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藤子・F・不二雄のSF短編、子どもが読むにゃまだ早い。
中学の頃、叔父が「藤子・F・不二雄異色短編集」を譲ってくれた。
何冊かもらった中で初めて読んだのが、「気楽に殺ろうよ」だった。ある日突然、食欲と性欲の価値観が逆転した世界を描いた、衝撃の短編である。
「ドラえもん」と同じタッチで描かれる、どう考えても子ども向けでない物語に、しばらく眠れないほどショックを受けた。
続いて「ミノタウロスの皿」「ガンビュセスの籤」を読んで食欲をなくし「ヒョンヒョロ」「ある日……」に恐怖し、「定年退食」や「ノスタル爺」に胸が潰れそうになった。
もらった本だけでは飽き足らず、自ら文庫版を買い求めるようになったほど、私はF先生のSF(少し・不思議)な世界にどっぷりハマった。
ハマるあまりに、ちょっと空回りしてしまった事があった。
うちに遊びに来た友人に「これ面白いよ!読みなよ!」と「劇画・オバQ」を勧めたが、彼女は読み終わった本を閉じて「うん、おもしろいね…」とぎこちなく言った後、取ってつけたようにヒラリー・ダフやビヨンセの話を始めた。
あれは空気読めてなかったなーと、今でも胸が痛くなる。漫画の話より、恋愛やオシャレに興味のある子だったもんなあ。そんな子に「劇画オバQ」はダメだ。
大人になった今、あらためてSF短編を読み返したくなって、思い切って全集を揃えてみようかな?などと考えたりもしているのだが、「うっかり子どもの目に入ったらトラウマになるかもなあ」という懸念から、まだ購入には至っていない。過保護すぎるだろうか。
特に読みたいのは「コロリ転げた木の根っこ」。
あのラスト一コマ。恐ろしすぎて今でも目に焼きついてる。
子が小さい頃、Eテレの「コレナンデ商会」を観ていたら、漫画の元ネタである童謡「まちぼうけ」が流れ、あのコマを思い出して鳥肌が止まらなかったのを覚えている。
SF短編第一作である「ミノタウロスの皿」は、F先生が「オバQ」や「パーマン」のヒット後に訪れたスランプの時期に生まれた作品なのだという。
児童向け作品を手がける上で高まった本格SFへの渇望、あるいは、子供向けに濾過したブラックさや残虐性の澱みたいなものが溜まりに溜まっていて、それをすぐれた大人向け作品へと昇華させたのが、「SF(すこし・不思議)短編」なのだろう。
やはり、F先生のSF短編は、大人が読むべき作品群であると思う。
子どものうちは「ドラえもん」などを楽しみ、一通り履修し終わった後でSF短編に出会うのが理想だ。
わが子も、中学に上がった辺りに、何かのタイミングでこの作品群に遭遇してくれることを望む。
SF短編はこれまで何度か実写化されている。
最近ではNHKの夜ドラ枠で放送されていた。「定年退食」が加トちゃんと井上順でドラマ化されていたのはうれしかった。
もともと、普遍性と先見性を持った古びることのない物語ではあるが、どの作品も現代から見て違和感のないかたちで映像化されていて、とても満足度が高かった。
あのクオリティで「ミノタウロスの皿」が観られたら最高だ。シーズン3の放送を望む!
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