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創作落語「珈琲(コーヒー)」

えー、毎度バカバカしいお笑いを一席お付き合い願いたいと思います。
世の中には、嗜好品(しこうひん)と呼ばれるものがあります。
嗜好品とは、匂いとか味、そう言ったのもを楽しむものだそうですね。
嗜好品の代表的なものといえば、最近は少なくなりましたが、やはりタバコですかね。
外国にはシガーバーなんて呼ばれる、タバコや葉巻を楽しむ為のお店もあるようですね。

その他には、ガムですとか、お酒、ジュースですとか、
あと、お漬物なんてのも嗜好品の中に入るのだそうです。

そして嗜好品と言えば、何と言っても、お茶の類(たぐい)ですね。
日本茶に始まり、紅茶、中国茶など、大変愛好者が多いそうです。
中でも、コーヒーなんてのは、もう大変沢山な愛好者がいて、
しかも、こだわりとかも凄いらしいですね。

「コーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い」
なんて言われてるそうで、
なんだか格好いいですね。

日本にも大変沢山のコーヒー好きがいるようなんですが、
このコーヒーが日本に伝わったのは、江戸時代なんだそうです。
長崎の出島で飲まれていたそうなんですね。

それから時が経って、横浜に黒船が来航してからでしょうか、
江戸でもコーヒーが飲まれる事があったようです。

熊五郎:おう八、いるかい?

八五郎;そりゃ、いるけど、熊さんどうしたんだい。

熊五郎:ちょっと八に聞きてぇ事があってよ。

八五郎:俺に聞きたい事?

熊五郎:そうなんだよ、
熊五郎:八、お前、コーヒーっていう飲み物、知っているか?

八五郎:コーヒー? 何だいそりゃ

熊五郎:南蛮のお茶だよ

八五郎:へー、南蛮の? 知らねぇなぁそんなお茶は

熊五郎:そうか、やっぱりお前は知らねぇか・・・

八五郎:やっぱりってなんだよ・・・ったく
八五郎:それで、美味いのかい、その格子(こうし)ってのは

熊五郎:格子じゃねぇよ、コーヒーだよ、コーヒー

八五郎:あぁ・・まぁ、名前何てどうでもいいや、で、美味いのかい、そのお茶は

熊五郎:いや、それが、俺も飲んだ事はないんだよ

八五郎:なんでぇ、熊さんも知らねぇんじゃねぇか

熊五郎:まぁ、そうなんだけどな

八五郎:じゃぁ、どこで知ったんだい、そんなお茶の事を

熊五郎:俺の妹のお千代いるだろ?

八五郎:あぁ、お千代ちゃんな。 お千代ちゃんがどうしたんだい?

熊五郎:いや、お千代がどうしたって訳じゃぁねぇんだけどよ
熊五郎:この前、お千代が勤めてるお茶屋に、ちょっと、お千代の顔を見に行ったんだよ

八五郎:熊さん、またお千代ちゃんに、小遣いせびりに行ったのかい?

熊五郎:まぁ、いいじゃぁねぁか、そんな事は
熊五郎:でよ、そうしたら、そこに、南蛮人が居てな、コーヒーを飲んでたんだよ
熊五郎:それが、あんまりにも美味そうに飲んでやがるからよ、俺にも一杯くれよって言ってみたんだよ
熊五郎:そしたら、イヤだって言いやがってよ

八五郎:なんでぇ、ケチな野郎だな

熊五郎:まぁ、高価な飲み物らしいからな、銭(ぜに)よこせって言われても払えねぇし、まぁ仕方がないさ

八五郎:でも、そんな事聞いたら、お茶好きの俺としちゃ、飲みたくなるじゃねぇか、なぁ、その高知(こうち)ってやつ

熊五郎:高知じゃねぇよ、コーヒーだよ

八五郎:まぁ、名前はどうでもいいよ、飲みてぇなぁその・・・

熊五郎:コーヒーな

八五郎:あぁ、それそれ。何とかならねぇのかな

熊五郎:だろ?
熊五郎:だからよ、俺達で作ろうと思ってよ

八五郎:作れるのかい、その・・・あれを

熊五郎:まぁ、俺も分かんねぇけどよ、作ってみてぇじゃねぇか
熊五郎:だからよ八、おめぇも手伝え

八五郎:手伝えって、どうやって作るんだよ

熊五郎:作り方は聞いて来たんだよ

八五郎:へー、どうやって作るんだよ

熊五郎:何でも、コーヒー豆ってのを煮だすんだとさ

八五郎:コーヒー豆? どんな豆なんだい、そりゃ?

熊五郎:コーヒー豆ってのはこの国には無いらしいんだけどよ、
熊五郎:まぁ、豆っていうくらいだから、似たような形なら、似たような味だろ

八五郎:ふーん、そんなもんかねぇ
八五郎:で、どんな形した豆だったんだ?

熊五郎:俺が見せてもらったのは、大豆(だいず)を半分にしたようなやつだったよ

八五郎:大豆? 大豆ならあるよ、ちょっと待ってな
八五郎:確か台所のところに・・・おう、あったあった、ほら大豆

熊五郎:おう、よしよし
熊五郎:それを黒くなるまで煎(い)るんだってよ

八五郎:そうかい、それじゃ、煎(い)ってみるか・・・
八五郎:って、どうやって煎るんだよ、銀杏(ぎんなん)を煎るみたいな感じでいいのかな?

