手口を知って備えるべし!クビを察知した問題社員の反撃事例35連発【中国駐在サバイバル】
中国の事業環境の変化を受け、問題社員と戦う日本企業を支援する機会が増えています。
今は転職も起業も厳しい時代なので、以前だったら辞めていったような社員も簡単には辞めません。会社も売上の伸びが止まり、固定費の重さに苦しんでいるため、これまでみたいなお手盛りの対応は難しくなっています。
社員の不正やワガママを看過できなくなった結果、長らく黙認・先送りしてきた組織の問題と向き合う方向に舵を切っているのかな、と思います。
今回は、こうした戦いに挑む駐在員の「心の準備」として、不正の追及や問題社員の解雇に踏み切った際に遭遇するかもしれない反撃パターンを35例、並べました。想定される手口はほぼ網羅していますので、保存版として活用してもらえたら嬉しいです。
勝ちパターンと負けパターン
問題社員との戦いには負けパターンと勝ちパターンがあります。
典型的な負けパターンは、解雇しようとした社員が反撃してきたときに、日本側が駐在員を守ってくれず、かえって後ろから弾を打ってきたり、シッポを踏んづけてくる場合です。
「お前ら何やってんだ」「そんな無理筋はやめろ」「もっと穏便に」「相手の言い分もある程度は飲め」……といった声が本社から届くと、腹を括って戦う気でいた現地側は「そんなヌルいことやキレイごとを言うなら、お前が来てやれ」と言いたくなります。
勝ちパターンの方は、同じように反撃してきた場合に本社がブロックします。壁となり盾となり、援護射撃をしてくれる。結果、現地拠点は盤石の状態で問題社員との関係を終わらせることができます。
勝敗の鍵は、本社が味方になってくれるかどうかです。それには駐在員がただお願いしてもダメで、反撃に動揺した本社が「おいおい、どうなってんだ」と言ってきてからでは手遅れ。そうなった後に「大丈夫、想定通りです」と説明しても、なかなか信用してもらえません。
ところが、事前に「こんなことがあるかもしれませんけど、現地ではよくある話なんです。本社はうろたえずにドンと構えて、こういうふうに対処してもらえれば大丈夫ですから」と言っておくだけで、同じような反撃に遭っても「いやー、言った通りだったね」で終わります。
勝ちパターンに持ち込むには、この順番が非常に重要です。
今回は数量重視で細部までは触れませんが、戦いに臨む前にここに挙げた例を日本側に共有して、「こんな可能性がある」ことを伝えておいてください。
【タイプ別 反撃事例】感情爆発!狼藉に及ぶ 編
1. 激高して大騒ぎ
よくある反撃の一つ目は感情爆発。激高して社内で大騒ぎする人がいます。
2. 総経理室で篭城
興奮した社員が総経理室に篭城する。自分だけで立てこもる場合と、総経理などその場にいた人を巻き込むケースがあります。
3. 器物破壊
怒りにまかせてモノを破壊する。駐在員のパソコンを床に投げつけてぶっ壊した人もいました。
4. 家族が乗り込んでくる
怒りにかられた家族が会社に乗り込んでくることも。当然、部外者ですから、本来は勝手に入ってきてはいけないはずなのに、警備を突破して乗り込んできます。
【タイプ別 反撃事例】自傷的脅迫・反撃 編
5. 会議室で大の字
自分を盾に脅迫するケースです。例えば「条件が認められないなら、もうオレはここから動かない!」と会議室で仰向けに寝転がってしまう。会社は無理に抱え起こすわけにもいかず、困ります。
別バージョンとしては「心臓が痛い」と座り込んで「母を呼んでくれ!」と訴えたケースもありました。その社員は60歳近い男性でしたので、母親は80歳ぐらいだったと思うのですが…。要は駄々をこねるということです。
6. 飛び降りるぞ
条件を飲まないとそこの窓から飛び降りる、と言って脅す。凝ったケースでは「解雇するなら、中央政府のお偉いさんが視察に来るときに目の前で会社のビルから飛び降りてやる」と脅してきた人もいました。
