塗装現場からのメッセージ《第6回》塗装における乾燥工程の役割と目的
塗装業務においては、顧客とのやり取りの中で、「製品の耐熱温度が低く塗装の標準工程の温度に耐えられない素材のために、塗装時の乾燥工程を常温で対応できないか」との相談が稀にある。
その際、「塗装後に製品を放置する場所と時間、さらに塗料の選定を当社で行うことができれば、要求される塗膜性能によっては対応が可能である」と回答している。
対応方法に関しては、非塗装物の材質や使用する塗料により対応の可否や条件があるため、ここでは、塗装時の乾燥工程の役割と乾燥の目的について紹介する。
硬化のメカニズムよる塗料の種類
乾燥工程は、使用する塗料によって目的が異なる。当社(技研)で常時使用している塗料のタイプは大きく3つに分類される。
熱硬化型
指定の温度で塗膜が反応硬化し、塗膜を形成するタイプ。焼き付け塗装といえば一般的にこれを指す。熱硬化により反応する樹脂を用いた塗料で、代表例として以下が挙げられる。
メラミン塗料:120℃〜
アクリル塗料・エポキシ塗料:150℃〜
シリコーン塗料:200℃〜
フッ素塗料:380℃〜
2 液反応型
2 液が反応して塗膜形成するタイプ。2 液塗装やウレタン塗装と言われている。主剤+硬化剤などを一定の比率で混合することで硬化反応が始まり、塗膜ができる。代表的なものはアクリルウレタン塗料。60〜80℃ で20〜30 分が多い。
自然乾燥型
塗料中の溶剤が揮発し、残った樹脂が塗膜になるタイプ。ラッカー塗装と言われており、ニトロセルロース塗料やアクリルラッカー塗料などがある。塗料中の溶剤が揮発し塗膜になり、乾燥時間は常温で数時間、乾燥機を使用する場合は50〜60℃で10〜20 分。
上記の他にも、紫外線で反応するUV 塗料や、空気中の湿気と反応する湿気硬化型塗料など、さまざまな硬化メカニズムの塗料が発売されている。
乾燥機による硬化を行わなかった場合
自然乾燥型の塗料で約1 日、反応型のアクリルウレタン塗料の場合は約1 週間放置することで塗膜になる。しかし、熱硬化型塗料(焼き付け塗装)を使った場合は、どれだけ時間をおいても指定の塗膜にはならない。
塗膜性能の観点では、反応型のアクリルウレタン塗料を加熱し硬化促進した場合、および常温で放置し硬化させた場合では、塗膜物性に差が出ることもあり、注意が必要である。
さらに、自然乾燥で大量生産をしようとする場合、塗装から乾燥までの放置時間のコストが高くなることも承知のうえで、現実的に可能かどうかの判断も必要である。
乾燥工程の目的
前述の理由から、乾燥工程の目的は、
自然乾燥型と反応型/作業効率アップと品質の安定と向上
熱硬化型/塗料を反応させるための必須工程
ということがわかる。
塗料の反応の仕方や硬化メカニズムはそれぞれで異なるため、良い塗膜を作るには各塗料の特性を理解し、素材の耐熱温度や塗料の種類に合わせて乾燥条件の設定や工程を決める必要がある。
塗装業者の立場としては、その製品がどのような環境で使用され、どのくらいの耐久性が必要なのか、使用用途、塗膜のスペックを十分に理解し、予算と要望に沿った塗装を提供していくことが重要と考える。