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『星に願う夜』

「星に願う夜」

澄み渡る夜空に、無数の星が輝いていた。静かな田舎の小さな村では、街の喧騒とは無縁の、穏やかな時間が流れている。12歳の少年、直人は、星を眺めながら、毎晩同じ願いを心に秘めていた。

「お父さんにもう一度会えますように。」

1年前、直人の父は遠くの都市で事故に巻き込まれ、この世を去った。父はいつも忙しい人で、家族と過ごす時間は少なかったが、直人にとってはかけがえのない存在だった。父と過ごしたわずかな時間が、今では宝石のように思い出の中で輝いている。

その夜、直人はいつものように家の裏山に登り、星を見上げていた。風が優しく草を揺らし、冷たい空気が彼の頬を撫でる。何か特別な予感が直人の心をざわつかせた。ふと空を見つめていると、ひときわ大きな流れ星が光の尾を引いて夜空を横切った。

「今だ!」と直人は心の中で叫び、強く願った。

「お父さん、会いたい。」

その瞬間、背後から誰かが近づく気配がした。驚いて振り返ると、そこには見覚えのあるシルエットがあった。紺色の作業着を着た男性が、微笑みを浮かべて立っていた。

「直人、星がきれいだな。」低く、穏やかな声が耳に届く。

直人の目には涙が浮かんだ。「お父さん…?」

父は頷いて、ゆっくりと歩み寄る。「よくがんばったな。お前のこと、いつも見てたよ。」

直人は何も言えず、ただ父に飛びついて抱きしめた。温かさと懐かしさが彼を包み込み、今まで感じたことのない安らぎが心を満たした。

「でも、もう時間だ。俺はずっとお前のそばにいるから、安心しろ。」

父の声はどこか遠く、夢の中で聞くようなものに変わっていった。直人は涙を拭きながら「行かないで」と願ったが、次の瞬間、父の姿は星のように消えていった。

気づくと、彼はまたひとり、山の上に立っていた。だが、その胸には父の温もりが残っていた。夜空を見上げると、さっきの流れ星がまるで彼を見守るように、静かに輝いていた。

「ありがとう、お父さん。」直人は小さくつぶやいた。

それ以来、直人は星を見上げるたびに父の存在を感じ、強く生きていく決意を新たにしたのだった。

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