最新事例に学ぶ DX推進のための データストラテジーとガバナンス DAMA ADMC2021 レポート
DAMAとADMCについて
DAMAは国際データマネジメント協会(Data Management Association International)というデータマネジメントの組織。
DMBOKというデータマネジメント知識体系書を作っている団体で、日本支部は翻訳をしており大変感謝。
データマネジメント協会 日本支部(DAMA Japan)
DAMA-JAPANは、データ管理を実践する国際的な非営利団体 国際データマネジメント協会(Data Management Association International)
ADMCはアジアデータマネージメントカンファレンス(Asian Data Management Conference)という、年1度あるデータマネジメントの会合。
ざっと話を聞いたので自分なりにまとめて、感想を書いていく。
データマネジメント セミナーレポート
データマネジメント関連のセミナーに興味ある人はこちらからどうぞ。
去年のADMCのレポートもあるよ。
Asian Data Management Conference 2021 in Japan 開催にあたって
DAMA 日本支部
会長 林 幹高 氏
今年も去年に続いてWebのカンファレンスになっている。カンファレンスがWebであることの良い影響として参加者は増えています。今日はデータストラテジーとガバナンスというテーマで行います。
データガバナンスの成功要因 - カナダにおける銀行事例-メタデータの収集、カタログ化とその普及
Ron Klein 氏
DAMA International Board・Chief Privacy Officer
データガバナンスの実行には機敏さやビジネス感覚が求められる。
データオペラティブという役割で、経験をもとにスパイや探偵のように何をするべきかを解き明かす人のこと。
データ施策には
ポリシーから運用に至るまでデータガバナンスが適切な状態でなければならない。
経営陣の期待として、データを見つけやすい状態にしないといけない。見つけやすいデータはコンプライアンスや規制への対応も容易であり、ユーザーにビジネス的な価値を生む。
データ管理の主要な7つの要素。
・リネージ
・品質
・ドメイン
・カタログ
・メタデータ
・用語集
・データの課題
リネージ
データソースやデータフローやビジネス文書からデータリネージを明らかにしていく必要がある。加工の際のパラメータなどがブラックボックスになると品質の低下につながっていく。
システム的に可視化するソフトウェアも出ているが、人間が意味をつけないと理解することができない
低いレベルのリネージ:システムAがシステムBに連携していることが示されている。
より高いレベルのリネージ:どの項目がどのように連携されたのかということが示されている。
品質
データ品質をどうやって評価しているのか。
データガバナンス担当者が必要な情報を得るためには、人が入力する必要や、システム連携が必要になってくる。
品質管理をするためには、リスクに注目するとよい。
ドメイン
人に依存したナレッジマネジメントをすると、知っている人を見つけるまでたらいまわしにされる。
カタログ
誰がどのフィールドを使っていて、どのテーブルに存在するのか。
テーブルのデータはどの環境で使えるのかというカタログが必要。
サービスを改善するために必要なデータが迅速に使えるのかというのがわかること。
メタデータ
データの命名規則、運用ガイドライン、どんな意味か、どのように更新されるのかなどをまとめるもの。
システムによって収集されるメタデータもあるが、収集されたものに対してビジネス的な意味づけを行うことも併せて重要。
管理者はだれか、誰が定義に責任を持つのか。
ビジネス用語とデータ項目へのマッピングを行うことで、利用者のニーズにこたえることができる。
用語集
用語が管理されてほかの人が使えるようになるまでが用語集の役割。
取組をマネジメントする組織(1~2名)が必要。収集とともに、教育もセットで行う必要がある。
データの課題
課題に対しては問題を明らかにし、解決するための手順が必要。
未解決のままの課題については、解決するための手段を講じる必要がある。
ただ、正しい手順を構築すると、時間とともに課題が減っていく。
そして新しい課題が生まれていくという循環を作り出せる。
感想
DMBOKホイール図のカテゴリから、システムアーキテクチャ的な要素を抜いた内容に対して、どうデータマネジメントをするのかという内容。
