おじさんとパンケーキと若者
「良いっすよね♪朝からパンケーキ。糖分とると幸せな気分になるし」
グイグイと俺の前に相席してきたのは、スーツをしっかりと着ている割には髪はロングヘアーを一括りにした、サラリーマン風の若い男だった。
「にしても、朝は混むってわかってんだから相席が嫌なやつは来なきゃいいのに!」
先ほどの女性客に聞こえる程度のボリュームで言い放つ。
「ま、あの人たちが待つっていったから俺が今パンケーキにありつけるんですけど」
行列ができるパンケーキ屋が、次の取引先だった。女性部下に偵察を頼んだのだが、結局概要が理解できずに自分の足で店を偵察することにしたは良いものの、朝から店内は女性しか居なかった。
俺が席に案内されると同時に、後ろに並んでいた女性3人組に店員が
「相席でしたらすぐにご案内できますけど?」
と、声をかけるも
「えー?おじさんと相席とかまじ無いんですけど。こっちは今日を楽しみにして朝から並んでるのに」
ヒソヒソと断る声が聞こえた。
若い男だが、正直相席をしてくれて助かった。スーツで2人並んでいれば、仕事関係だと思われるだろう。
ほぼ同時に運ばれてきたボリューミーなパンケーキ。慣れないスマホを使い写真を撮影した。
「お!バエってやつすか?俺のも撮っていいですよ」
「いや、私は仕事の調査で来ていて……」
全く聞いてもいない様子で大きな口を開けてバクバクと食べすすめる彼。負けじとナイフを使って切り取り、イチゴと一緒に口へ入れる。
「うまい。これはうまい」
モーニングセットとはいえ、分厚いパンケーキが3枚も重なっているのはオジサンの胃には辛い。申し訳ないが残して帰るしかない。
「あの、もしかして残します?まじすか?やっぱり、すぐ食べちゃうならこの量は多いっすよねー。女性はモーニングで頼んで昼近くまで居たりするけど、これから仕事っぽいですもんね」
なるほど。たしかに周りの客を見ると、きっと今日は休みであろう女子で溢れている。1組あたりの滞在時間が長いから、待たされる客も増えるし、商品の価格もあげるしかないのだろうな。大体店のことは分かった。
この店を男性客が多いあの辺りに出すのは、危険じゃないだろうか。ものの数分で居心地の悪さを感じてしまう。
「じゃあこれ、もらっていいですか。ほら、シェアして味チェンしたりするんですよ」
「え?まだ食べれるのならどうぞ。私は帰ります」
私が席を立つと同時に、ひょいと余ったパンケーキをすくいあげ、口へ押し込む彼。口のはじには生クリームがべったり付いている。そして、そのクリームがツーとスーツにも垂れた。
「おい、みっともないぞ。生クリームがついている。社会人なら気を付けなさい」
ウエットティッシュを取り出し、スーツの胸元をサッと拭いてしまった。
「あ、すまんね。自分の息子でもあるまいし」
「ありがとうございます。ウエットティッシュ持ち歩いているなんてヤバいっすね」
さて、会社に戻らねば。男性向けのスイーツ店なんて繁盛するか? とも思っていたが、味はうまかった。量を減らして回転率もあげれば、存外無しではなさそうだ。この人気店の姉妹店として出すなら、知名度も充分。後は、あした帰国するらしい敏腕オーナーさんとアポを取って……。
「あ、オーナー。食べ終わりましたか?」
店員の女の子が駆け寄ってきた。
「え?オーナー?」
「はい。オーナーです。僕レアキャラっすよ!たまたま海外の土産を持ってきただけで、普段はいろんな店を視察してるから。実は、もう少ししたら、男性向けのスイーツ店も出す予定で、そしたらオジサン、また一緒にモーニングしましょうよ!」
これから私は、この男とプロジェクトに取り組むのか……。まあ、悪くはないな。楽しくなりそうだ。
【妄想ショートショート部】
今週のテーマは、「おじさん」「朝食」 でした。
毎週お題を決めて、ショートショートを投稿しています。
珠玉のメンバーが妄想をぶちまけているのでお楽しみください。
【メンバー】
ダラ
https://note.com/daramam
たね
https://note.com/cherry_seeds