【実話】とある日曜の朝
ある夏の日の朝、娘と待ち合わせして買い物へ行く約束をしていました。
通い慣れた駅へは、家から1度だけ曲がるとあとは真っ直ぐな一本道です。
ところが、歩いても歩いても中々駅に辿り着きません。
いつもならゆっくり歩いても10分かからない程度の道のりですが、もう30分以上歩いてる様な気がして来ました。
何かがおかしいと言った異様な空気は若干感じていましたが、迷子になるような道でもないし、見慣れた両脇の景色でいつもと同じように一度曲がってあとは直進したよなぁ・・・等とぼんやり考えていると突然夢から覚めた様な感覚に陥りました。
改めて周囲を見渡してみると何故か全く見覚えのない大きな通りを歩いている自分がいたのです。
私は10年以上この地に住んでいますが、この地域にはこんな大きな通りはありません。
まるで異世界にでも紛れ込んだかのように辺りは広大な路が広がっていて、午前中だというのに車はおろか、人っ子一人も見当たらない。そんな景色が目の前にありました。
焦りと疲れで途方に暮れ、半ばパニックになりながら、一時間前後位でしょうか・・・歩いていると、反対の車線にタクシーが見え、私の目の前をスローモーションの様に通り過ぎて行きました。
私は咄嗟に手を挙げようとしましたが「回送」と表示されていたので、仕方なく諦めて歩き続けることにしました。
そうして途方に暮れて歩き続けていた矢先、先程通り過ぎた筈のタクシーがいつの間にか私の横に停まっていたのです!
「えっ?いつ戻ってきたの?私は手を挙げた覚えはないのだけれど・・・」頭に疑問符が浮かび、呆然と佇んでいると、タクシーのドアが開き、男性の運転手さんから、「お客さんどちらまで行かれますか?」と声を掛けられました。
私は藁をもすがる思いでタクシーに乗り込みました。
乗車後、運転手さんとの会話で判ったことですが、「暑いのに歩いている人が居るなと思い私を見たそうです。顔が真っ青でフラフラ歩いているのを見て、熱中症にでもなったらいけないな」と思い戻ってきてくれたそうです。
「親切なタクシーの運転手さん、有難うございます!!!本当に本当に助かりました!!!」
私は心底感謝しました。
それからどれくらい時間が経ったことでしょうか・・・。
8月のとても暑い日でしたが、車内は凍える程の寒さで私は次第に震えが止まらなくなって来ました。
目的地の駅までは徒歩でも行ける距離である筈なのに一向に辿り着く気配がないのです!!
私は次第に不安になって来て、「このまま乗車していて大丈夫なのか」と思っていた矢先・・・
「お客さん、着きましたよ」と運転手さんから声を掛けられました。
いつものようにタクシー代を精算しようとした時にビックリしたのですが、運転手さんの手が氷のように冷たかったのです!!
降車際に運転手さんに改めてお礼を伝えたところ、「もうこちら側に来ては駄目だよ・・・?」と言われました。
あれはどういう意味だったのでしょうか・・・。
後日談:
後程娘と無事合流でき、私が体験したことを会話している途中で
「ところで運転手さんはどんな人だったの?」と聞かれましたが、服装や車内の詳細は思い出せるのに何故か運転手さんの顔だけがもやがかかったかのように思い出せないのです。
ついさっきまで運転手さんと会話していたのに・・・。
私は結局運転手さんの顔だけが思い出せず、「不思議な雰囲気の人だったよ・・・」としか答えることができませんでした。
今回は何とか駅に辿り着けましたが、「あの時のタクシーが戻って来てくれなかったら・・・。」と思うと未だに怖いです。あの運転手さんは結局誰だったのでしょうか・・・。
この周辺では、まだまだ色々な不思議なことがありますが、その話はまたの機会に・・・。
この度は私の体験談を読んで頂き有難うございました。