連続小説3
不安な夜
41度の熱…
どうすればいいかわからず、体温計を握りしめる。
先月1才を迎えたばかりの息子が、熱玉になっている。
おでこで熱を確認しつつ、頭を撫でる。
「大丈夫だよ。熱いね…くるしいね…
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
がんばれ…」
自分に言い聞かせてるみたい…
「携帯、繋がるようにしておいてね。
もっと熱が上がったら病院連れて行かなきゃ行けないだろうし。」
今朝、旦那にそう伝えたのに…
…連絡がつかない。
またパチンコか、
イタリアンのお店で、女に得意の「前世イタリア人」を語っているんだろう。
何回このパターンを喰らったことか…
あたまの中で、それでも頼りにしようとする学ばない自分に罵倒を浴びせる。
助けてくれる人がいない。聞ける人がいない。
知り合いなどいない、結婚して住み始めた都会のマンションで、子供と2人…
どうはれば…? しっかりしなきゃ、…
消防に電話をする。
「救急車、お願いします!1才の子供が41度の熱で。近所の病院、小児科は今日、やっていないと言われて…」
「すみません、その様子では、救急車は出せないんです」
「…え?
41度ですよ!1才なんですよ!?じゃ、診てくれる病院教えたください!」
「えっと、〇〇医院、あ、でも、診察時間終わりだな…
〇〇区夜間救急が8時からやっているので、そっちに電話してみてください。」
「8時って…まだ2時間以上あるじゃないですか…」
「そうですね、。水分を取らせることに気をつけながら待ってみてください。」
見放された気持ちになる。
怒り、疑問、苛立ち、悲しみ、不安、焦り、孤独、現実逃避…
色々な感情が毛穴という毛穴からにゅるにゅると流れ出し、からだ中を締め上げてくる。
8時きっかりに電話かける。病院受付はすぐ繋がった。病院までは車で40分弱。タクシーを呼ぶ。家計に響くが仕方ない。
到着後、待つことなく受診でき、点滴をしてもらう。軽い脱水を起こしていた。
処置を受けている息子のベットの隣にすわる。
目頭の熱さが抑えられない…
帰りのタクシーは、少し元気になった息子を抱いて、穏やかな時間を送れる、はずだった。
家まであと5分、というところで、息子が吐いた。ほぼ私の手と服でキャッチ出来たが、タクシーの座席と足元も汚れてしまった…
ど、どうすれば…
「あぁ、やっちゃった?」
「すみません!すみません!
あの、ほんとうにすみませんっ!」
運転手さんはタクシーを片側に寄せて一時停止し、車を降りた。
そして、
後ろのトランクから持ってきた2枚のタオルを、わたしに渡し、
「これ、使いなよ。お子さん、もう少し、大丈夫そう?」
と言ってくれた。
再びタクシーは走り出した。
わたしは申し訳なさで、頭がクラクラし、
車のクリーニングっていくらくらいするのかな…
5000円じゃ足りないかな…
そんなことばかり考えていた。
お会計の時、
「本当にすみませんでした…
タオル、ありがとうございました。助かりました。
あの、、これ、足りないかもしれませんが、クリーニングに使ってもらえますか…?」
と5000円を差し出した。
でも、返ってきた言葉は、息子のほっぺたより温かだった。
「いいよ、いいよ、子供のことだから、気にしないでいいんだよ。
それより早く帰って、お子さん寝かせてあげてよ。奥さんも大変だったね。」
その日の出来事を、ささくれだった感情を、全て洗い流すようなやさしさだった。
人に幻滅し、人に救われる。
未来を操る神さまがいるのだとしたら…
相当気まぐれで悪戯っ子、なんだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?