熊五郎:いいんじゃねぇか、そんな感じで

八五郎:おう分かった、やってみるよ

(大豆を煎る八五郎)

八五郎:お、だいぶ匂いがしてきたな

熊五郎:あぁ、香ばしいな

八五郎:でもよ、熊さん
八五郎;だいぶ焦げ目はついて来たけど、あと、どれくらい煎ればいいんだい?

熊五郎:うーん、もうそろそろいいんじゃねぇかな。
熊五郎:それ以上煎っても、焦げ臭くなるからよ。

八五郎:そっか、じゃぁ、この辺にしとくか。
八五郎:で、この後は、どうするんだい?

熊五郎:豆を煮(に)出すんだってよ

八五郎:煮出す?
八五郎:えーっと・・・じゃぁ、火鉢に鍋を乗っけてっと
八五郎:これで煮出していけばいいんだな

熊五郎:あぁ、それでいいと思うな

(大豆を煮だす八五郎)

八五郎:なぁ、熊さん
八五郎:大分煮詰めたけど、これ、あとどれくらい煮詰めればいいんだい?

熊五郎:そうだな・・・分からねぇから、ちょっくら飲んでみるか?

八五郎:そうだな

(二人でコーヒーを飲む)

八五郎:・・・熊さん、コーヒーってこんな味なのかい?

熊五郎:・・・うーん、煮出しが足らねぇのかな

八五郎:じゃぁ、もう少し煮出してみようか

(再び煮出す八五郎)

八五郎:もういいかな・・・どれどれ

(コーヒーを飲む二人)

八五郎:熊さん、これ美味いかい?

熊五郎:あんまり美味くねぇなぁ、
熊五郎:何だか薄い出汁汁(だしじる)飲んでるみてぇだな、こりゃ

八五郎:熊さん、騙されたんじゃぁねぇのか?

熊五郎:騙されたってどういう事だよ
熊五郎:お千代の所の客だぞ、いい成りしてたし、異国の金持ちが俺達を騙(だま)したって何の得にもなりゃしねぇだろ
熊五郎:それによ、そんなに悪い奴には見えなかったんだよ

八五郎:それじゃぁさ、熊さんが全部聞いて来なかっただよ
八五郎:きっと、もっと色々入れてんだよ?

熊五郎:あぁ、そうかもしれねぇな、俺もそそっかしいからなぁ

八五郎:しっかりしてくれよ、熊さん
八五郎:じゃぁ、何が足らねぇんだろうな?

熊五郎:そうだな・・やっぱり、味としては昆布(コブ)じゃぁねぇかな?

八五郎:昆布かぁ・・・そうかもしれねぇな。
八五郎:じゃぁ、昆布入れてみるか

熊五郎:あぁ、そうだな、入れてみるか

(昆布を入れて再び煮出す、熊五郎)

八五郎:熊さん、昆布もだいぶ煮出せてきたぞ

熊五郎:おおそうだな、じゃぁちょっくら飲んでみるか

(二人でコーヒーをのむ)

八五郎:うーん、少しは良くなったけど

熊五郎:そうだな・・・まだ何か足らねぇんじゃないかな

八五郎:何だろうな

熊五郎:じゃぁ、カツブシかな?

八五郎:カツブシか・・・そうかもな
八五郎:じゃぁ、入れてみるか

(カツオ節を入れて煮込む)

八五郎:これくらい煮出せばいいかな

熊五郎:じゃぁ、ちょっくら飲んでみるか

(二人でコーヒーを飲む)

八五郎:うーん、だいぶ良くなって来たけど

熊五郎:でも、やっぱりまだ何か足らねぇ気がするな

八五郎:なんだろうなぁ足らないものって・・・・
八五郎:熊さん、思い出して見なよ、何かあるだろ

熊五郎:そんな事言った・・て・・あっ!

八五郎:どうした熊さん、何か思い出したのかい

熊五郎:そういえば、コーヒーの色ってもっと黒かったよ

八五郎:黒かった?

熊五郎:あぁ、黒かった、真っ黒だったよ

八五郎:黒いってどうすりゃいいんだよ

熊五郎:うーん・・・そりゃ多分、醤油だな

八五郎:あぁ、そうだよ、きっと醤油だ!
八五郎:熊さん、やるじゃねぇか

熊五郎:おお、俺は料理がちょいと出来るんだよ
熊五郎:まぁ確かに、醤油みてぇな色してたな

八五郎:醤油か・・・ちょっと待てよ

(台所から醤油を持ってくる)

八五郎:よし、じゃぁ、醤油いれるぞ

(醤油を入れる八五郎)

八五郎:どうだい、熊さん、これぐらいかい?

熊五郎:うーん、もう少し黒かったかな

八五郎:ほう、結構入れるもんだな

熊五郎:あぁ、結構黒かったぞ

(醤油を入れる熊五郎)

八五郎:こんなもんでどうだい?

熊五郎:色はこんな感じかな

八五郎:そうかい、じゃぁちょっくら飲んでみるか

(二人でコーヒーを飲む)

熊五郎:・・・

八五郎:・・・

(二人で顔を見合わせる)

八五郎:・・・いいんじゃねぇか?

熊五郎:あぁ、ちょっと濃いめだがいい味だな

八五郎:何だか蕎麦(そば)が食いたくなる味だな、こりゃ
八五郎:南蛮人ってのは、こんなものを美味い美味いって飲んでるんだな

熊五郎:そりゃ、やっぱり、あれだな、
熊五郎:南蛮の奴らも、やっぱり美味いと思うものは同じって事なんだな

八五郎:ははは、そりゃ違いねぇや

それからというもの、熊さんは麺つゆの事をコーヒーと言って自慢したという、
おなじみ、コーヒーの一席、
お後がよろしいようで

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