何でもかんでもデータマネジメントを進めるのではなくて、現実のビジネス課題に着目して、最も注目されていることに取り掛かる必要がある。そうしないと適切な支援が受けられず進められないという趣旨。
ガバナンスや品質が、ビジネス目標につながっている必要がある。
コンプライアンスとガバナンスは別物で、コンプライアンスを達成してからマネジメントを行う必要がある。成熟した取り組みを行い、適切な事例を出すとそれに追随する人が出てくる。
今取り組まないと置いていかれる!データコンプライアンスの最前線
佐藤 市雄 氏
SBIホールディングス株式会社 社長室 ビッグデータ担当次長
データ・AI倫理の考え方
AIというのがビジネス的な重要度が増してきたため、注目を集めている。
倫理というのは広い意味があるが、実務的に多様なステークホルダーに受け入れてもらうための取組であるべき。そのためには、ルールやプロセスだけでは不十分で企業における倫理能力の向上が欠かせない。
SBIグループのAI活用推進とガバナンス事例
データ・AIガバナンスを行うためには、データ利活用にかかわる全社横断組織が必要。全社横断組織として「CoE」を構築し社内の橋渡し役を担う。
複数のグループ会社を持つような会社の場合、会社間を橋渡すため各会社に「CoE」を構築し、経営含めて全社的に勉強会を行う必要がある。
データサイエンティストが必要であるが、専門的なデータサイエンティストと市民データサイエンティストを分類して専門家集団と、よりビジネスに近い集団を使い分けると効率よくデータ利活用が行える。
SBIでは「CoE」組織を構築し、市民データサイエンティストの育成に力を入れている。
AI・データ活用のためのコンプライアンス研究会
コンプライアンスの観点で、データが生まれてから保持・管理されて、使われるまでの間問題を起こさないために、気を付けるポイントを整理している。
法的に問題なくても、問題を起こしてしまうポイントを見つけていく。
つまづきポイントをチェックリスト化して、フレームワークを作成して、誰が使っても気が付けるような仕組みを作った。
1.正当性:お客様に向けて公明正大に説明できるのか。(後ろめたい同意をとるとかしてないよね)
2.説明責任:元データとAIについて、納得感がある説明ができるのか。
3.公平性:データ提供方法の公平性、特定な人に不利にならないか。
4.安全・安心:風評、脅迫という内容等
5.情報保護:データの保管と管理について
感想
データガバナンスというテーマだけど、どちらかというとデータプライバシーのほうが適切なのかなと思った。
データプライバシーの問題は、法務だったりCDOだったりといった専門組織にお願いするイメージがあったが、ビジネス部門がチェックリストを作って運用するというのは、リードタイムがかからずにいい取り組みだなと思った。
データ戦略を構築する - ビジネスゴールに沿った実践的なSTEP
Donna Burbank 氏
Global Data Strategy Ltd, - Managing Director
データ駆動型ビジネスについて
ビジネスとITが近づいていっている。
データを活用することでどうやってビジネスに生かせるのか知りたい、ビジネス側が見たいデータをどう作っていくのかが重要。
今や上場企業のトップを見てもグローバル経済を牽引しているのはデータ企業である。今や巨大企業だけではなくて、あらゆる企業がデータを用いている。データ企業を目指す企業もあれば、データを使ってビジネスに生かす企業もある。
データストラテジーとは何か?
この解を出すためには、ストラテジーとマネジメントの違いを意識したほうがよい。
データストラテジーはゴールと計画、データマネジメントそれを成し遂げるための手段。データストラテジーはセクシーなものでなくてはならない。
成果物は、何でもよいがWordの文書ではなくて、簡潔にわかりやすいパワーポイントを成果物にする。ただし成果物を作ることを目的にするのではなくて、関係する部門が動いてもらえることである。
経営戦略とデータストラテジー
経営戦略とデータストラテジーは密接に絡みついて依存している。今や経営戦略の要素としてデータが入らないことは考えられない。
ストラテジーを考えるために攻めの観点と守りの観点がある。
一概に考えるのではなく、スタートアップは攻め、レガシー企業は守りなど、会社の考えに沿って攻めと守りの意識を把握して戦略を提案したほうが良い。
ビジネス成果とデータマネジメント
データマネジメントは直接的にはビジネス成果に結びつかないが、正しくビジネス成果につながっていることを説明しないといけない。