7. ガソリン被るぞ
似たパターンで「ここでガソリン被るぞ」とか「農薬を飲むぞ」というバージョンもあります。
8. 故意の転倒で骨折
総経理室や更衣室の前など、監視カメラがない場所を狙って派手に転倒し、尾てい骨を骨折。突き飛ばされたと言って警察に通報した人がいました。監視カメラがないと本人の自作自演を検証できないため、「日本人にやられた」などと言い立てられて面倒なことになりました。
9. 弁護士に慰謝料を要求
弁護士から聞いた話です。解雇された問題社員が一族郎党を引き連れて会社に押し入ろうとしているという連絡を受け、会社の顧問弁護士が立ち会いに駆けつけた。警備員が阻止しているところに加わって抑えようとしたら、触ったか触らないかで相手が突然「ワーッ」と叫んで倒れ込みました。
明らかに演技なのに、監視カメラの角度ではギリギリ状況が確認できず、弁護士が手を出したように見えなくもない。結局、その弁護士が慰謝料を払ったそうです。こういう状況では、触る程度・押す程度も避けなければいけないという教訓。
【タイプ別 反撃事例】個人的脅迫・圧迫 編
10. 社用車を取り囲む
総経理や董事長、現地の人事や総務の責任者を個人として脅迫・圧迫するケース。20人ぐらいで社用車を取り囲み、自分たちの要望を聞き入れるまでここから出さないと言われ、5時間くらい動けなくなったこともありました。
11. こんな写真、持ってます
飲み会やプライベートなどで撮った、日本側に見られると誤解を招くような駐在員の写真を持っていて、「こんなのありますけど」と脅してくる。事実の場合も捏造の場合もある。解雇撤回は難しくても、高額の補償金・賠償金をふんだくるための交渉材料にはなります。
12. 子供かわいいね
現地社員が解雇を主導している場合、いくら問題社員でもあからさまに脅迫することはほとんどありません。万が一、録音されていたり、周囲に聞かれていたら困るからです。その代わり、ぼそっと「娘さん、確か小学1年生だよね。お下げでかわいいよね」などとほのめかします。これは怖いですね。
言われた側は下手をすると子供に危害が及ぶかもしれないと思い、案件から外してくれと言ってきたり、田舎に帰ることになったと会社を辞めてしまったりすることも。こうやってキーパーソンを潰しにかかります。
【タイプ別 反撃事例】会社を脅迫 編
13. マスコミ呼ぶぞ
醜聞を避けたい会社の心理を利用した脅迫もよくあります。「マスコミ呼ぶぞ」と言って実際に記者(の名刺を持った人)などを呼んできます。
14. ネットに書くぞ
最近はマスコミよりSNSの方が多いかもしれません。実際に投稿して大炎上し、公安関係者が会社に来たこともあります。
15. 通報するぞ
「不当解雇だと役所に通報する」「会社の違反行為を当局に通報するぞ」もよくある脅しです。
16. 客先にばらまくぞ
知られたら困るような不祥事・醜聞を客先にばらまくと脅す。会社側に「いや、それだけは待ってくれ」と言わせるためです。
【タイプ別 反撃事例】業務妨害・破壊で圧力 編
17. 役所への通報
脅しではなく、実際に役所に通報するパターンも。役所側は通報があると放置はできないため、会社に聞き取りに来たり、臨時の査察が入ったりします。そうすると、会社も応対しなければいけない。おとがめなしで帰ってくれればいいですが、役所もわざわざ来たわけですから、あれこれ指導や指摘をします。
通報先は代表的なところだけで人社局、消防局、環境局、税務局、安全管理関係など。片っ端から通報されれば対処に相当の手を取られますし、指摘されるようなリスクを抱えている領域だと、会社の心理的負担(ケースによっては対応コストや罰金の負担)も大きくなります。
