連続小説2
いまを生きる
「あぁ〜 もう夏休み、終わっちゃう。登校初日にテストってありえなくない?行きたくなーい!」
テレビを見ながら、スマホをいじりながら、英単語のテキストを広げながら…
15歳の娘は、ずっと文句を言っている。
あいづちは必要ないらしい。
よく喉が渇かないな、と感心する。
「ママ、聞いてる?」
あいづちは必要だったらしい。
高校に通う2人の子供たちは、大人の都合でひとり親世帯に育った。12年間、決して豊かではなく、クリスマスのプレゼントは届いたことがなかったけど、
大きな病気もなく健康で、親想いに育ってくれた。
全てから逃げ出したい、何度も呟いたけど、
子供たちの寝顔にいつも救われてきた。
その度に、逃げ出したいは、守りたいに変わった。
お兄ちゃんが帰ってくる。
「……っま…」
口は開いているんだか、口から漏れてるんだか…。
「いってきます」や「ただいま」は、ちゃんと言わせたほうがいいかな、と思うが、まったく会話がなかった反抗期が落ち着いてきたところなので、
『もしかして、シマウマって言ってたりして。』
なんて考えて、一人ニヤリと笑ってみる。
もしわたし一人きりだったら、12年もやってこれなかったにちがいない。
君たちはこれからも、ママの1番の宝物です。
ありがとう…😌
ずっとこころの奥に閉じ込めている不安がある。子供たちの本心は?
未だ怖くて聞けない。
彼らが中学生の時、晩ご飯を食べながら「スカッとジャパン」をみていたら、
その時の再現ドラマがシングルマザーのお話で、
嫌な予感は的中し、
「これだから片親の子は、野蛮なのよ!まぁ、仕方ないわよねぇ、ちゃんと育てられないんでしょ?」
というセリフが飛び出してきた。
「ひどい!なにこれ!そんなこと絶対ない!」
と娘は怒り出し、
息子は箸を止めて、じっとテレビを見つめていた。
わたしは、
何も言えず、ひたすら白ご飯を口に運んでいた。
反応する、ということは、傷を持っている、ということだろう…
そのあと、どんなふうにその場の空気を変えたのか、覚えていない。
二人の反応だけが、顔色までも鮮明に記憶に刻まれている。
あの日限りで別れていたら…
こんな思いを、彼らにさせることはなかったのかもしれない…
でもそうしていたら、この宝物は、わたしに届かなかったのか…
後悔はいつも、ガリガリとわたしの目の奥を掻きむしり、目を瞑らずにいられなくさせる。