例えばデータ品質へ向上の取り組みとして欠損値を埋めることを行うときに、欠損を埋めることが目的なのではなくて、ビジネスがBIを使うために必要であることを説明する。
データガバナンスが必要ですよというより、説明責任、品質、文化が必要であると説明する。
データストラテジーを根付かせるために
ストラテジーを立案した人は、そのストラテジーを大事にするが、自分ではなく組織がストラテジーを自分事として、成し遂げようとすることが大事。
そのために行うこと。
・自分がやっているタスクについて話をするのではなく、ビジネス的な価値に重きを置いて語る。
・小さな成功を積み重ね、成功を積み重ねることで、大きな戦略が成し遂げられていることを伝える
・ビジネスKPIを明確にして、ビジネスKPIに対してデータマネジメントがどのようなインパクトを与えたのかをスポンサーに伝える
・データストラテジーはわかりやすい言葉で、わくわくするものを作る
・全社でビジョンを成し遂げるためにはデータリテラシーも重要
これらのことを行えば、適切なサポートが受けられデータストラテジーを成し遂げられることは間違いない。
感想
この話はいかにデータマネジメントを行いたい人がスポンサーを得るのかということなのかなと理解した。
データマネジメントを進めるためには、正しく戦略を策定してスポンサーを得て進める必要がある。そのためには戦略が重要。
・ビジネスストラテジーがある
・達成にはデータストラテジーが必要。
・データストラテジーはデータマネジメントによって成る。
この関係性を明確にして、ビジネス部門と握る。
データマネジメントに関する作業というのは、ビジネス的な価値が直接的には見えないので、そのまま伝えるのではなくて、価値を明確にして伝えることが重要。
DX推進を支えるデジタル事業基盤とデータガバナンス
佐野 直人 氏
株式会社日立物流 IT戦略本部副本部長 兼デジタルビジネス推進部長
ロジスティクス業界の現状と課題
ビジネス環境の変化によって、物流業界へ変革を促す圧力がかかってきた。
ダイナミックな変化への対応があり、DXの推進で対応する必要がある。
・変動するリソースとコストのリアルタイムな把握
・個別ではなくサプライチェーン全体を見た最適化が必要
・お互いの情報を共有する仕組みが必要
課題となっている点としては、基幹システムは一元管理されているが、事業系システムが個別最適化されてしまっている。
データ基盤の必要性とビジネス目標
データをうまく使うためにデータ基盤が必要になってきた。
・データ可視化による業務改善を横展開する
・顧客へのレポートの適時化
感覚的な話ではなく、共通のデータ基盤を見て定量的な数字に基づいたビジネスを進める。
2億円かけて子会社のデータを可視化するアプリケーションを作ってしまって、汎用性がなく捨てる羽目になった。そこでわかったことは、データマネジメントの重要性、前工程で工数の8割くらいを使ってしまうこと。
個別の取組はDX推進に寄与しないため、標準化が重要になってきた。
標準化のために、DMBOKを軸にデータ基盤を作っていった。
個々の顧客最適と標準化への取組
倉庫管理システムが全て個別仕様で500システムほど存在していた。業界のカテゴリに合わせて7つに分類しモデル化、分類してみると個別仕様であったはずのシステムが共通な構造を持っていることが分かった。
標準化データベースを作り、ここからビジネスの目的に合わせて業務改善等のビジネスに貢献できている。今後はAI等を活用したことも行っていく。
DX展開:顧客へのデータ基盤の活用
サプライチェーン経営が持つ課題としては、情報のサイロ化、レポーティングの遅さなどがある。
サプライチェーンにかかわる事業者が同じデータを見てビジネスを進めることで、リソース計画、未来へのシミュレーション、迅速な意思決定ができるようになる。
DX展開:事業改革、ESG経営への活用
現場では業務改善に必要な情報はExcelで管理されている。
ESGのために、サプライチェーンの領域ごとにCO2の排出量の提出を求められる。
データ基盤のガバナンス課題と対応
これまでの3か年計画は、デジタル事業基盤の構築に取り組んでいた。
今後の3年間はいかに作ったデジタル事業基盤を用いて、ビジネスに貢献するのかが肝になってくる。
また、ここからは人材の勝負になってくる。人材のプロファイリングを定義したので、今後は育成について取り組む必要がある。
今後はデータマネジメントについて、どうガバナンス体制を築いていくのかというのが課題である。
感想
サプライチェーンの関係者が価値を感じるデータ基盤を作ることができれば、お金を払ってもらえるのか、他社にはない価値を感じてもらえるのか、コストを削減できるのかというビジネス的な価値が生み出せるなと。