会社だって、急に役所が相次いでやってきたら「これはあいつの嫌がらせだな」とピンと来ます。本人は直接的な脅迫をすることなく、会社にプレッシャーをかけられる。「条件を飲まないと、さらに通報を続けるぞ」とか「私をこんな目に遭わせたから、会社にも相応の代償を払わせてやる」というメッセージです。
18. 問題の捏造
自分で問題を捏造して業務を妨害したり、「これ、バレたら大変ですよ」と言ってくる。
例えば、解雇予定の社員が会社のお金を自分の口座に不正プールしていたとします。横領する気でやっていても、まだ入金しただけで手をつけていなければ「会社の指示で私がプールさせられていた」と嘘をつけます。
また、事前に解雇を察知した社員が会社の中に反撃材料がないか探したり、探してもなければ誰も気づかないようなところに不良を仕込んで「問題を作る」こともあります。会社は知らないうちに不良品を客先に流してしまい、客先の担当者も気づかず、そのまま市場に出てしまったこともありました。
19. 客先への怪文書
客先と信頼関係ができていて、あらかじめ「そういうことがあるかも」と言ってあればいいんですけれど、いきなり客先や取引先各方に怪文書を送りつけられると、やはり騒ぎになります。
特に、差出人が匿名ではなく今まで会社を引っ張ってきた幹部(実は問題社員)だと厄介です。客先に接点があった人が送った告発文書ですから、弁解のハードルは上がります。
20. 出入口で横断幕
会社の搬出口などに横断幕を設置し、数十人でたむろする。出入りをしづらくする程度の業務妨害です。敷地内に入ってきたら警察を呼べますが、門外をうろつく分には会社も強制排除は難しいです。
21. 資料やデータの破棄
バレないように資料やデータを破棄する。自分の労働契約書を盗む、なくなると会社が非常に困る重要データを密かに消去する。本人に関わる資料の場合、裁判に備えて自分が優位に立つための仕込みだったりします。また、解雇不可避と知った社員が、復讐のために行うこともあります。
22. 故意の不良や破壊
やたら不良が発生する、あるいは設備や治具が壊されたり消えたりする。戦いを始めようとした頃から、こういうことが頻発します。会社に証拠はないし、本人も犯行宣言はしませんが、お互いに意味はわかっています。会社としては、毅然とした対応を急ぐか、供給責任のために手を緩めるか、急所を潰す対策を取るか、選択を迫られます。
23. ストライキ扇動
ストライキ、サボタージュ、スローダウン、残業拒否、休日拒否など、周囲をそそのかして巻き込み、大きな勢力で会社に打撃を与えようとします。
【タイプ別 反撃事例】日本と現地を離間させる 編
24. 全役員にメール
旗振り役の駐在員一派を潰せば何とかなると思い、日本と現地を仲違いさせようとすることもあります。役員や董事会メンバーにメールを送り、現地の経営層の非道や、ありもしないプライベートな問題を書き立て、「知ってしまったために私は解雇されようとしている」と言いつける。相手が引っかかったらラッキー、です。
25. 中方経由で密告
合弁会社の場合には、本人が合弁相手に泣きつき、株主同士のルートを使って日本側にクレームを入れさせることがあります。会社によっては現地の日本人駐在員より合弁相手の話を信じてしまうからです(非常に残念な話です)。そうやって日本側の駐在員主導での処分を阻止し、力関係を引っくり返そうとします。
26. 日本に連判状
日本側をおどかすためなら連判状だって作ります。わざわざ誰かに日本語で書かせて、拇印やサインを入れ、日本に直接送りつけます。こういう形で窮状を訴えることで、「ここまでやるんだから、現地で何かまずいことが起きてるんじゃないか」と本社に思わせます。
27. 元総経理を使う
