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塗装現場からのメッセージ《第20回》潤滑塗装の特徴と用途

本コーナーでは、豊富な経験と実績を誇る茨城県稲敷郡阿見町の塗装専業メーカー、㈱技研・代表取締役 宮本勇気(みやもと ゆうき)氏が、塗装現場におけるさまざまな課題解決のためのヒントを伝授します。

※本記事は「塗装技術」誌に掲載されたものです

日々の業務を行っていると、機能的な塗装に関する問い合わせを数多く受ける。塗装膜には何かしらの機能が付与されているのが当たり前であるが、わかりやすい特徴を持つ塗装の1つに、潤滑性を付与する塗装=潤滑塗装がある。
オイルやグリースを使用せずに製品の摩擦を軽減させることが可能な潤滑塗装、潤滑コーティングは、さまざまな分野・用途で使われている。部品の摩擦や摩耗は製品の寿命や性能に大きく関わる場合も多いため、潤滑塗装は部品の耐久性や、製品性能の向上に役立っている。以下に具体的な特徴や用途をいくつか挙げていく。


潤滑塗装の種類と特徴

潤滑塗料は主に以下の3 種類に分類できる。

⑴固体潤滑塗装

高い潤滑特性を持つ固体成分、たとえばモリブデンジスルフィドやグラファイトを含む塗料を使用した塗装である。高荷重や高温などの過酷な環境で使用されることが多い。
そのメカニズムだが、固体潤滑材が形成する微細な層状の構造を持つことで各層間が弱い力でつながっているため、ほんの少しの力で層がスライドして相互に動く。この層間スライディングが、物質の低摩擦特性と高い潤滑性を生み出している。また、固体潤滑塗装は、液体潤滑剤が効果を発揮できないような高温や真空などの厳しい環境下でも潤滑性を維持することができる。特に熱環境下における焼き付き防止・かじり防止に最適である。

固体潤滑塗装:ギア

⑵バインダー型潤滑塗装

バインダー型潤滑塗装は、バインダー(結合剤)と固体潤滑剤が混合された塗料で、その主な潤滑のメカニズムは固体潤滑剤によるものである。これは、固体潤滑塗装の潤滑性の原理と基本的には同じである。
バインダーは塗料が素材にしっかりと付着し固定される役割を果たし、耐摩耗性を向上させる。特徴としては、バインダーの存在により固体潤滑剤が素材とより強固に密着し一貫した塗膜を形成できる。その結果、塗装の耐久性と性能が向上する。バインダーは塗料の付着性を向上させ、複雑な形状や曲面への製膜を容易にしている。
しかし、バインダー型潤滑塗装は、塗装の乾燥や硬化に適切な時間と条件を必要とするため、使用環境に応じて適切なバインダーと固体潤滑剤の組み合わせを選択することが重要である。

バインダー型潤滑塗装:ガスケット

⑶ドライフィルム潤滑塗装

ドライフィルム潤滑塗装は、固体潤滑剤を細かく分散させた塗料で、乾燥後には薄いドライフィルムが形成される塗装である。その主な潤滑のメカニズムは、ドライフィルムが形成する微細な層により、部品間の直接的な接触を防ぎ、摩擦を減少させるものである。
ドライフィルム潤滑塗装の特徴として、膜厚の薄さが挙げられる。薄く塗布できるため、塗装後の部品の寸法や形状がほとんど変わらず、精密な部品や複雑な形状の部品にも適している。また、高温や真空、極低温など、液体潤滑剤が適用できない条件下でも良好な潤滑性の維持が可能である。
さらに、フッ素樹脂などを使用したドライフィルムは非粘着性を付与できるため、塵や汚れが付着しにくいという利点もある。これにより、潤滑塗装の性能が長期間にわたり維持され、部品のメンテナンスが必要な頻度を減らすことが可能になる。

ドライフィルム潤滑塗装:エスカレー ター  チップソー

上記に挙げた潤滑塗料は、それぞれ特性と得意用途が異なるため、使用する状況や目的によって適切な種類を選ぶことが重要である。


塗装加工時の注意

適切な前処理

潤滑塗装に限ったことではないが、塗装面の清潔さは非常に重要である。油や汚れ、錆などの不純物は、塗膜の品質や耐久性に影響を与えてしまう。塗装前に部品を適切に洗浄し、表面を適切に準備することが必要である。
使用する塗料、必要な付着性などを考慮し、ブラストなどの処理も検討する必要がある。

適切な膜圧

潤滑塗料はそれぞれ適正な膜圧がある。薄く塗布する必要がある塗膜を所定より厚い膜で塗装した場合には、潤滑性が低下することがある。また、乾燥時間や硬化時間も厚さに影響されるので、注意が必要である。

適切な硬化

多くの潤滑塗料は、乾燥後に加熱硬化させる必要がある。硬化プロセスは塗料の性能に大きな影響を与えるため、製造元の指示を厳守することが重要である。

塗料の選定と考慮

最適な潤滑性と耐久性のバランスを達成するためには、使用用途を考慮した塗料の選定、使用する塗料の種類、塗布方法、硬化条件などを慎重に選択し、調整する必要がある。


潤滑塗料は一般的な塗料と比較して、特別な性能を提供するように設計されている塗料である。一般的な塗料が見た目や保護を重視するのに対して、潤滑塗料は摩擦を減らすこと、部品の動作を改善することを主にしている。そのため、潤滑塗料を選定し、塗装する際は、塗料メーカーの仕様や意図を十分に理解し、自社のノウハウも組み合わせ、目的に合った塗装仕様を確立させることで、性能を最適化することが可能になる。

㈱技研…1985 年1 月創業。シリコン加工・テフロン加工・金属およびプラスチック部品の塗装・印刷・組立その他加工全般を手掛ける。
取扱品目は製菓、製パン用天板、住宅関連部品、自動車部品、弱電部品、時計部品、その他関連商品・各種部品。

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