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生成AIに対する向き合い方 - むしろ人間の脳を稼働させる
この記事は生成AIとの共同執筆です。
このブログでは、マイクロソフトのコンサルタントとして生成AIを業務環境に適用していく現場での知見をまとめています。
第1話:
生成 AI 筋トレをはじめよう!企業で生成を活用するためのジャーニー|Hiroya Kobayashi
生成AIの期待と現実 - 重要なのはAIではなく「人間側の力」
生成AIを業務分野に活用する現場で常に私たちを惑わせるのは、「生成AIは万能である」という ”期待” と ”誤解” 。例えば「生成AIが正しい提案書を作成してくれる」「良い企画を考えてくれる」等、プロンプトを駆使すれば最終成果物に近い代物が生成できるかも・・?のような。
2025年1月の時点の先端の生成AIであっても、少なくともそのような最終成果物をプロンプト1つで生成するような状況にはありません。
そのため現時点では、職場での生成AI活用=「ヒトとAIの ”分業” 」と考えるべきでしょう。
そして「ヒトとAIの分業」とは「”人間の脳リソース” と "コンピューティングリソース" の分業」であり、逆説的に述べると「コンピューティングリソースに省力化させた分、脳リソースをより一層稼働させること」とも言えます。つまり、実は生成AIの活用とは、人間の力(脳)だけができる特徴的なタスクに脳リソースを十分に稼働させる働き方と言ってよいでしょう。事実、生成AIをうまく使っているあるお客さんからは「生成AIを活用することでむしろ頭を使うようになり、脳が疲れるようになった。」というコメントをもらったことがあります。
業務を「分解」すると分業しやすい - ビジネススキルの重要性
様々な生成AIプロジェクトを経験するにあたり、「分業」するための最初の一歩は、業務を ”分解” することである、ということが分かってきました。分解された個々のタスクはそれぞれ 人間が頭を使うものか 生成AIに任せるものか に色分けがしやすくなります。しかし業務の頭からお尻まで(それこそ例えば「1から提案書を作成する」という業務)という大きな単位で考えてしまうと分業のイメージは沸きません。
さて、業務を分解するためには、業務全体を俯瞰する力そして、そもそもその業務は何を目的に・何に立脚して実施すべきか、という”Issue”を見極め、言語化する力が必要となります。これらは ”生成AI活用リテラシー" というよりは "一般的なビジネススキル" に近いものと言えます。
また、個々のタスクにおいて、生成AIの使いどころを見極める作業は、先に述べたように、むしろ「人間の脳の使いどころ」を見極める作業です。今まで作業を終わらせることを優先して目をつぶってきた本質的な作業、「考え抜く」「情報群を適切に編集する」といった各種ワークを際立たせることになります。このあたりの本質の追求もやはりビジネススキルの一種のように思えます。
Microsoft Researchによるレポート「New Future of work 2024」ではMicroproductivityという言葉を使って同様の説明をしています。
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Copilotによる要約 | Microproductivityは大きなタスクを小さな部分に分解することで、認知負荷を軽減し、効率的に作業を進める手法です。特にWritingの分野で有効であり、生成AIツールを活用することで、動的な構成要素を組み合わせたコラージュのような新しい執筆モデルが提案されています。 この手法は、以下のような利点があります: 大きなタスクを小さなマイクロタスクに分解することで、計画コストを最小限に抑える。 生成AIを活用して、異なる視点を組み合わせながら反復的にドラフトを作成する。 ユーザーの役割が伝統的な著者から編集や構成の意思決定にシフトする。 このように、Microproductivityは効率的な作業進行と新しい執筆モデルの構築に役立つ手法です。
分担分けは人間とAIの得意分野を意識
分担分けをする際には生成AIと人間の得意分野を意識しながら実施します。以下でそれぞれにおける得意分野(個人的な意見も含みます)を記載。
生成AIの得意分野:
要約・解説・分類・抽出・コーチ / アドバイス・チェック...等人間の得意分野(生成AIと比較して):
問いを立てる、意思決定する、設計やデザイン、組み立て、実体験を述べる…等
「設計やデザイン」も生成AIが得意とするのでは、という意見もありますが、多くはいわゆる「コンピューテーショナルデザイン」が受け持つような領域を「期待」を込めて生成AIにやらせようとしていることが多いように思えます。「パワーポイントを使って素晴らしい提案書を作って」のような。
コンピューテーショナルデザインは、計算やアルゴリズムを活用してデザインを創造・解析する手法です。コンピューターの力を借りて、複雑なデザイン課題を解決したり、新しいアイデアを探求したりします。
例えば、従来なら手作業で時間をかけて作成していたデザインも、コンピューテーショナルデザインを使えば、パラメータを設定するだけで多様なバリエーションを瞬時に生成できます。これは、デザインの可能性を無限に広げる魔法のようなものです。
建築やプロダクトデザインの分野では、複雑な形状や構造を効率的に設計するために広く使われています。環境データやユーザーのニーズを取り入れて、最適なデザインを導き出すことも可能です。
ビジネス文書の作成においても、この手法を取り入れることで、データに基づいた効果的なレイアウトやコンテンツの最適化ができます。たとえば、読者の反応を分析して、より伝わりやすい文章や視覚要素を自動的に提案することが考えられます。