過去の駐在経験者を利用することもあります。今は帰任して日本勤務になっている元総経理や元駐在員など、自分と仲の良かった人たちを動かして、本社の世論工作をしてもらいます。
【タイプ別 反撃事例】泣き落とし 編
28. これまでの貢献
高圧的なやり方をしばらく続けてみて効果がないと、泣き落しに転じます。「私はこの会社に20年勤めてきました。こんなこともあんなことも、会社と一緒にやってきました。どうして仲間を切り捨てようとするんでしょうか」。これまでの貢献を前面に出して情に訴えます。
日本の会社・日本人は割と情にもろいところがあります。確かに今回の件は許せないが、長年一緒にやってきたんだし、最初の頃を思えば、この人も確かに貢献はしてくれた…とついホロッとして追及の手を緩めてしまいます。
29. お涙頂戴で条件闘争
個人的な苦境を訴えて同情を誘うケースです。例えば、「両親ともに透析を受けている」「実は心臓が悪くてもう働けない」「子供がこんな状況で」「親戚が破産して」などなど。これは解雇回避というよりは、不可避だと悟ってからの条件闘争の一環です。やむにやまれぬ事情を切々と語り、解雇条件に少しでも上乗せしてもらおうとします。
30. 元総経理にすがる
過去の駐在経験者を利用したお涙頂戴もあります。特に拠点で立場の強かった人が日本側に一定の影響力を持って残っていると、本社も無下にはできません。その力関係を熟知している問題社員は、今は役員や顧問になった元総経理などに頼み込む。
「何とかしてほしい」「助けてほしい」と頼られれば元総経理も悪い気はしないし、二人三脚でやってきた昔の記憶も蘇る。で、「まぁ、根は悪いヤツじゃないんだ。そこまで厳しい処分にしなくてもいいんじゃないか」と余計な(と言ったら失礼ですが)茶々や横やりを入れてしまいます。
31. 工会にすがる
32. 上位工会にすがる
工会というのは中国の労働組合です。社内の工会にすがる、もう少し大ごとにする場合はさらに上位団体の工会を巻き込む。工会は労働者を保護するための組織ですから、その力を借りて何とかしようとします。
【タイプ別 反撃事例】弁護士外しを画策 編
33. 弁護士に脅迫された(と主張)
問題社員というのは、基本的に弁護士と話すのを嫌がります。また、ここまで挙げたようなことを一通りやって打ち手がなくなると、最後は「あの弁護士がいるせいだ」と思うらしく、何とかして外そうと画策します。「会社が雇っている弁護士に脅迫された。録音もある。外に漏れたら大問題になるよ」などと言ってきます。
34. 弁護士が暴言を吐く(と主張)
「私は誠実に話しているのに、弁護士は横柄な態度で暴言もひどい。あんな弁護士を雇っていて会社は大丈夫なのか」と揺さぶりをかけてくることもあります。
35. かえって逆効果(と主張)
弁護士を使うのは逆効果だと主張して外そうとするケースもあります。「自分は会社や総経理と話がしたいだけ。そもそも社内の問題なのに、いきなり外部の弁護士だなんて……」「弁護士なんか入れるから、こんな対立関係になってしまって、私も不本意。弁護士は冷たいし、四角四面だし、法律でしか動かない。直接話せば対立せずにすむのに」などと言います。
さて、ここまで35事例、見てきました。いざ問題社員を解雇せざるを得なくなった時は、ぜひ改めて読み直してみてください。本社の関係者にも事前に共有し、「ホントに言った通りだったね」と落ち着いた反応で終われるといいなと思います。間違っても反撃に遭ってから後出しで説明してはダメですよ。
今日のひと言
掌に孫悟空を乗せた気持ちで
強行策、外部の巻き込み、泣き落とし、弁護士外し、日本と中国の離間など、相手はさまざまな手を使ってきます。何が飛び出しても、こちらの基本姿勢は「ま、そんなこともあるよね」。『西遊記』のお釈迦様のように、どんな揺さぶりにも動じず、淡々と対処するのがいちばんです。