりました。これにより、映画のスキルは途絶えることなく、テレビに継承され、映像技術が連続的に発展していったのです。

物語スキルの再構築:短時間のドラマ構成力の発展

テレビ番組は、映画よりも短い尺で展開する必要があります。この中で、映画で培った物語スキルが短編構成力として発展しました。映画脚本家が持つ「物語を視覚的に語る技術」は、テレビドラマや特撮に応用され、視聴者が引き込まれる構成力として新しい形で連続的に展開されました。


放送と通信の融合——視聴者データとリアルタイム技術の展開

背景:インターネットの普及と放送局のデジタルシフト

2000年代以降、インターネットが急速に普及し、「放送と通信の融合」がメディア業界に大きな変革をもたらしました。従来の放送だけに依存せず、インターネット配信を通じて視聴者にリーチする手法が広まり、放送局はデジタル化を加速させました。

視聴者データ解析の応用:放送からインターネットへのスキル展開

放送業界で培われた視聴者の行動分析や視聴率測定のスキルは、インターネット時代においても「視聴者データ解析」として横展開されました。視聴データを活用してコンテンツを最適化する技術は、YouTubeやNetflixなどのプラットフォームでも活用されています。これにより、放送業界での分析スキルが、インターネットの動画配信に応用され、視聴体験を進化させる形で連続的に展開されているのです。

リアルタイム技術の発展:ライブ配信と視聴者参加型コンテンツ

放送業界で長年培われた「リアルタイム配信技術」も、インターネットのライブ配信に応用されました。テレビでの生放送のノウハウが、ネット上のライブ配信や双方向コンテンツで生かされ、視聴者とリアルタイムでやりとりするインタラクティブな体験が可能になりました。こうしたリアルタイム技術の発展は、放送と通信の融合によって新たな視聴スタイルを生み出しています。


テキストから動画へのシフト——ストーリーテリングとコンテンツディストリビューションスキルの進化

背景:スマートフォン普及によるテキストから動画へのシフト

近年、スマートフォンの普及とともに「テキストから動画へのシフト」が進行しています。文章での情報提供が主流だったウェブメディアでも、短い動画で視覚的に情報を伝えるコンテンツが求められるようになりました。これにより、ライターや編集者は新しい動画コンテンツの制作にも関わるようになっています。

ストーリーテリングの再展開:動画シナリオでの応用

テキストメディアで培った「ストーリーテリングのスキル」は、動画のシナリオ構成やストーリー設計に応用されています。ライターが持つ「短時間で要点を伝える力」や「視覚的に魅せる技術」は、動画制作においても視聴者を引き込むための技術として生かされています。特に、視覚と音声で短時間でインパクトを与える技術は、テキストのスキルを動画で発展的に展開している例です。

コンテンツディストリビューションスキルの転用

従来のウェブメディアで重要だったSEO(検索エンジン最適化)の知識も、動画検索に応用されています。動画プラットフォームのアルゴリズムに対応するために、キーワード最適化や視聴データの解析が重視され、テキストのSEOスキルが新しい形で動画に展開されているのです。このように、スキルが単なる「再学習」ではなく「応用と展開」によって成長していくことが、メディアの進化を支えています。


メディアフォーマットは変われどスキルは連続する

東洋経済新報社での田北退任は、メディアフォーマットが変わる中でスキルが「非連続」ではなく、「横展開・発展」し続けることの重要性を浮き彫りにしています。映画からテレビ、放送と通信の融合、テキストから動画へのシフトと、メディアが進化するたびに、既存のスキルは新しい環境に応じて連続的に応用・展開されています。これは、単なる「技術の断絶」ではなく、「応用力の成長」として捉えるべきでしょう。

今後も、AIやメタバースといった新しい技術が登場し続ける中で、私たちは「スキルをどう発展させていくか」を問われる時代にいます。既存スキルをただの過去のものとせず、メディア環境の変化に柔軟に適応することが、変わりゆく時代において個人と企業の成長を支える大きな力となります。時代に沿ったスキルの展開力こそ、メディアの未来を切り開く鍵なのだと思います。

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