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【中国駐在サバイバル】問題社員を解雇したら不当解雇で訴えられた! で、どうなるの?

中国で一線を越えた問題社員の扱いを議論していると、経営者や日本側から「裁判になったら……」という心配の声が上がります。今回は「もし裁判沙汰になったら、その先に何が待っているのか、特に裁判が不利に進んだらどうなるのか」を見ておきましょう。少なくとも不透明感が生む不安はなくなるはずです。

このnoteは、毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
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先が見えないと不安が募る

特に日系企業は、解雇したい社員がいても裁判が心配でなかなか踏み切れないことがあると思います。今回は、中国で問題社員をクビにして、相手に不当解雇で訴えられたらどうなるのかについて。

先が見えないと不安が募りますよね。私たちは毎年かなりの数の解雇紛争を手がけており、裁判で争うことも頻繁にあります。その経験から、会社が不当解雇で訴えられた場合にどうなるのか、具体的に紹介します。

「それだったら大丈夫」と思うか、「それは大変だ!」と思うかは会社によって違うでしょう。ただ、よくわからないことからくる不安は減らせるのではないかと思います。

解雇後のシナリオ

会社が一方的に解雇した問題社員は、だいたい「騒ぐ」「訴える」かです。

「騒ぐ」というのは法的な訴えはせずに、さまざまな方法で騒ぎを起こすこと。法的手段以外で会社に嫌がらせをする、プレッシャーをかける、泣き落としをするなどの方法で自己の利益を得ようとしたり、会社に腹いせしようとしたりします。今回は騒ぐ場合の「その先」は割愛しますね。

会社を「訴える」場合、元社員は「賠償金」と「職場復帰」のいずれかを求めて訴えを起こします。同時に両方を要求することはできません

「賠償金」は、不当解雇に対する賠償金を払えということ。金額はいわゆる法定経済補償金(中国で条件を満たした場合に支払いが必要となる退職金のようなもの)の2倍と定められています。

賠償金ではなく「職場復帰」(労働関係の回復)を求める人もいます。

賠償金と職場復帰、どちらを選ぶかは本人次第です。また、途中で要求を切り替えることも可能です。会社側から指定することはできません。

それから、不当解雇以外の請求事項を合わせて出してくることもよくあります。未払いの残業代や有給休暇の買取などは典型です。

これらは不当解雇とは無関係の請求事項ですので、それぞれについて判断されます(労働仲裁や裁判所の斡旋による和解成立の場合、すべてを一括して処理することもあります)。

それ以外に、「請求額をできるだけ高く積み上げた方が最終的に自分の取り分が増えるはず」と考え、精神的な苦痛に対する慰謝料や、将来の就業機会を失ったことによる損失補填など、思いつく請求事項を積み上げる人もいます。何十億元を超える金額を求める人もいます。

日本の会社さんは、こういう巨額請求のイメージに不安を持っていることがあります。しかし法的根拠のない請求事項は原則として認められません。因果関係や経済的損失額を証明できない慰謝料や損失補填の支払いを命じられたケースは基本的にないため、不透明な巨額の支払いを懸念する必要はありません。

一方、上述の「残業代の未払い」などは、法的根拠があり、損失額の算定が可能な領域。自社運用で長年にわたり管理者の残業代不払いを続けてきていたりすると、金額が大きくなるケースもあるため注意が必要です。

中国の労働紛争は三審制

中国の労働紛争は三審制です。最初は労働仲裁。どちらかが上訴すると、裁判所で上訴一審、さらにどちらかが上訴すると上訴二審に入り、基本的には上訴二審で最終結果が出ます。それぞれ見てみましょう。

① 労働仲裁

結果は大ざっぱに分けると「和解成立」「会社支持」「本人支持」「痛み分け」の4つです。

和解はわかりやすいですね。最終結果を待たず、お互いが和解に同意した場合です。双方恨みっこなし、和解成立で終結です。

和解が成立しなければ、労働仲裁委員会が裁決を出します。結果は「本人の主張を支持」「本人の主張を部分支持(痛み分け)」「本人の主張を認めず(会社支持)」のいずれかです。