具体例で見ていく - ”ドキュメント作成作業” を構造化してみる
ここまでは経験知の記録を解説してきました。これを「ドキュメント作成作業」という業務に当てはめてより分かりやすく解説していきます。
ドキュメント作成作業を分解しながら人間と生成AIで分担をする様子を以下に。
立脚点:何を書くのか
ドキュメント作成はいきなり文章・スライドを書き始めたら負け。まずは誰向けに、何のために、何を伝えたいのか。どんなトーン、どんなボリュームで、等を言語化していきます。ここは主に人間が考え抜く箇所になります。また、後続の工程をしっかり頭で分解しながら作業タスクをイメージします。骨子:目次(ストーリーライン)の設計
立脚点やIssue(問いを立てる)を基にストーリーラインの骨組みの設計を行い言語化・構造化していく工程(設計とデザイン)。ベースは人間が考えます(問いを立てる)。必要に応じて生成AIにコーチをしてもらいながら壁打ち・レビューを繰り返し構造化の参考にすることもできます。立脚点とストーリーラインの磨き上げ
本文を作成する前に、言語化された立脚点やストーリーラインを磨き上げる工程。ここでも人間が考え抜く(設計とデザイン)と共に、生成AIに立脚点をインプットしながら、目次をレビューしてもらうことも可能です。組み立て:文章の大筋を埋めていく
ストーリーラインに沿って人間が本文を埋めていきます。上述の要素が整っていればスムーズに筆が進むはずです。具体例:ファクトの肉付け
ドキュメント内には説得力を持たせるために具体例などのファクトを用いて肉付け(組み立て)することがあります。その際膨大な資料やWeb上の情報をリサーチすることになりますが、ここで生成AIが役立ちます。推敲:全体の流れや詳細を整える
ドキュメントが一旦出来上がります。ここで一度「良い文章はこうあるべき」といったライティングのフレームワーク等を用いて生成AIに文章全体をレビューさせることができます。自分のボキャブラリーを超えるような表現を提案してくれることがあります。最終的には自分で納得できる状態に持ち込みます(意思決定)。最終化
パワーポイントの場合はチャート化を行い、見た目の統一化やプレゼン用に言葉をトリミングするなどを行います。
このように「分解」すると、それぞれの要素で生成AIに任せる部分と人間が考える部分の分担がしやすくなります。
このブログ作成の工程
本ブログ記事もドキュメント作成。当然私は上述のような作業分解を行い、生成AIと共に書き上げています。ここではその工程の一部を紹介したいと思います。
本ブログの骨子の構造化
私の場合は使い慣れているマインドマップツールを用いてまずは目次(第1レベル)とストーリーラインを作り上げます。基本的には考えたり閃いたりしながら自分で作成します。(下図)
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このツールはWordにエクスポートすることができるので、エクスポートしたWordのCopilotを用いて目次に対するアドバイスや別の切り口の目次案等を生成してもらい壁打ち相手となってもらいました。
ファクトの肉付け
このブログ内では「New Future of work 2024」というMicrosoft Researchによるレポートの一部を紹介しています。このレポートは全52ページの英語のドキュメント。当然Copilot用いて該当箇所の要約を瞬時に作成してもらい、本ブログに転記しています。
また、「コンピューテーショナルデザイン」についてもCopilotの解説をそのまま流用しています。
ただし、これらのファクト情報を組み込んでストーリーを強化するという点は自分で考えましたし、上述の情報の断片は頭の片隅にありましたのでこれらの知識をつなぎ合わせて自分でストーリーを編集・組み立てしています。
また、当然お客様からのコメントについては私の「実体験」を述べています。全体のチェック
知人から教わった「良いライティングのチェックリスト」をCopilotに読み込ませた後、本文章を参照させて文章全体のチェックを実施させています。もちろん最後の意思決定は私です。
経験から学んだこと
生成AIを業務環境で活用する、と聞くと最初に「ユーザー皆がプロンプトエンジニアに近づくこと」を思い浮かべるかもしれません。
しかし上述のように、プロンプトのスキルよりもビジネススキルや言語化のスキル、そして人間の脳をよりフル稼働させることへの意識がより大切であることが分かるかと思います。人間の脳リソースを活かす箇所を見極めそれ以外を如何にAIにアウトソースするか。この考え方を基に、様々な業務で生成AIを活用していくことに取り組んでいく方が得策です。
今回はドキュメント作成を題材にしていますが、これに限らず様々な業務で「分解→分業」を駆使して、生成AIの使いどころ、ではなく、人間の脳の使いどころを見つけ出してください!
最後に
最後にGartnerからの引用文を記載します。(もちろんCopilotに見つけてもらいました)
Gartner、2025年に向けて獲得すべきマインドセットを発表
「人間だけ」から「AIとの共生」へ
2030年には、企業の70%で「さらに能力の高いAI」が当たり前に使われるようになるでしょう。こうしたAI共生時代において、最も危険なことは「人が考えないこと」、もしくは「人に考えさせないこと」、すなわち人間の機械化です。人間は、AIやヒューマノイドに職を奪われないよう、機械にできることは機械にやらせ、自分で考え学習する「人間力」を高めることが重要です。そして、「考えない/学習しない組織」から、「考える/学習する組織」への転換が必要です。