進めるうえで相当人とお金がかかったというのを感じるので、スポンサーが強力な支援をしているなという印象。
このタイミングでPOCどまりにならずに、安定的なビジネス的な価値創出にたどり着けたというのは称賛すべきところ。
スポンサー各社によるLightning Talk
スポンサーのLTということで、スポンサーの宣伝が主。
一番面白かったのはインフォマティカのLTだった。おそらく前回と同じ人が話していて、結構勢いよく話していた記憶が残っている。
株式会社プライド
データと情報を再定義して、今までの常識的な行動を変革させるという考え方についての話。
株式会社アイ・ティ・イノベーション
DXに関するコンサルティングサービスの紹介。
全社のシステムをモダン化するためのアーキテクチャを提案します。Metanoah2.0というメタデータ管理ツールを使ったデータマネジメントを提案します。
インフォマティカ・ジャパン株式会社
実践!データガバナンス。
データガバナンスとはデータをビジネスに利活用できる状態を、企業全体で維持していくこと。
データが一部の人だけのものになっているため、全社的なデータ利活用推進ができない。
必要な人が、必要な時に入手できるようにする。
データガバナンスのROIを出すために、データをどうビジネスに利活用したいのかを考え、実現時の期待効果を算出する。
データに関する相談窓口をつくり、データに関するスーパーユーザーを見つけて、ROIを出してもらう。
データの資産価値を高めるデータ統合基盤を作る。
メタデータの収集は利用目的が明確なもの、かつ自動収集を目指すべき。
株式会社データ総研
DX時代のデータ活用とは、データを活用したビジネスのサイクルを行う。
ビジネスの中でデータ活用を自然と使えるサイクルを作る。
そのためにシステム的なプラットフォームと、メタデータの管理の支援をしています。
Metafindコンサルティング株式会社
DXの加速、セキュリティ・コンプライアンス意識の高まりもあり、データ利用に関する全社的なルール/体制の整備が急務。
準備時、取得時、保存時、利用時についてルールを定めてガバナンスをとる必要がある。
データガバナンス委員会にて、ポリシーを定めて管理・運用を行う。
おわりに
自分の知識をまとめるためと今後誰かがデータマネジメントをやってみたいと思った時のきっかけとなるためにnoteを書くことにしました。
モチベーションのために役にたったという人はぜひ、フォロー&スキをお願いします。
ツイッターでもデータマネジメントに係る情報をつぶやいてますので、よろしくお願いします。
データマネジメントを学ぶ人が抑えておきたい本
DXを成功に導くデータマネジメント
DXを成し遂げるために必要なデータをどうマネジメントしていけばよいかが書かれている。
データ環境より、セキュリティの観点であったり、プライバシーの観点であったりといった非技術者向けの内容が多く書かれている。
データマネージメントに興味を持った人はまずは読んでみるとデータマネジメントでなすべき概要が理解できる。
実践的データ基盤への処方箋
データ利活用を行うために必要なデータ基盤の考え方と、利活用するためにはデータをどのようにマネジメントしていけば良いかを具体的な例を用いて説明されている。
技術が中心になるので現在データ技術に係る人がデータマネージメントに興味を持った時には、まず手に取ることをおすすめする。
個人データ戦略活用 ステップでわかる改正個人情報保護法実務ガイドブック
個人情報保護法を順守するための基本的な考え方が実務ベースで書かれている。2022年4月に施工される改正個人情報保護法で新たに追加される概念も同様に記載されている。
政府の出しているガイドラインよりも俯瞰的に読めるためデータプライバシーにかかわる人、データを使ったビジネスを推進する人は読んでおくとスムーズに業務が進められる。
データマネジメント知識体系ガイド(DMBOK)
自分も要約・解説記事を書いているDMBOK。データマネジメントに興味を持った人がまず手に取ると挫折することは間違いないほどのボリュームがある。
読めば読むほど味が出てくるので、データマネジメントを進めようとしている人は各家庭に1冊は是非買っておきたい。
データマネジメントが30分でわかる本
著者もDMBOKを読むためには非常にボリュームが多く読み解くには苦労するので、かみ砕いた解説書をまとめたと書いてある通り、DMBOKを独自解釈してわかりやすく書かれている。
DMBOKを技術者目線で読み解いた内容になっているので、実践的データ基盤への処方箋と同様データ技術に係る人におすすめする。