双方に上訴する権利があり(請求対象が少額の場合など、労働仲裁が最終結果となることもあります)、納得できなければ上訴します。どちらかが上訴する場合も、双方が上訴する場合もあります。

レアケースですが、自分の主張が認められたわけではないものの、結果は受け入れるということで、上訴せずに終わることもあります。

② 上訴一審

流れは労働仲裁と基本的に同じです。和解が成立すればここで終結。どちらか/双方が結果に納得できず上訴すれば、二審へと進みます。

③ 上訴二審

上訴二審の結果が最終的な結論となります。和解が成立すれば途中で終結。本人の主張が認められなかった場合や、認められて会社が賠償金支払いを命じられた場合はこれで終結です。

問題は、本人が職場復帰を主張し、それが支持された場合。これだと裁判で最終的な決着とならず、職場復帰させた後にどうするかという問題が継続します。

多くの会社にとっては、これが「想定する最悪のケース」のはず。裁判に負けるわ、当の本人が大手を振って戻ってくるわ、どう管理すればいいのか、本社にはどう説明すればいいのか……。決して見たくない光景でしょう。

敗訴後をどう見るか

「どう勝つか」からの脱却

さて、ここからは会社が敗訴した場合に、それをどう見るか、どう向き合うかを考えていきます。

私がこれまで間接的・直接的に関わった解雇案件は400件は下らないと思います。最初の頃は、いかにして負けないか、会社の主張を通すかという点に注力し、工夫していました。

保証できない世界なので宣伝文句にはしませんでしたが、手がけた紛争のうち98%ぐらいは会社が納得できる形の和解か会社勝訴で終わらせています。初期からお付き合いのあるクライアントには、今も「だいたい負けない方向に持っていくよね」というイメージを持ってもらっているところが多いです。

しかし、コロナ禍を挟んで時代は変わりました。ここ数年、会社の主張に筋が通っていても支持されなかったり、法的根拠に「?」が浮かぶのに本人が支持されるケースが増えてきたという感覚を持っています。

以前の私たちは、敗訴が濃厚なケースでは「いきなり勝負に出ないで他の方法を考えましょう」と言っていました。でも、いろいろな意味で成長・成熟した今、裁判の勝敗より、勝っても負けても会社の大局的な利益を守る方がいい、というように考えが大きく変わりました。

かつては「裁判なんてもってのほか!」だった現地経営者や日本側も、近年は大局的な利益という観点で話をすると「確かにそうだ」と納得してもらえることが増えてきています。

もう「どう勝つか」は重視していない…というと語弊がありますが、最大の焦点を勝つこと・負けないことに置くのはやめました。会社としての大局的な利益を守るために負ける裁判でも活用するという考え方をしています。

賠償金は高いのか

敗訴後のシナリオ、その一は「賠償金の支払い」です。だいたいいくらぐらいになると思いますか。例えば、本人が勤続15年だったとしましょう。不当解雇の賠償金は経済補償金の2倍。ものすごく単純化すると経済補償金の計算式は「本人の年収÷12×勤続年数」ですから、ざっくり計算して約30か月の給与相当額になります。

では、賠償金を出したくないからと解雇を見合わせるとどうなるか。本人がそのまま働き続ければ、会社は給与に加え、社会保険料の会社負担分、さらに残業代、賞与なども支給しなければなりません。2年経過すると会社の負担は24か月×1.5=約36か月分ぐらいになり、賠償金より高くつきます。

負担額が賠償金を上回るまでの期間は状況によるものの、このように比較すると、賠償金の見え方はずいぶん変わってくるのではないでしょうか。勤続15年だったら、3〜4年も解雇せず置いておくと明らかに賠償金より高くつきます。

また、職場にずっと置いておくということは、計算可能なコストには表れないマイナスが実はさらに大きい。早期に去ってもらうことで得られる価値、例えば、真面目な社員たちの士気、不正行為の打ち止め、癒着業者との取引終了などを考慮すれば、辞めてもらいたい人・辞めてもらうべき人には、賠償金を払ってさっさと辞めてもらった方が、トータルで見た会社の利益は大きくなります。

