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散文詩 / methylphenidate

私は記憶/記録よりも産出/生成を重視している。だから一瞬前の出来事ですら取り出すことは出来ない。しかし無意識のうちに堆積してゆく。夜が否定した光を太陽が肯定すること。昼間に「夜に見る夢」を見るausscheidenこと。
私たちの知るというはたらきは、血液となって地球を循環する。生体反応は火山の噴火としてあらわれる。対象は非対象性そのものであり、そこで現在は揺らぐことも奪い去られることも無い。思考は最も硬い鉄をいとも容易く切り裂く。噴出する体液にはそれぞれ番号が割り振られる。綴じられるべき言葉の群れは932番のうちにひそんでいる。明るみの底で秘匿された執着心に闇を投げ掛ける。
思想は、かくてふたたび夢の姿をとって現前する。シンボルは依然として歪曲し、現にあるありかたで解読されることは無い。それゆえにまた、双眸を押し広げられたイコンとして弾き出す。
強度を備えた理性に対抗しようとするものは居ない。涙から漏れ出す感情の在処を誰も問わないのと同様に。

不確実であることにのみ人々は耳を傾け、その不確実性ゆえに安堵している。

少なくとも私たちは美貌というものがなんであるかを承知している。あるいは私だけが容貌にかんする一切を手中にしていない。思考は開け放たれた窓から飛び出すこともせず、部屋から部屋へと往復する。そしてそこで体毛を拾うたびに言葉をべつの言葉へと置き換える。
思考はさらに、熟考という形をとって低温調理される。私たちはそこから立ち昇った煙(芳香)に対してのみ吟味と判断とを加える。あるいは実体を欠いた実在の肌触りにかんして何らかの感興を催す。
口々にさまざま言明される感性は家畜であり、生体サンプルであり、愛玩動物である。

不断に去来する句点を否応無く飲み込む。読点は一方で、その個別性ゆえに落ち着きが無く、口にする前に霧散してしまう。よって喉の渇きは癒えても空腹感が満たされることは無い。私たちは仕方無く、整形外科に通って互いの身体に打ち込まれた濁音や半濁音を取り除き合う。
しかるにいまだ言葉は言葉であるものに過ぎない。整形外科医は誤字は訂正し、脱字を補ってしまう存在であるからだ。

身体性もまた、部屋から出てしまうことですっかり馴染んでいたその実体を失い、大気を漂う透明な実在となる。その実在に付着しているのは使い古された言葉であり、恥じらいを覚えた実在は雑草であるところの修飾詞を身に纏い、かくて本質であったものは単に仮象に過ぎないものへと転化される。
つまり叙情詩であったものが、もはやばらばらの単語としてしか読み取られなくなるのである。他方、心情は春の歌を聴いて居られることだけにひたすら満足するという消息なのだ。したがって心情は──それがどのような“素質”であれ──、掛けられた嫌疑にすら微笑を伴って手を振るといった具合である。
春の歌は擦り切れたレコードのうちで極度に淳化され、やがてたった一音のみしか流されなくなる。心情はこのことをむしろ幸福だと感じ、まったく同じ境位であるところで姿勢を崩す。結局、貯め込んだ札束はジュラルミン・ケースの中から一度も取り出されない。そこで性欲は、偶然であるものとして人々に思い及ばれたものである。

こうして呼吸の在処を探す。魂の行方を探す。
ビートは直線に全身を貫く。直線は地球を超え宇宙に達し、月を、火星を、木星を、ひたすらに刺し貫いて震える。

暗闇の中で惑星は色彩を失わない。光から与えられた屈折を迸らせる。色彩は孤独から身を守る。私たちは絶えず色彩を発する──音であれ、香りであれ。
だから想像力は透明の人間に向けられなければならない。宇宙の暗闇に生身を晒す姿を知らなくてはならない。連続する思考だけが全宇宙を覆う。
感覚は確かに透明の人間の姿を捉えるかも知れない。しかしそこでは透明であることと色彩を持つこととの区別までは思い及ばれない。思考は敢えてその区別を採用する。透明の人間が透明の人間であることを殊更に強調する。そうすることでそれぞれの惑星が放つ波形を把捉する。
そして思考はまた、敢えて文字の意味を解体する。風景と化した文字は透明の人間を浮かび上がらせる。電光掲示板に映し出された無意味な文字列は透明の人間の血液循環である。
素粒子の放つ矢が私たちの心臓を貫く。文字の血飛沫が惑星という画面を覆う。低画素の意味を永遠の時間をかけて口にする。

暗闇はすべてを生み出すカオスである。
光は暗闇が創出した偶然の産物であるに過ぎない。
私たちは、あらゆるものは暗闇から生まれた。無というすべての存在するカオスから生まれた。すべてはそこに、ただそのものとして存在することから始まった。
思考はそれに形を与えるものである。だからひとり思考だけが全体に思い及ぶことが出来る。そのことについて思考しないということも含めて。

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水川純
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