妻のシャンプー
風呂に入るとき、いつも気になっているものがある。
妻のシャンプーだ。妻専用のそのシャンプーは私が使うことを禁じられている。
なぜなら高価だからだ。
目にはいると、ただならぬオーラをまとっているそのボトル。
何度か手を伸ばしたことはあった、そのたびにはじき返されている。
ある一定の距離より近づけない。
使ってみたい。
ついにその日が来た、妻が用事で実家に帰って一泊してくるというのだ。帰りは次の日の夕方。この日しかない、妻がいる時は風呂上がりの匂いで速攻バレてしまうだろう。しかし、この日ならば帰ってくるころには、気づくほどの匂いはしないだろう。
決行の日、普段はアルコールは飲まないが、ビールを2缶ほど飲みそのチカラを借りることに。酔っ払った勢いで、あのただならぬオーラを突き破る、プシュっとワンプッシュする、透明のジェル状のシャンプーが手に乗っかる。よく見ると中に粒々がたくさんある。
もうワンプッシュしたい気持ちになるが抑えた。というより出来なかった。
手に乗っかるワンプッシュ分のシャンプーを丁寧に泡立てる。化粧品店のような香りが漂う。ほぼ行ったことないからイマジナリー化粧品店の香りか。
それを頭に乗せてゴシゴシと洗う。いつもよりゴシゴシの時間を長めにする。
そして洗い流す。
ついに使ってしまった。
風呂場を出て、とりあえず換気扇を強で付ける。髪の毛を乾かす。
いつもと明らかに違う髪の毛。軽いし柔らかい感じだ。
なんだか嬉しくなり、もう1缶ビールを飲む。
いい気分でねむる。
明くる日は、休日だったため普段よりゆっくりと寝た。
起きてスマホを見ると妻からメールがある、夕方に帰ってくる予定が昼ごろに帰ってくるという内容だった。
まだ私の頭からあの香りがしているような気がして焦る。このままではバレるかも、どうしようと考えた末に、出掛けることに。
妻に「観たい映画があるので観てくる、夕方には帰ります」とメールを入れた。「OK」のスタンプが届いた。
何観たのか訊かれた時答えられるよう、映画はちゃんと観ようと思い、映画館の上映作品を検索する。興味がある映画があった。時間もちょうどよかった。
出来るだけ頭の香りを消せるように風をあびようと思い、自転車にまたがって映画館を目指した。
映画を観て、自転車で自宅に帰る。
もう大丈夫だと思っていた。
が「ただいま」がよそよそしくなった。
妻は気になっていない様子。その後は普段どうりを意識してすごした。疲れた。
結局バレなかった。
悪いことをしてバレなかった。
その日の寝る前にこんな事を思った。
お金に困っている訳ではないのに、万引きを繰り返してしてしまう人がいるとテレビで観た事がある。「悪い事をする」をスリルだとか快感だとかに感じてしまうのだろう。一度成功するとまたスリルや快感を求めてやりたくなるのだよな、きっと。私も、一度成功してしまった。またやりたくなってしまうのか。バレて怒られてもまた…