職場復帰のその後

敗訴後のもう一つのシナリオ「職場復帰」。会社もイヤでしょうけど、実は本人もイヤです。いまさら帰ってきても、さすがに「どのツラ下げて」状態ですから。

職場復帰は原則として元の職場・職務に戻すこととされていますが、離職後1年も経てばポジションが埋まっていたり、組織が変わっていたりするもの。裁判所も、復帰した社員のために他の人を押し除けろとか、組織変更で廃止したポジションを復活させろとまでは言いません。元の職位が部長級なら、部長の立場と解雇直前の処遇さえ維持すれば、それ以上の細かいことは関与せず、です。

もちろん会社としては復帰した人に核心的な業務を任せたり、影響力のある重要なポジションにつけたりはしませんから、本人もやりにくい。よほど面の皮が厚くないと、平然として勤務を続けることは難しいと思います。

また、戻ってきたらそれで終わりではないこともポイントです。復帰しただけであって、もう厳しく管理してはいけないわけではありません。何かあれば再び解雇することも、もちろん可能です。

公平・客観的な評価制度に改めた結果、職場復帰後の本人に厳しい評価がつき、だんだん居づらくなることもあるでしょう。いったん戻したら会社の負け、本人が大手を振って職場を謳歌するというわけでは決してない。このことは理解しておいてほしいと思います。

はったりで職場復帰を希望する人

裁判・仲裁では、本人がはったりで職場復帰を希望することがあります。会社が最も嫌がると理解しているからです。

でも、実は本人だって復帰はイヤ。本音はあくまでもお金です。会社が嫌がることをすれば、会社が自分有利な条件での和解に応じやすくなると読んで、とりあえず職場復帰を要求しているケースが圧倒的に多い。

そういう人は「お金なんかいらない、職場に戻してくれ」と訴えますが、私が扱った案件では、その主張が認められて晴れ晴れと職場復帰した人は一度も見たことがありません。最後は要求事項を変えるか、お互いに阿吽の呼吸で妥結点を作って(お金で)終わらせるか、主張が支持されずに終わるかです。

少なくとも私は20年間この仕事をやってきて、本当に喜んで職場復帰を果たしたケースは知りません。会社がイヤなことは実は本人もイヤ。この非常に重要なポイントはぜひ覚えておいてください。

船を降りてもらった時点ですでに目的は達成している

問題社員を放置しておくことは、会社の未来のためになりません。これからの組織づくり・経営のためにプラスになるどころか、むしろマイナス。裁判のリスクを恐れてずっと置いておくのは会社の未来を犠牲にする行為です。

解雇すれば、一時的に騒ぎになったり、賠償金という費用負担が必要になったり、万が一のことがあれば、いったん職場に戻さなければいけなかったりしますが、どれも一時的・過渡的なものに過ぎません。会社の未来とどちらが重要でしょうか。

一時的な負担を引き受けて会社の未来を守った、または会社の未来をつくる選択をしたと考えれば、問題社員に会社から出てもらった時点で本当に大事なことは達成しています。その後の勝敗はおまけに過ぎません。

本質的・核心的な会社の利益は、降りてもらうべき人に船から降りてもらうことにある。これは強調しておきたい点です。

今日のひと言

勝とうが負けようが会社は勝ち

仲裁・裁判に勝っても負けても、問題社員に降りてもらった会社の勝ちです。不当解雇で訴えられたら、ここまでで紹介したプロセスを淡々と進めていくだけ。自社で対応するとメンタル面でも負担が大きいと思うなら、信頼できる弁護士などに任せてしまいましょう。

会社にとっても、社員たちにとっても、解雇後の社員はすでに「外の人・過去の人」。未来をつくる作業に集中していれば、組織はそれに沿って動いていきます。

今回紹介した以上の深刻な事態が絶対に起こらないとは言いませんが、基本的にはこの程度です。解雇するべき状況になったら、いたずらに不安を抱かず、会社の核心的な利益・未来を守るために、大局的に判断してくださいね。

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