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連続小説4
おれの一番
春。
「お花見に行きましょうよ。」
義母が言った。
「いいね。今週末、行く?〇〇ヶ丘。」
…えぇぇえぇ…?
腰が重い、はずのあいつが、
二つ返事をする…
正直、一才の子供を連れての終日外出は、準備も荷物も、授乳のタイミングも大変だ…
ましてや、
心が声と直通の義母と一緒…
帰宅まで気持ちが、持つだろうか…
土曜日早朝。
お弁当を作る。
サンドイッチ、お稲荷さん。最愛の息子には、さつまいものペーストがいいかな…
マグマグとお白湯、帽子と日焼け止め、ベビーカーは熱がこもるから、小型扇風機も必要だな…
虫除けも持たなきゃ…
早起きしたのに、あっという間に過ぎる時間に汗が噴き出る。
出発予定時間の少し前に起きてきて、ごはんは?と聞くあいつにイラつきつつ、なんとか準備を終え車に乗り込む。
よかった…息子は寝てくれている…
〇〇ヶ丘は家族連れで賑わっていた。
程よく咲いた桜の木の下に場所を見つけることができ、春風もほんわり肌に感じて…来て良かったと、穏やかな気持ちになる。
が、
忘れられない、あの時間。あのことば。
「まぁ。お弁当、ありがとうねぇ。大変だったでしょう。いただきまーす。」
「大したものないけど、まぁ、食べてよっ。」
…おまえが言うか…?
「あら、おいなりさん。いい色じゃない。〇〇も食べてごらんよ。」
「…あぁ、おれ、、
かーちゃんのおいなり以外、食べらんないんだよね…
かーちゃんのはほんと、サイコーだよ♪」
「まぁ!あはは〜 全くこの子は〜 うふふ♪
〇〇さんがかわいそうよぉ。
これもなかなかいけるわよ!お食べなさいな♫」
…こんな時、どうすればいいんだろう…
笑えない自分は、コミュニケーション能力が欠けているんだろうか…
楽しそうに笑い合い、お弁当を食べる二人の会話に吐き気を感じながら…
愛しい息子のくりくりした瞳に救われつつ、子どもの柔らかな髪を優しく撫でることで、自分の感情を無にする。
あたまの中で木馬が揺れる。
あのドラマのマザコン男はだれだっけ…?
冬彦さん、だったかな…
そう言えば、はじめて自分で買ったクルマ、GT-Rの助手席に、はじめて乗せた女性は、かーちゃん、って言ってた…
100歩譲って「親思い」?
…いやいやいやいやいや、、。
不意にあいつに名前を呼ばれ、我に帰る。
「デザート、なんか無いの?」
「あ、ごめん。時間なくて…」
「マジで?前の日に用意しとけよ!」
「なに言ってんのぉ!
準備大変だものねぇ〜。
実は、いちご、持ってきたのよ。〇〇、好きでしょ?」
「さっすが、かーちゃん!
わりーね、気ー使わせちゃって♡」
今すぐ帰りたい気分…
義母はこれまでも、わたしの肩を持ってくれることが多く、有り難い存在、と思っていたが…
あるとき知ってしまった。
親戚、義兄義姉達には、「あのひとは、至らない嫁」と言われていたことを。
優しい隣人が陰で牙を剥く…
平井堅さん。骨身に沁みます。
息子の髪に、ふわりと舞い落ちた桜の花びらを手に取り、
食べてみる…
あぁ…
今のわたしは「幸せ」か…?
「仕合せ」なんじゃないかな…
いつまでこんな気持ちが続くんだろう。
こんな生活、あと何年、、続くんだろう。