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実際にはない国境を信じる者たち【ザ スクエア 思いやりの聖域】♯084
皮肉を極めた映画監督。リューベン・オストルンドの新作『逆転のトライアングル』が公開中。
ザ スクエア 思いやりの聖域 2017年/スウェーデン
【ストーリー】
クリスティアンは周囲から尊敬されている美術館の管理責任者。洒落たスーツに身をこなし、美術館スタッフからも信頼されている順風満帆な人生だ。
彼は展示館内の外に造られた
“ザ スクエア”
という参加型のアートを発表する。そんなある日、クリスティアンは出勤途中にスリに合ってしまう。
【解説というか、レビューというか】
無自覚なエリート主義者。
わたしは思いませんが、テスラに乗って洒落たスーツを着た美術館のキュレーターみたいなイケすかない奴は、バナナの皮でも踏んで転んでくれよってたまに思うじゃない。わたしは思いませんでしたけど、
ぜんぜん思いませんけど、そういう悪戯を仕掛けたっていう風刺映画がこの映画。
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アーティスト、ローラ・アリアスの『関係性の美学』
に触発されたクリスティアンは国営美術館で、
『ザ スクエア』思いやりの聖域というアートを作る。
それは、四角いフレームの中で誰かが助けを求めていたら、率先して助けなくてはいけない、そういう現代アートだ。
人は集団になると道徳心が薄れる人間の心理をついた
ザ スクエア(四角)クリスティアンは美術館に寄付をした客たちに、このアートを説明します。
彼はきっと正義を訴えたいはず。
しかし、クリスティアンの日常生活には、
駅前で横たわるホームレスや、募金を呼びかける人は
目に入っていない。彼の関心事というのはアートの宣伝と、出勤途中にスられた財布とスマホの行方だった。その財布とスマホを取り返すために行った彼の行動は、ザ スクエアの理想とはかけ離れたものへとなっていく。
テスラ車の中で流れる音楽“ジャスティス”
どれだけ人間が上部だけの正義を語っているか、
この映画はユーモアに満ちたセンスで語りかけていきます。
美術館や公共の場が高尚であればあるほど、
美しく取り繕う人の愚かさがじわりと滲み出る。
知らずのうちに貧困層を蔑んでいる主人公がみて取れます。
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そして気が付くと、私が今観ているこの映画も、
四角いTV画面。もし劇場で観ていたのなら、
スクリーンというスクエアの中にクリスティアンはずっといる。
『ザ スクエア』外で、進んで人助けをしない主人公を、私たちはスクエア内で観ているのです。
こうやって今描いている解説文も四角いPC画面。
四角いキーボードに四角いキーを叩いている。
これを読んでいる方々も、おそらく四角いスマホ画面で読んでいる。そしていまいる部屋も多分、
四角いのではないでしょうか。
うわべだけの正義感が暴走したSNSに
過激な発言が飛びかうみたいに、理想を間違った方へ向けると、現実が見えなくなる。ザスクエアのコンセプトを、説明すればするほど、理想に反する事が明らかになります。
映画というスクエアの中。
道の脇で横たわっているホームレスをさり気なく
見せつける場面は、ザスクエアのようなアートは
町中にあるんだ、四角い境界線やルールがなければ
思いやる事ができない。
悲しいけど、人間はそういう性質をもった動物に過ぎない。そう物語っています。
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芸術を否定してる訳じゃないけど、肯定もしていません。ただ、現代アートのその価値については容赦無く切り込んでいます。
美術館の為に寄付される数億円の寄付金。非現実的な額です。現代アートが分かる人は、それを制作した作者ただひとりだけ。そう思っている人にとって、
アートというのは既に終わっているんです。それなのに、尊敬すべきでない人を、尊敬しようとするアートを過大評価する世の中の雰囲気に一石を投じた。それがこの作品。
そしてこの映画がやっている事、それも現代アート。
こりゃ、痛烈。
イケすかない人にちょっぴり意地悪をしてほくそ笑んでいたら、ブーメランのように自分に返ってくる。
みなさま、どうぞお気をつけください。
バナナの皮はちゃんと捨てよう。
感情に訴えている映画ではなく、
人間は動物なんだと思い出させてくれる映画です。
【シネマメモ】
よく分からない現代アートよりも
この映画に価値をみつけて最高賞にしちゃう
カンヌ映画祭のセンス。
重ねがさね皮肉です。
✳︎合わせてみたい映画
『パラサイト 半地下の家族』